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江戸グルメを堪能し、200年前と変わらぬ宇津ノ谷峠へ 東海道五十三次ちょこっと半日ハイキング【vol.05 府中宿~丸子宿~岡部宿】 PHOTO:加藤桂子

加藤きりこ

更新日: 2024年10月2日

江戸グルメを堪能し、200年前と変わらぬ宇津ノ谷峠へ 東海道五十三次ちょこっと半日ハイキング【vol.05 府中宿~丸子宿~岡部宿】

江戸時代の主要幹線だった東海道。開発が進み往時の面影のない地も多いですが、山道や峠道には昔の名残が感じられます。

今回は、駿府城のあった府中宿を出発して宇津ノ谷峠を越え、岡部宿へと向かうコースです。

静岡駅前の喧騒を抜けて安倍川へ

江戸から19番目の宿場である府中宿は、現在のJR静岡駅近くに広がっていました。駅から商店街の方へ歩いていくと、江戸時代に高札が建てられた「札之辻跡」など、案内板やモニュメントが立っています。15分ほど歩くと、徳川家康が築城し、晩年を過ごした駿府城があった「駿府城公園」も広がっています。

呉服町通りと七間町通りが交わる角に立てられている札之辻跡の碑

この日は城へは向かわず、市街地を抜けて住宅街を西へ。ショッピングビルやおしゃれなカフェなどが並ぶ道を進みます。道路上に「旧東海道」の案内などの名残はあるものの、古い時代の面影はなかなか感じられません。

※国土地理院(電子国土Web)にスポットとルートを追記

30分ほど歩くと、安部川に差し掛かる少し手前に、趣のある店を見つけました。江戸時代から続く、安倍川餅の店「石部屋(せきべや)」です。安倍川餅は古くからこの辺りの名物として知られています。その昔、安倍川岸の茶店に徳川家康が立ち寄った際、献上された餅を家康がたいそう喜び、「安倍川餅」と名付けたという伝承も残っています。

店の中には古い看板などがかけられていて、緋毛氈の敷かれたベンチや小上がりで、安倍川餅が食べられるようになっています。

趣のある佇まいの石部屋

店に着くや否や、店の女性が「安倍川餅でいい?」と勢いよく聞いてきました。ショーケースの中にはサンプルと値札がありましたが、それを見て悩む間もありません。安倍川餅のほかにも餅の種類があるようでしたが……。

店内のベンチに腰掛けて待っていると、奥で作られた安倍川餅とお茶がお盆に載せられてやってきました。きなことあんこの2種の味があり、ひとつひとつはそんなに大きくないものの、それなりに食べごたえがあります。口に入れるとやわらかい餅の食感とともに、やさしい甘さが広がりました。

やわらかな安倍川餅に舌鼓(PHOTO:加藤桂子)

とろろ汁を目指して丸子宿へ

餅を食べ終えたら、次の丸子宿へ向かいます。そこでは、名物として有名なとろろ汁を食べるのが目的です。
川幅の広い安倍川に架かる橋を渡って、歩くこと約1時間。途中にはかつての様子をわずかに感じさせる松の木なども見られます。

今は川の水量も少なく、川原が広がり長い橋が架かっています(PHOTO:今泉慎一)

丸子の街の旧東海道には松の木が植えられていました(PHOTO:今泉慎一)

周囲に「丸子」の地名が見え始め、一里塚跡の案内板が現れます。かつての丸子宿のあたりの道はあまり広くはなく、道の両側に建つ民家の玄関先には、屋号の入った看板が掲げられていました。江戸時代の風情を感じさせます。

丸子宿の脇本陣跡の碑

そこからさらに進むと、やがて大きなかやぶき屋根の建物が現れました。
ここは400年以上続くとろろ汁が名物の「丁子屋」。江戸時代のベストセラー『東海道中膝栗毛』で、弥次さん喜多さんも立ち寄った店です。丸子の名物茶屋として歌川広重も浮世絵に書きました。現在の建物は、残念ながら当時のものではなく、かやぶきの古民家を移築したものです。

かやぶき屋根の古民家を移築した丁子屋(PHOTO:加藤桂子)

歌川広重「東海道五拾三次 鞠子 名物茶屋」/出典:国立博物館所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10594)

創業は江戸時代よりも前の慶長元(1596)年といわれています

中に入ると店は多くの客でにぎわっています。整理番号をもらい、店の中で順番が来るのを待ちます。入り口から奥に進むと、そこは資料館になっていました。

「丁子屋」は明治や大正、昭和に建てられた古民家の集合体なのだそう。番号を呼ばれると、昭和の建物の座敷席へ。とろろ汁と麦飯、みそ汁、香の物の丸子セットと、すった山芋と豆腐を揚げたおかべ揚げを注文して、しばらく待つことに。訪れたころは春先だったので、開いた窓からは心地よい風が入ってきていました。

