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秋の上高地を“たっぷりのんびり”楽しむおすすめ日帰りハイキング。カラマツの紅葉が美しい小梨平で静けさや開放感を堪能しよう。バスを使ったアクセスも詳しくご紹介

山と高原地図 編集部

更新日: 2024年10月26日

秋の上高地を“たっぷりのんびり”楽しむおすすめ日帰りハイキング。カラマツの紅葉が美しい小梨平で静けさや開放感を堪能しよう。バスを使ったアクセスも詳しくご紹介

風光明媚。3000mの峰々を連ねる穂高連峰を屏風絵のようにして、雄大壮大な大パノラマが広がる上高地。標高1500m、山岳地帯ど真ん中の谷間でありながら、そこは広々と平地が広がる明るい空間だ。蒼き清流と深き森の爽やかさは、自然美あふれる日本にあっても際立っている。なにせ「特別名勝」および「特別天然記念物」とダブル指定されている特別な土地なのだ。

とはいえ、高嶺を目指す登山者にとっては、玄関口であり通過点という存在でもある上高地。楽しむことなく駆け抜けてしまうことも多い場所だが、なんともったいないことか。そこで今回は旅のプランの提案も兼ね、秋の上高地を一日かけて“たっぷりのんびり”静かに楽しんでみたいと思う。

執筆・写真:山と高原地図「槍ヶ岳・穂高岳」著者 三宅 岳

1.目指せ上高地!!アプローチから楽しみな旅がはじまる

さて、上高地に行くのはどうしたらよいのだろうか。大雑把には平湯方面からと沢渡(さわんど)方面からの2コースがある。どちらからのアプローチもきちんとお楽しみがあるので行きやすい方を選ぶのがいいだろう。

①松本・沢渡(さわんど)から上高地を目指す

鉄道の場合はまず、JR篠ノ井線で松本駅から。特急あずさで首都圏から一直線の駅である。ここで大きな駅の一番端っこのホームから出発するご当地鉄道、アルピコ交通上高地線に乗り換えだ。ゴトゴトと終点の新島々駅(しんしましまえき)まで乗車する。なお、アルピコ交通は現在の正式な社名だが、旧称の松本電鉄を省略した「まつでん」という愛称で呼ぶ人も多い。
新島々駅前はバスターミナルになっていて、ここから上高地行バスに乗る。なお、駅近くにセブンイレブンがある。ここが上高地手前の最終コンビニとなる。必要なものは補給しておこう。ちなみに、バス席のおすすめは進行方向左手の窓側。上高地に入ったときこちら側が展望抜群なのである。
マイカー利用の場合は、松本側からは長野自動車道松本ICで高速を降り、国道158号を高山方面へ向かう。沢渡地区に駐車して、上高地行バスに乗り換える。沢渡地区から先にはバスに乗り換えられる駐車場がないため要注意。
なお、市営第二・第三駐車場に停めると、バス乗り場は「沢渡ナショナルパークゲート」となる。バスターミナル・タクシー乗り場となる施設だが、上高地の最新情報や概要がわかるミニビジターセンターといった趣だ。また、第二駐車場横には足湯があり、ほんのりリラックスなポイントにもなっている。

バスやタクシーの乗り換え拠点となる沢渡ナショナルパークゲート。上高地に関する様々な情報収集も可能で、ミニビジターセンターといった趣だ。

②高山・平湯から上高地を目指す

鉄道の場合はまず、JR高山本線高山駅から。新穂高ロープウェイ行のバス(駅前にバスセンターあり)に乗る。奥飛騨の景観を眺めながらのバス旅は、平湯峠までおおむね登りが続く。平湯トンネルを抜けたら、豪快に下って平湯温泉に到着だ。平湯温泉バスターミナルには、売店や足湯、食堂がそろっている。ここから上高地行バスに乗り換える。

