更新日: 2024年10月16日
移住のきっかけとなった「薬草会席」との出会い 薬草天国・飛騨から伝える植物の力【vol.01】
「飛騨には薬草を食べて元気に暮らしている人たちがいて、薬草料理を出す宿がある」
そう書かれた本に導かれるようにして、私は飛騨にたどり着きました。それまでの仕事で疲れた心身を植物の力で元気にしたいと思ったからです。
2018(平成30)年の夏に移住してから早くも5年半。日々「その辺で当たり前に」生きている植物たちに力をもらいながら生きています。この連載では、それらを食べたり塗ったり香りを感じたりしながら楽しむ暮らしを、皆さんと共有できたら幸いです。
植物に元気をもらいたいと思ったきっかけ
新卒で銀行の営業をしていた私は、数字や上司からのプレッシャーを受けて体が通勤拒否状態になってしまったことで少しの休暇を取っていました。
そんなときにフラワーアレンジメントを始めるきっかけがあり、そこから植物との縁が繋がっていきました。花を一輪活けるだけで、不思議なことに優しさや勇気が湧いてきて、だんだんと笑顔が増えている自分に気づきました。
そして人生を変えることになる生花店と出会い、そこで働き、その後フランスに渡ることになり……ところが、大好きな花に囲まれて働く中でも、体の不調を感じるようになっていたのです。
花屋は、切花の鮮度を保つために夏は冷房で冷えすぎ、冬は暖房なしで極寒という環境。それに加え、重い鉢や大量の水を運ぶ日々。「このままでは体がどうかなってしまう」そう思った私は、「体の中から体調を整えることが必要」と感じるように。
そしてそれを調べるために向かった本屋で新田理恵さんの『薬草のちから』(2018年5月刊/晶文社)と出合い、それが飛騨市への入口となったのでした。
違和感なく食べられた薬草料理
初めての飛騨市。目指したのは薬草料理の宿、蕪水亭でした。前日に黒部峡谷に泊まっていた私は、道中、沿線火災と代行バス乗継というハプニングに遭いながら夜10時に到着。それでも食べさせてもらった薬草会席は、薬草の味のイメージすら浮かばなかった私をすんなりとその世界に引き込むものでした。
「草がどんな料理になって出てくるのか? いろいろな草があるけれど、全部同じような味になるのでは?」なんていう疑問を抱いていた自分はどこにいったのか。
苦い葉っぱは苦くなく、しつこそうな葉っぱは違和感なく胃の中に入っていく。8種類の薬草が入っているというが、どこにも葉っぱが見当たらないスープや煮物には薬草を出汁として使っているという。特別な料理というより、普通に和食を食べているような感覚でペロリといただいたのでした。
飛騨市に生きる〝草〟とまちづくりの一員として
「こんな風に草をおいしく食べることができるのなら、私も元気になれるかもしれない」そう感じた私は、2カ月後、まるで運命かのように、飛騨市の薬草専任の地域おこし協力隊募集に出会います。そして、無事採用され移住。市の薬草事業の事務局を中心に、薬草のまちづくりに取り組んでいる飛騨市で薬草の普及担当として活動を始めました。
森林率が74%、その内の70%がほぼ落葉広葉樹という、ミネラルが循環する素晴らしい土壌を有するこの地に育つ「何か体にいい草」は約250種類。それらをおいしく食べたり、お風呂に利用したりする方法を伝える講座を運営したり、通信を発行したり、市内外の薬草人とイベントを開催したり……。また、着任して1年後にできた薬草の体験施設「ひだ森のめぐみ」の運営に携わったり。
そして2024年4月に独立し、今は「Lib.(りぶぽわん)」として薬草に関するワークショップを各地で展開しています。
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】Lib.
愛媛県生。大阪、福岡、千葉、東京で過ごす。銀行の営業等を経て、パリとニューヨークに渡り花業修行を積む。自分を植物で元気にしようと2018年8月飛騨を訪れ、同年10月から地域おこし協力隊、2021年11月から地域プロジェクトマネージャーとして飛騨市の薬草事業を担当。イベント企画や通信執筆、薬草体験施設運営、メディア出演等に関わる。2024年4月からLib.(りぶぽわん)として薬草イベントを展開中。