とろろを待つ時間、乾いたのどをサイダーで潤す

やってきたとろろ汁は、ひとりにひとつ、麦飯のおひつがついています。茶碗に自分で麦飯を盛り、とろろをたっぷりかけてずるずるとすすると、だしのきいたとろろのしっかりとした味わいが広がります。「丁子屋」のとろろ汁は、地元農家が育てた自然薯を使っています。丸子周辺は古くから良質な自然薯が採れたことから、旅人の間で名物となったようです。

弥次さんと喜多さんは、店には来たものの店主夫婦のケンカに巻き込まれて食べることができませんでしたが、私はしっかりと楽しませてもらいました。

麦飯にたっぷりととろろをかけていただきます(PHOTO:今泉慎一)

おひつから何度も茶碗に麦飯をよそって、とろろをかけて流し込みます。ずいぶんゆっくりと昼休憩をとって、おなかだけでなく元気もいっぱいになったので、ここから宇津ノ谷峠に向かって歩き出します。

歴史を感じる間の宿の街並みと明治のトンネル

「丁子屋」の前を流れている丸子川を渡ったところに復元された高札場があり、ここが「京・大坂方見附跡」、つまり丸子宿の西側の端になります。丸子の集落を抜けたのちは、しばらく国道1号を進みます。日影がまったくないので、まだ春とはいえ日差しがかなりきつく、汗だくになってしまいました。

復元された高札が見られる

しばらく歩くと「道の駅宇津ノ谷峠」が見えてきます。道の駅の脇からは、奈良時代から戦国時代に宇津ノ谷峠越えの道として使われていた「蔦の細道」が続いています。今はハイキングコースになっているので、機会があればこちらの道も散策してみたいなと思いました。

しかしこの日は、道の駅をすぎて間もなくの歩道橋の脇から右折し、坂道をのぼって近世の東海道を進みます。やがて小川沿いに出て小さな橋を渡り、「間の宿(あいのしゅく)宇津ノ谷」にやってきました。峠越えの直前、旅人たちが休憩した地です。

人通りも少なく古い街道の風情が今も感じられる街並み

車1台が通れるぐらいの道に趣きのある建物が並び、歴史情緒漂う街並みです。ゆるいのぼり坂になっている道を歩き、集落の端までやって来ると、さらに急な階段が続いています。いよいよ峠に向かうのかと、ここでひとつ気合を入れます。階段をのぼり再び車道に出て、道なりに進みます。

階段をのぼっていよいよ宇津ノ谷峠へ

歌川広重「東海道五拾三次 岡部 宇津之山」/出典:国立博物館所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10594)

分岐点Aが現れました。左に行けば「明治のトンネル」というものがあると、案内が出ています。旧東海道ルートからは少しそれてしまいますが、見に行ってみることにしました。

このトンネルは、明治9(1876)年に開通した、宇津ノ谷峠を貫くトンネルです。今も、向こう側まで歩いて抜けることができるそうです。

薄暗くて少し怖い雰囲気の「明治のトンネル」

※国土地理院(電子国土Web)にスポットとルートを追記

先ほどの分岐点Aまで戻り、再び旧東海道を目指します。間もなく宇津ノ谷峠越えの看板が現れました。しかしそれはどう見ても、今いる道路をはずれて山の中に分け入っていく細い道。しかも、道は落ち葉に覆われ、両脇には木が生い茂っています。

入り口の案内板は山の中の道を示していて入るのをためらってしまいます

峠越えといいながらも、てっきり舗装された道を行くものと思っていたので、現れた鬱蒼とした山道に、本当にこの道でいいのかと不安になってしまいます。足を踏み入れると、足元は石がゴロゴロしていて、さらに落ち葉で滑りやすくなっていました。木々に覆われてちょっと薄暗いのも、不安を倍増させます。

5分ほどのぼると、少し辺りが開け、ベンチがありました。そこからは、宇津ノ谷の集落を見渡すことができるらしいのですが、このときは木の枝が伸びていて、眺望を少し邪魔していました。

間の宿宇津ノ谷の、さきほどまで歩いていた道が見えます

さらに進むと、どんどん緑が濃くなってきます。すると突然、右手に石垣が現れました。

下から見る地蔵堂の石垣

ここは地蔵堂の跡だそうです。斜面に石垣を築いて平らな土地を広げ、地蔵堂の建物を建てたのだとか。坂道をのぼっていくと、さきほど下から見た石垣の横に出ます。見上げていた石垣を、今度は上から見ることができます。道は少し狭くなってきて、やがて峠のてっぺんに到達しました。道の左右には、さらに別の山へと向かう登山道が続いていますが、そこはスルーして、旧東海道を直進。峠を下っていきます。

