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荒涼とした温泉工場(!?)の先にあるパラダイス!NO 野湯 NO LIFE!【vol.04 沼尻元湯界隈の野湯群(福島県猪苗代町)】 PHOTO:縄倉孝男

瀬戸圭祐

更新日: 2024年9月18日

荒涼とした温泉工場(!?)の先にあるパラダイス!NO 野湯 NO LIFE!【vol.04 沼尻元湯界隈の野湯群(福島県猪苗代町)】

自然の中で自噴する源泉に浸かる野湯は、どうしてもアクセスしづらいことが多い。
しかし、今回ご紹介する沼尻元湯は、荒涼とした景色が広がる秘境でありながらも、野湯をめぐるツアーが開催されているため、一般の方でも挑戦しやすい稀有な場所だ。

渓流、洞窟、峡谷、ゴルジュ(※1)、滝……。今回は、野湯界で「東の横綱」と称されてきた野湯パラダイス・沼尻元湯とその周辺の野湯を紹介しよう。

※1 ゴルジュ…切り立った完璧に挟まれた谷のこと。V字谷とも

ガイドツアーで安心安全に訪問できる

沼尻元湯は、日本百名山に数えられる福島県猪苗代町の活火山・安達太良山(あだたらやま)に湧く湯量豊富な源泉だ。安達太良山の爆裂火口跡から続く谷周辺には、たくさんの野湯が沸いている。その湯量たるや、毎分13,400ℓ(2009年会津保険事務所の調査による)。つまり、25mプールを約45分で満杯にしてしまうほどの量が、こんこんと湧き出している。

一方でこの一帯は、硫化水素ガスの発生量が多い。1997年には安達太良山山頂部の沼ノ平火口にて、火山ガスにより4人が死亡する事故が起きてしまった。

以来、現在に至るまで沼ノ平火口は立入禁止となっているが、2020年にガイドツアーが開始されたことで、沼尻元湯に訪問できるようになった。安全対策を徹底し、ガイドの案内でトレッキングする、「エクストリーム温泉」ガイドツアーだ。

ちなみに私は、ツアーが開催される前(当時は登山道の立ち入りがまだ制限されていなかった)に自己責任で訪問したが、今はぜひツアーに参加して楽しんでいただきたい。

2020年以前は登山道以外の場所が立入禁止だった

スタート場所の沼尻スキー場上部の駐車場までは車で向かう。そして、ここを起点に、登山道ルートで尾根に出てゆく。前方に山景を望みながら、気持ち良く登っていける。

足元には、強い酸性の温泉水が流れる場所で育つチャツボミゴケや、硫黄分の多い場所に生えるイオウゴケなどの珍しい植物も見られた。

登山道から谷底に降りると、温泉成分で青白くなった流れに辿り着く

チャツボミゴケ(茶蕾苔)は強酸性の水の流れる場所で生育し、全てのコケ中で最も耐酸性が強いと言われている

木箱が積まれラインが走る、ここは温泉工場!?

スタートから1時間程度進むと、左下に木のない広い谷となっている源泉地帯が見えてきた。硫黄の採掘場の跡や、かつての温泉宿の残骸が確認できる。

現在でも、湯の花採集や麓の温泉地へ送湯が行われており、湯の花が積まれた木箱や湯を引くラインが交錯している様子が俯瞰できる。谷底全体が温泉工場のような様相だ。この温泉工場のような場所は長さ数100mはあるだろう。

谷底全体に送湯施設と、その保守や硫黄採取のための道などが絡み合っている

硫黄を採取する施設。左の箱には木の樋に溜まって採取された硫黄が入っている

谷へ降りて行く途中にも所々でお湯が湧き出していた。温泉が流れる硫黄川は、沢水なども混じるため下流側ほど湯温は低い傾向にあるが、ここは下流でも随所でお湯が湧出しており、滝壺や瀞(※2)は天然の湯船になっている。

川幅の広い瀞では思わず泳いだが、硫黄泉が目に沁みた。あちこちで好みの温度の湯溜まりを探しながら、湯船のハシゴ湯を楽しむこともできた。遊園地で好きな乗り物を見つけてはしゃぎ回った、子どもの頃を思い出す。

