更新日: 2024年11月28日
東京から電車で2時間、奥武蔵で人気ナンバーワンの伊豆ヶ岳で晩秋の紅葉を満喫しよう!子ノ権現では足腰の健康祈願、ふもとの秩父御嶽神社の紅葉は今がまさに見ごろ
奥武蔵・秩父エリアでも最もポピュラーで人気の高い伊豆ヶ岳と足腰の神様として知られる子ノ権現を結ぶコースは、「関東ふれあいの道・伊豆ヶ岳を越えるみち」にも指定されていて多くの人々に歩かれています。今回は北面にクサリを垂らす岩壁をはじめ、四季折々に変化を見せる魅力的なこのコースを「山と高原アプリ」を携えて歩いてみたいと思います。
執筆・写真:山と高原地図「奥武蔵・秩父」著者 奥武蔵研究会会長 小泉 重光
目次
1.正丸駅から長岩峠へ
都心から電車に揺られ、2時間ほどで伊豆ヶ岳の登山口となる正丸駅(しょうまるえき)へと到着。伊豆ヶ岳が都民のレクリエーション対照として登られるようになったのは、西武鉄道の前身であった武蔵野鉄道が池袋駅から吾野駅(あがのえき)まで敷設された昭和初期のことでした。そして、その頃の登山道は吾野駅からバスに乗って畑井バス停にて下車し、花桐(あなぎり)参道(男坂)から伊豆ヶ岳山頂へ向かうコースが主だったのです。やがて西武秩父線が敷かれて正丸駅の営業が開始されると同時に路線バスが廃止され、伊豆ヶ岳へのアプローチも今回辿る大蔵山参道(女坂)がメインルートとなりました。
正丸駅前の休業中だった正丸駅売店はリニューアルされ、今春から更衣室を備えた「山小屋」として営業を再開しています。
正丸駅で準備を整えてから特徴ある斜めの階段を下り、「山と高原地図」アプリの「ルート記録開始」ボタンを押してスタート。右手に大蔵山集落を眺めながら川沿いに進んで行きます。地蔵堂を過ぎてしばらくすると、大岩のそばに馬頭尊(ばとうそん)の祭られた祠があり、そこが正丸峠と長岩峠(ながいやとうげ)へと向かう道の分岐点。近代まで山間地の物資輸送は駄馬たちに委ねられていたので、集落間を結ぶ主要な旧道には馬頭尊が多く建立されています。この分岐を右に行くと正丸峠ガーデンハウスに出ますが、この旧道はさらに旧正丸峠へと続いていました。一方の大蔵山参道は左に進んで山道となり、長岩(ながいや)を経て長岩峠へと繋ぎます。
「山と高原地図アプリ」の利便性は、所要時間がルート毎に記載されていて計画が立てやすいことに加え、GPSにより電波を受信できなくても現在位置が確認できるという点が挙げられます。筆者はスマホのメモリーを圧迫しないよう、7インチのWi-Fi専用タブレットにも「山と高原地図アプリ」をインストール。気になる場所では内蔵カメラで写真撮影したうえスクリーンショットを保存していますが、タブレット画面をスマホで撮影してしまうこともあります。
そうして長岩(亀岩)から標高を上げていくと落葉樹が多くなり、ひとしきり登って尾根へ出るとすぐに長岩峠となります。
道迷い対策には山と高原地図アプリ!!インストールしてから登山へいこう
山と高原地図アプリを使えば、自分の今立っている場所が人型のシンボルで表示されます。また、自分の向いている方角(スマートフォンの正面が向いている方向)が扇形に示されるので、道迷いのリスクが格段に下がります。これらの機能はGPSの測位によるものなので、スマートフォンが圏外でも使用可能です。
また、歩いてきたルートも同時に記録できるので、山行記録の整理にも持って来いの便利なアプリです。
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2.信仰の山だった伊豆ヶ岳
長岩峠からは尾根道と旧道が並走しています。旧道は大蔵山参道(女坂)であり、クサリ場前の広場で花桐参道(男坂)と合流します。この二つの伊豆ヶ岳への参道の起点となる畑井集落には、ウブスナ山の山頂に伊豆山権現が鎮座していて、男坂と女坂をそれぞれに登って来た男女が、社前で山ツツジの枝をハート型に結ぶという風習がありました。江戸時代に編纂された『新編武蔵風土記稿』の南川村項にも「伊豆ヶ嶽」の山名が見えるので、或いはこの風習を旧南川村全域にまで拡大させたのかも知れません。ともあれ、戦前の吾野近郊を紹介した案内書には「伊豆ヶ嶽神社」の記載があり、実際に山頂には大山祇神、虚空蔵菩薩、大日如来、そして愛宕様が祀られていました。
残念ながら戦前の心ないハイカーにより、山頂付近に座していた虚空蔵菩薩の石像は崖下に落とされてしまいます。その後、戦後の高度成長期を迎えて伊豆ヶ岳の登山客も飛躍的に増大し、山頂をはじめ正丸尾根の各所に茶屋ができて隆盛を極めました。
クサリ場前の広場から男坂と女坂は再び分岐しますが、近年になって女坂の一部が崩落してしまったため、代替道を登ることになります。頂上付近に出ると男坂方面にはロープが張られているものの、少し進んだ場所には虚空蔵菩薩が建立されていた岩場があり数多の岳人を魅了した風景が望めます。この日は秋晴れで伊豆ヶ岳山頂付近の紅葉も始まっていました。
3.伊豆ヶ岳から子ノ権現へ
伊豆ヶ岳山頂(850.9m)から落葉を踏んで急坂を下り、尾根伝いに続くピークを目指して登ると東屋の設けられた古御岳(こみたけ)山頂となります。この山頂は落葉樹に囲まれており雰囲気も良いので少し長めの休憩タイム。