間もなく道は階段になり、舗装された道路へと出ました。これで厳しい山道も終わりかとホッと一息つきます。山道を歩いていた時間は20分弱と、意外にも長くはありませんでした。舗装道路をさらに下っていくと、間もなく道は分岐。道はまたもや、竹に囲まれた落ち葉だらけの道になっていました。まだ続く山道にうんざりしながらも下っていきます。下り坂でスピードに乗ってしまい、ついつい落ち葉で足を滑らせ、危うく転びそうになってしまいました。歩くときは十分に気を付けましょう。

地面が落ち葉で覆われ滑りやすい

この道もおよそ10分ほどで抜けます。舗装道路に出ると小さな集落が現れ、坂下地蔵堂という建物がありました。地蔵堂を通過すると分かれ道に。車通りはないものの、それなりに広い道で、近くには国道1号も通っていて、どちらが旧東海道なのか迷います。しかしありがたいことに、正しい道の方の足元には旧東海道を示す文字が書かれていました。

国道1号の下を通ってさらに進む

導かれるままに進み、国道1号の下をくぐります。するとあまり大きくはないですが道の駅がありました。峠越えで飲み物が尽きていたので、自動販売機を見たときには本当にうれしくなりました。

ここからは平坦な道をひたすら歩きます。周囲に民家などがありますが、やはり日陰はなくとにかく暑い。そうこうしているうちに、道の脇の草むらに小さく目立たない「桝形跡」の案内を見つけました。桝形とは、防衛のために宿場の端に設けられていた直角の曲がり角のこと。案内を見て、ようやく岡部宿の入り口に着いたのだと気が付きました。

岡部宿の入り口にあたる「桝形跡」

岡部宿を地元の人に案内してもらう

旧東海道の近くを流れていた岡部川を渡り、辺りに店や建物が増えてくると、左手に古い建物があるのが見えます。「大旅籠柏屋」は、江戸時代、旅籠屋と質屋を兼業していて、宇津ノ谷峠を越えてきた旅人がたくさん宿泊した場所です。

1836(天保7)年築の建物が資料館として公開されています。当時の建物がこんなにきれいに残っているかと感心しながら中に入ります。このときすでに16時半。間もなく閉館だというのに快く入れてくれ、さらにほかに見学者がいなかったので、職員の方が解説しながらじっくり案内してくれました。

江戸時代から変わらぬ佇まいを見せる柏屋

中にはかつての岡部宿の模型も展示していて、今の道路と照らし合わせながら当時について教えてもらいました。この宿場の中心地は、この旅籠の周辺だったようですが、宿場自体はもっと南の方まで広がっていたようです。ちょっと中をのぞいたらすぐに出よう、ぐらいの気持ちで訪れた資料館でしたが、なかなか見ごたえがあり、じっくり楽しんでしまいました。

見学を終えるころにはすでに閉館時間となっており、道路に面した入り口の跳ね上げ式の大きな木戸をちょうど下ろすところでした。木戸を閉めると、中は電灯はついているもののだいぶ薄暗くなります。昔もこんな雰囲気だったのかなと、思いを馳せました。

入り口にかけられている柏屋ののれん

木戸に設けられた小さな出入口から資料館を出て、さらに先に進みます。近くの本陣跡などを写真に収めていると、さきほど資料館で案内してくれた職員さんが帰り支度をすませてやってきました。なんとなくお話をしながら一緒に歩いていると、「ここに〇〇があって……」「このカフェは若い人たちがやっていて、最近できたんですよ」などと、ガイドブックには載っていないような地元の話を聞かせてくれました。

大通りから細い脇道へと入る

岡部宿の南側の端にあたるもうひとつの「桝形跡」まで案内してもらって、職員さんとはそこでお別れ。私はというと、辺りもだいぶ暗くなってきたので、ここで東海道歩きを切り上げることにしました。大通りからバスに乗ってJR藤枝駅まで行き、この日の行程は終了です。

次回は、「越すに越されぬ大井川」を渡る、島田宿から日坂宿まで行く旅です。

<データ>
■府中宿~丸子宿~岡部宿
【距離】約13.5km
【所要時間目安】約8時間


※国土地理院(電子国土Web)にスポットとルートを追記
※ルートは本記事のものです。一部、旧東海道とは異なる場合があります

PHOTO:加藤きりこ(特記以外)

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

【筆者】加藤きりこ

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    秋田県生まれ。編集プロダクションで旅モノ、歴史モノ、交通系を中心に書籍の制作に携わり、現在はフリー。数年にわたり東海道五十三次を歩く旅を続けており、全宿踏破を目指している。2023年にようやく半分の袋井宿を通過し、今も京都を目指して西進中。

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