駐車場を挟んで建つ真っ白な建物が今年リニューアルオープンしたばかりの中部山岳国立公園奥飛騨ビジターセンターだ。特徴的な鉱物の展示や北アルプスの写真などが並んでいて、フリーWi-Fiが使えるスペースもある。ここでバス待ちの間に北アルプスの予習というのも乙なものだ。

一方マイカー利用の場合は、平湯温泉の奥となるあかんだな駐車場に駐車。そこから上高地行バスに乗り換える。以前は夜間閉鎖されて使いにくかったが、現在は24時間入出庫可能となり利便性が高くなった。

2024年にリニューアルオープンした中部山岳国立公園ビジターセンター。北アルプスの情報を収集しよう。

2.大正池と田代池。フラットな歩き始めで田代橋まで

急勾配の釜トンネル、そして上高地トンネルという2つのトンネルを抜けると、バスが進むのはすでに上高地の広々とした空間だ。左手に大正池(たいしょういけ)と焼岳がセットになって見えると、車内全体に静かな興奮が伝わってくる。

さて、上高地エリアには幾つかバス停があるのだが、上高地散策が目的の場合は、「大正池バス停」で下車しよう。バス停前の小径を下ると、すぐに大正池のほとりに出る。噴煙を上げる活火山、焼岳のスタイリシュで力強いフォルムが池に投影して、もうそれだけで絵になってしまうのである。というわけで、つい慌てて池のほとりに駆け寄りたくなるのだが、その前にちょっと一呼吸。バス停から少しだけ道を戻ったところに、公衆トイレがある。この先しばらくトイレがないトレッキングとなるので、ここでしっかり済ませておくと、気分を楽にして歩いてゆけるのだ。

落ち着いたところで、湖畔に出よう。正面に大きな焼岳。池の奥には奥穂高岳を中心に、これぞ穂高連峰という山々。もう爽やかそのものである。

大正池からの焼岳。力強いフォルムが勇ましい。

大正池から穂高連峰を望む。池に映る姿も息をのむ美しさだ。

さて、大正池のほとりからは、そのまま遊歩道が林間にのびてゆく。清流にかかる木道で気分はさらに高揚するのだが、ときに濡れている木道というのは滑りやすいもの。浮かれていても足元には注意して歩いて行こう。

ところで、この歩道沿いには上高地の知識を深める看板が幾つも立っている。例えば「砂礫の堆積」「シラカンバとダケカンバ」「上高地のカラマツ」などなど。先を急ぐ旅ではないので、こういった看板をじっくり読んでみてはいかがだろうか。内容はかなり深いので、すぐに自分の知識にはならないかもしれないが、アウトラインだけでもわかっていると「なるほど、上高地ってそんな場所か!」というプチレベルアップを感じること間違いなしなのだ。

そうして景色を見たり看板を眺めたりしているうちに、田代池(たしろいけ)に到着。すでに土砂が堆積して池らしくない池だが、流れが美しく必見ポイントだ。

その先、道は梓川(あずさがわ)沿いと林間コースの二手に分かれるが、2024年9月はじめは、川沿いコースが通れなかったので林間コースへ。ちょっとしたアップダウンもあるが、木道完備の気持ち良い道だ。やがて梓川沿いコースと合流して、田代橋のたもとに出る。

田代池は水深こそ浅いものの、森林との共演が美しい。

3.田代橋から河童橋へ

この田代橋のたもとで道が交差する。橋を渡らずに梓川左岸を進むとすぐに中ノ瀬園地である。トイレと多くのベンチがある。あまり人が多くないので一休みにも良いポイントだ。

ここでは、田代橋をわたって、梓川右岸側を進もう。今年は災害のために橋のたもとからの歩道が通行できないが、少し進んで西穂高岳登山口前の車道から簡単に迂回ができる。そこには山の神も祀られているので、お参りしておこう。

