花田欣也のすばらしきトンネル道

普段何気なく通るトンネルだが、日本全国には道路トンネルが約11,000本、鉄道トンネルは約5,000本あるといわれている。とくに各地の旧道や廃線跡などには、かつて地域交通や産業の重要なルートとなっていた歴史を秘めながら、今は通る人も少なく山中にひっそりと佇んでいるトンネルが多く存在する。
そんな全国のトンネルの中から自治体や事業者に通行を許可され、「安全・安心」に見る・歩くことができるトンネルをその魅力とともに紹介していこう。

今回紹介するのは線路をレールマウンテンバイクで走り、トンネルを抜ける岐阜県飛騨市の旧神岡鉄道跡。第3セクターとして貨物輸送を担っていた神岡鉄道の廃線を利用している。

※トンネルは現地状況により通行できない場合もあります。事前に地元の関係先(自治体の観光課や観光協会など)に確認されると安心です。

文・写真(特記以外)/花田欣也

花田欣也

トンネルツーリズムプランナー(トンネル探究家)、総務省 地域力創造アドバイザー、一般財団法人地域活性化センター フェロー
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岐阜県飛騨市

旧神岡鉄道跡「レールマウンテンバイクGattan Go!!」

国鉄時代から神岡鉱山の貨物輸送を主に運行されていた第3セクターの神岡鉄道は、2006(平成18)年に廃止されたが、その後、NPO神岡・町づくりネットワークが飛騨市と連携し、「レールマウンテンバイクGattan Go!!」を運行している(要予約。JR高山駅などからバスとタクシーがセットされたプランもあり。詳しくはHP参照。)
今年3月に公開されたBoys be/関西ジャニーズjr.池川侑希弥が主演の映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』のロケ地としても注目されているトンネルだ。

レールマウンテンバイクにオプションでチャイルドシートなども装着することができる! 画像提供:NPO神岡・町づくりネットワーク

高い山々に囲まれた渓谷コース(漆山駅~二ッ屋駅)

廃線跡の一部に、溪谷コース、まちなかコースと名付けた2区間があり、電動アシスト付き自転車(2台が台車でつながれたシンプルな仕組み)で走る。
渓谷コースは漆山駅~二ッ屋駅間の片道3.3km。両側を高い山々に囲まれた峡谷を通る単線のレール上を漕ぐのだが、とにかく周囲は大自然そのもの!前の自転車と間隔が空くと、聞こえるのは風の音と、“タタン、タタン“というレールの継ぎ目を通過するときの音、だけ。途中、橋を通ると、眼下に高原川の清流が見えている。思わず唸るほど綺麗だ。

溪谷コースを走るとシェッドのトンネルが見えた!

そして、お待ちかねのトンネルは2本。まず、漆山第1トンネル。豪雪地域ならではの青いシェッド(落雪覆い)で、台形のような形をしたポータル(入口)から入る。430mの長い闇の中を“電チャリ”で走る。

鉄道ファンなら、運転席後ろの“かぶりつき”で前面を眺めたことがあるだろう。それと同じような光景が眼前に広がる中、自分の体を“トンネル風”にさらしながら、トンネル出口の小さな光を目がけて走るのだ。

トンネルを抜けると、赤の鮮やかなトラス橋を渡り、漆山第2トンネル(285m)へ突入する。この、目まぐるしいスペクタクルな展開!興奮のうちに折り返し地点の二ッ屋に着く。なお、渓谷コースは2人からの利用となる。

溪谷コース トンネルから赤い鉄橋、さらにトンネル!

溪谷コース 高原川を渡る鉄橋
画像提供:NPO神岡・町づくりネットワーク

街&トンネル&橋上駅&トンネルのまちなかコース
(奥飛騨温泉口駅~神岡鉱山前駅)

まちなかコースは、奥飛騨温泉口駅~神岡鉱山前駅間の片道2.9km。奥飛騨温泉口駅は、神岡鉄道時代の終着駅で、当時のプラットホームやヤード(車両の留置線)がほぼ原形のまま残り、機関車など保存車両も見られる。春はホームに沿うように桜が咲いて美しい。

レールマウンテンバイクで駅を出ると、たしかに“まちなか”の風景が展開し、神岡の住宅の裏手も走る。住宅は道路に面し、鉄道がその裏手を走る風景は、全国の鉄道でよく見られるもので、土地の生活が垣間見えることは鉄道の魅力のひとつでもある。

トンネルは、“まちなか”の風景から唐突に登場する(神岡第2トンネル)。宅地の傾斜地(法面)に設けられたトンネルで、ポータルの断面は右側が斜めにカットされている。352mのトンネルの“闇”は、違う景色へ連れてってくれる。

まちなかコースの神岡第2トンネル
画像提供:NPO神岡・町づくりネットワーク

トンネルを出ると、橋上に設けられた飛騨神岡駅の片側ホームを通り抜ける。「ひだかみおか」と記された縦型の駅名標示灯が残り、国鉄時代からのものだろう。

橋の上にある飛騨神岡駅の先に待つ神岡第1トンネル
画像提供:NPO神岡・町づくりネットワーク

そして駅を挟んで、またトンネル(神岡第1トンネル)。「おお!トンネル&橋上駅&トンネルだ!!」と、筆者は興奮の極みである。524mの長いトンネルを抜けると、折り返し地点の神岡鉱山前駅に着く。車庫があり、神岡鉄道時代の車両(おくひだ号)が保存され、運転体験(有料)も定期的に行われている。広い駅構内に残る多くの線路から、鉱石を積んだ貨物列車が行き交ってきた姿が目に浮かび、飛騨の山深いまち・神岡が鉱山で栄えた歴史を感じた。