その後、次の休憩ポイントに予定している天目指峠(あまめざすとうげ)までは下り基調となりますが、高畑山(695m)に近づくにつれて杉・ヒノキの植林に転じていきます。そして高畑山(標柱の「ナローノ高畑山」は「楢生(なろう)の高畑山」の意)を過ぎると、高圧線鉄塔のある眺望の良い場所に飛び出します。そこから中ノ沢ノ頭(622.7m)を通り過ぎる辺りまでは、登山道と作業道が絡み合うので要注意。
コースに不安を感じた時は「山と高原地図アプリ」で位置確認を忘れずに。さらにこのコース場合、「山と高原地図アプリ」には1/30,000地図が収録されているので、より詳細な地図を活用すると良いでしょう。
山ノ神祠の祀られた雰囲気の良い天目指峠ですが、旧秩父往還(国道299号)と旧名栗街道(県道53号)を結ぶ主要な峠であったので、昭和35年(1960年)には車道が開通しています。したがって南川側、名栗側ともに古い峠道を探るのはもはや至難の業です。現在は県道395号が峠付近を越えていますが、切通しに東屋があるのでおとなしく休憩することにしました。
天目指峠から子ノ権現(ねのごんげん)までは1時間とはかかりませんが、愛宕山を含め小ピークのアップダウンを繰り返しながら歩きます。より地形を把握するために「山と高原アプリ」の[詳細図]画面に切り替えておくと良いでしょう。また、伊豆ヶ岳と子ノ権現については1/30,000詳細地図にそれぞれの周辺略図の記載があります。
愛宕山に鎮座する愛宕社の鳥居をくぐるとすぐに穴沢峠と子ノ権現への分岐となり、子ノ権現手前の鞍部で古御岳と伊豆ヶ岳が遠望できます。
参考までに、周辺の「山と高原地図アプリ」の画面比較した画像を掲載しておきます。広域図と詳細図ではここまで見やすさが変わりますので、詳細図の範囲内では活用することを強くおすすめします。
4.子ノ権現の伝説
子ノ権現は、子ノ聖(ねのひじり)が十一面観音を奉じて結んだ草庵を長和元年(1012年)に弟子の恵聖上人が譲り受けて天龍寺とし、子ノ聖を祀って子ノ権現社を創建した山上の霊地です。古くから足腰の神様として信仰を集め、現在も老若男女を問わず多くの人々が訪れています。茅葺き屋根の本坊前を通って子ノ権現本堂にて参拝した後は、鐘楼と釈迦堂のある奥ノ院・経ヶ峰へと登ってみました。まだ紅葉はそれほどでもありませんでしたが、東側の眺望が素晴らしく遠方に東京スカイツリーが望める展望台となっています。
経掛石は子ノ聖が月山から投じた般若経が光を放って留まったので、来迎岩とも呼ぶのだとか。奥ノ院から本堂を見下ろすと、辺りは錦秋に染まっていました。
子ノ権現にはいくつかの参道がありますが、天龍寺橋の落ちてしまった日用参道を除いた他の参道はいずれも辿ることが可能です。このうちもっとも子ノ聖にまつわるものが吉延参道で、聖が差した箸が根づいたとされる二本杉から車道を跨いで吾野駅方面へと向かいます。そして、ひとしきり下ると見えてくるのが山ノ神社と降魔橋。山上で光る経典を目当てに登って来た子ノ聖は、この地に棲む魔物達に妨害されて火炎に包まれ足腰に大火傷を負うのですが、突然出現した龍の降らす雨に助けられて魔物を降参させた聖地として下天寺(しもあまでら)と呼んでいます。(天寺は天龍寺の略称)
さて、正丸駅から歩き始めたこのコースですが、ゴールの吾野駅まで休憩を含め6時間以上かかりますので、とくに日没の早いこの季節は早朝からのスタートを心掛けてください。吾野駅手前の「中尾の切通し」には街灯が無く、遅くなってしまった場合には足下を照らすライトも必要となります。
5.その他、吾野駅周辺の見どころ
今回のコースは距離もあるので時間的に立ち寄れないかも知れませんが、吾野駅周辺の見どころも少しご紹介しておきましょう。
前述の伝説では子ノ聖を助けた龍は青場戸の不動ノ滝から出現しますが、雨を降らせて炎を鎮火させた後、天龍寺の寺宝となる龍鱗石を落として岩殿観音の宝珠洞へと姿を消しました。この岩殿観音は駅前の法光寺の奥ノ院とされ、宝珠洞には十一面観音像が納められています。周辺には「宝生の滝」をはじめとして「矢書き不動」や「弘法の硯石」などを有して霊地の雰囲気を醸成しています。
また、紅葉の名所として知られる芳延の秩父御嶽神社についてですが、「もみじまつり」の本祭りが本年度は11月23日(土)より開催されます。
6.今回歩いたコースはこちら
スタート:正丸駅
→正丸峠分岐
→長岩峠
→伊豆ヶ岳
→古御岳
→高畑山
→天目指峠
→子ノ権現
→ゴール:吾野駅
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】山と高原地図 編集部
『山と高原地図』シリーズは、1965年より毎年発行、登山を楽しむ方に長く親しまれ続けているロングセラー登山地図。深田久弥による「日本百名山」をすべて収録し、主要な山岳エリアを網羅しています。
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