梓川に沿った道を進むと間もなくウェストン碑が現れる。北アルプスや上高地を愛し、世界に広く紹介した英国人宣教師ウォルター・ウェストンを記念したレリーフが岩壁に埋め込まれ、その前にはせせらぎも流れている。ウェストンの喜寿を記念して作られたというこのレリーフ。じつはもう一つ見どころがある。あまり知られていないが、このレリーフが埋め込まれている岩こそ、世界で一番若い花崗岩(かこうがん)と言われる 「滝谷花崗閃緑岩(たきだにかこうせんりょくがん)」なのだ。槍ヶ岳や穂高岳の成因を調べている信州大学の原山先生の研究成果の一つでもある。何気ない岩なのだが、そうやって眺めるとなんだかすごいものに見えくるのである。

さらに梓川に沿うようにして上流側に進む。観光客がどっと増えてくると、間もなく河童橋(かっぱばし)だ。せっかくなので橋を渡って景色を堪能。記念の写真も撮っておこう。よくポスターにもなる絶景が目の前に広がっている。

上高地をこよなく愛した英国人宣教師、ウォルター・ウェストン。レリーフが埋め込まれた岩壁にも注目だ。

上高地と言えばこの眺め。憧れたあの景色が目の前に広がる。

4.河童橋から明神へ

さてこの2024年、上高地散策でちょっとだけ気をつけたいポイントがある。それは明神と小梨平を結ぶ梓川左岸道路が通行止めということ。自然災害のために今なお復旧しないままなのだ。本来のメインルートなので早期復旧が求められるが、相手は自然、なかなか思うようには行かないのである。(※梓川左岸道路は2024年10月中旬に、復旧しました)

というわけで、進むのは梓川右岸の道。本来なら左岸を歩く登山者も、皆このコースを歩くので少々人数が多い。すれ違いや追い越しに気を付けて進もう。途中木道脇に設けられたテラスから眺める岳沢湿原&六百山(ろっぴゃくさん)は、やはり絶景なり。

岳沢への分岐を過ぎて、あとは樹林帯を縫うように進むが、ときおり車道と道を共有する場面もあるので要注意。ゆっくり歩くと1時間ちょっとで明神エリアに到着する。

※右岸(うがん)と左岸(さがん)・・・河川を上流から下流にむかって眺めたとき、右手を右岸、左手を左岸と言う

 

河童橋を過ぎて進むのは梓川の右岸側だ。山と高原地図アプリには常に現在地、自分が向いている方角、ここまで歩いてきた軌跡が表示される。道迷いを起こさないよう、こまめにアプリの地図面を確認しよう。

岳沢湿原とその向こうにそびえる六百山の景観は必見。ゆっくり楽しもう。

河童橋から明神までの自然探勝路にはみずみずしい樹林が続く。

道迷い対策には山と高原地図アプリ!!インストールしてから登山へいこう

山と高原地図アプリを使えば、自分の今立っている場所が人型のシンボルで表示されます。また、自分の向いている方角(スマートフォンの正面が向いている方向)が扇形に示されるので、道迷いのリスクが格段に下がります。これらの機能はGPSの測位によるものなので、スマートフォンが圏外でも使用可能です。

また、歩いてきたルートも同時に記録できるので、山行記録の整理にも持って来いの便利なアプリです。

山と高原地図アプリに興味を持ったそこのあなた!⇒さらに詳しい情報はこちらから

5.明神に到着

林間コースがようやくと切れて、梓川のほとりに出たと思ったらそこが明神である。左手に大きな鳥居が現れるのでくぐってゆこう。右手に名ガイド上條嘉門次(かみじょうかもんじ)のレリーフがある。左手にはその嘉門次が建てた山小屋、その名も「嘉門次小屋」が建つ。ここは岩魚の炭火焼が有名で、順番待ちの行列が日常の光景だ。

さらに奥に祀られているのは穂高神社奥宮である。参拝をしたら拝観料を払って明神池へ。見上げる明神岳。そして美しい池。一度は参拝しておきたい名所である。また、少し離れた山小屋、山のひだやにはカフェ・ド・コイショが併設されている。スイーツが人気だ。休憩がてら寄るのもよいだろう。