※2 瀞(とろ)…川の水が深く、流れが非常に静かなところ

谷底の硫黄川の随所で入湯できて、ハシゴ湯をしたくなる

川がまるごと温泉!! 地中に吸い込まれその先は……

沼尻元湯のトレイルを西に下って行くと南側を流れていた硫黄川が、橋も渡っていないのに北側の下に流れている。不思議に思い戻ってみると川が地中に潜り込むように吸い込まれており、その上を歩いていたのだ。

湯の川の流れが地中に落ち込む場所を確認し、急傾斜の崖を降りて中に入って行く。温泉成分で滑りやすい岩に注意して、着実に3点確保しながら慎重に降りる。岩壁の下にぽっかり空いた大穴の底まで入って行くと、その先は水平な洞窟トンネルになっていた。

川の流れが地中に吸い込まれる岩壁を、慎重に降りて行く

洞窟は30mほどの長さで、高さも幅も数m以上あり、向こう側には明るい出口が見える。出口付近の洞窟内の高さは10mほどあり、その巨大なスケールに驚いてしまう。

洞窟の出口。高さ10m以上はある巨大な穴になっている

珍しい洞窟を流れる温泉で寝湯も打たせ湯も!

洞壁には削岩機で開けたような穴が残っており、人工のトンネルであることがわかる。ここには沼尻元湯の広い谷の随所で湧いたお湯や沢の水が、すべて流れ込んでおり、湯量はとても豊富だ。洞窟内は比較的浅いが、大量のお湯で流されてしまいそうなので、流れに沿って寝ころんで寝湯を楽しんだ。

洞窟内に豊富に流れる温泉で寝湯を楽しむ(PHOTO:縄倉孝男)

一方、入口付近の滝壺のようになっているところでは、腰まで浸かって打たせ湯をすることもできる。ただし洞窟内では湯が湧き出ていないので、湯温は人肌程度だ。夏にはちょうど良いが、それ以外の季節や雨の後などには、かなりぬるめになるだろう。

地中に吸い込まれた温泉は底で滝壺のようになっており、打たせ湯を楽しめる(PHOTO:縄倉孝男)

ここは有毒ガスが発生する源泉地帯からは200~300m以上離れているが、原則立入禁止なのでエクストリームツアーに参加する必要がある。

温泉はゴルジュになり滝となって落ちる

窟出口の先の谷も人工的に掘削されていて、切り立った断崖のV字谷の深い峡谷になっており、そのまま温泉の川が続いている。

洞窟出口の先は切り立ったV字谷になっており、温泉が流れている

川は掘削された岩盤の上を流れているので、足元は比較的安定しているが、温泉成分で滑りやすい。ここでも湯浴みができ、巨大な洞窟の出口を背景に、断崖直下の絶景の中で寝湯を楽しんだ。

巨大な洞窟穴から大量の温泉が流れ出ており、随所で入湯できる

さらに峡谷の底を数十m進むと川がストンと落ち込んでおり、両岸が垂直に切り立ったゴルジュになっていた。もちろん硫黄泉のお湯が流れてゴルジュに溜まっているのだが、両サイドは高さ5~6mの垂直の岩壁で、2~3mの川幅に温泉が淀んでいる。さすがにここに落ちると戻ってこられなくなりそうなので、その奇観は眺めるだけにした。

垂直の岩壁に挟まれたゴルジェも温泉だが、入湯したら戻って来られないかもしれない

ゴルジュの先は落差50~60mの直瀑「沼尻白糸の滝」になっている。温泉が流れ落ちる滝としては落差日本一だという。

温泉水が一筋の湯の滝になって流れ落ちている「沼尻白糸の滝」

こうして野湯パラダイスを心ゆくまで堪能し、帰路についた。

東の横綱とも言われる素晴らしい野湯に入れるツアーがあるという幸せを、ぜひ体感していただきたい。

<DATA>
■沼尻元湯界隈の野湯群
■住所:福島県猪苗代町沼尻山■ツアー名:「エクストリーム温泉」ガイドツアー
■集合場所:cafe&activity nowhere(福島県猪苗代町蚕養沼尻山甲2864)
■ツアー集合場所までのアクセス:JR猪苗代駅から車で約20分
■URL:https://www.numajiri-lodge.com/nowhere/418/

国土地理院(電子国土Web)の地図にスポットとルートを追記

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

【筆者】瀬戸圭祐

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    アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に、全国各地の野湯を訪ね歩いた冒険譚『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)などがある。2024年5月現在、足を運んだ野湯はトータルで約110湯。
    >>ウィキペディア(Wikipedia)

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