梓川沿いに戻り明神橋を渡ると、まもなく明神館が見えてくる。その前からふりかえると、明神岳はまだまだぐっと高く感じる。

明神池越し明神岳がそびえる。1~5の峰を持つ荒々しい岩峰だ。

上高地周遊をまだまだ楽しむ体力派なら、ここから梓川左岸の道をたどり徳沢(トクサワ)まで行くのもよいだろう。明るいテント場の広がる徳沢でテント泊、というのも洒落ている。しかし、今回は“たっぷりのんびり”がテーマである。ここで踵をかえして往路を戻ることにしよう。そして河童橋をわたったら、小梨平(こなしだいら)へと歩を進めることにする。

6.静かな小梨平(こなしだいら)を“たっぷりのんびり”堪能しよう

人でにぎわう河童橋を渡ったら左岸側を上流方面に向かおう。通常の年なら山に登る人、下る人でそれなりに賑やかなのだが、今年は左岸道路が小梨平の先で通行止ということもあり、普段よりもゆったりとしている。すぐに、清水川にかかる清水橋に出る。この川はわずか300mの長さながら、水量が豊富だ。しかもその水がなんともきれいだ。さらに、水中にはバイカモが揺れて、その美しさは倍増だ。

バイカモが揺れる清水川。写真映え間違いなしのスポットだ。

流れの美を堪能したら、すぐ近くのビジターセンターに立ち寄ろう。上高地の自然について、様々な知識をわかりやすく解説してくれる場所だ。主催イベントも時折、開催されている。また、売店コーナーを見ると他では販売されていない上高地の本が並んでいる。こんな場所でちょっと頭でっかちに上高地を楽しむのもよいではないか。

小梨平の入口に建つ上高地ビジターセンター。ここでじっくりと知識を集めれば、あなたも上高地博士になれるかも?

そして、小梨平へ。その名のとおり、コナシ(ズミとも呼ぶ)の木も多いが、秋になると目立ってくるのがカラマツである。晩秋になれば黄金色に輝くカラマツだが、初秋であってもすくっとのびたその姿に惚れ惚れしてしまう。先述の通り、今年は通過する登山者がいないので、とても静かで開放感が一層高まっているように感じる。

ビジターセンター裏に回り込み、清水川に沿って歩くというのも一興だ。もともとあまり歩く人もいないので、一層静かである。ただ、残念ながら源流の水が湧いているところまでは見られない。また、小梨平といえばキャンプ場だが、併せて食堂や風呂があることも忘れてはいけない。食堂はちょっとレトロでボリュームあり。風呂は温泉ではないが、利用者がそれほど多くないのでゆっくりと楽しめる。

小梨平のキャンプ場。食堂や浴場が併設されているのは登山者にとって非常にありがたい。

黄葉するカラマツ林。晩秋の小梨平もおすすめだ。

通過ポイントと考えがちな小梨平だがこの秋はぜひここをじっくり楽しんで、上高地簡単周遊の締めにしてもらいたい。そして上高地最終地点、バスターミナルに到着したら、そのすぐ横にあるインフォメーションセンターも覗いておこう。上高地の情報や上高地にこだわった展覧会などをやっている場所だ。

以上、今年の秋、紅葉前ぐらいから秋本番まで、上高地をじっくり楽しむ旅へのお誘いである。なお、晴れた日はもちろんだが、ちょっとしっとりした上高地も静かでよいですよ。

雨の上高地は静かで、しっとりとしていて、全く違った顔を見せてくれる。

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

『山と高原地図』シリーズは、1965年より毎年発行、登山を楽しむ方に長く親しまれ続けているロングセラー登山地図。深田久弥による「日本百名山」をすべて収録し、主要な山岳エリアを網羅しています。

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