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浮世絵に描かれた富士山の姿を「薩埵峠」で望む 東海道五十三次ちょこっと半日ハイキング【vol.04 由比宿~興津宿】 PHOTO:photoAC

加藤きりこ

更新日: 2024年10月2日

浮世絵に描かれた富士山の姿を「薩埵峠」で望む 東海道五十三次ちょこっと半日ハイキング【vol.04 由比宿~興津宿】

その昔、多くの旅人が東海道を通って江戸と京の間を行き交いました。今では、街も道路も姿をすっかり変えてしまいましたが、道中、人々が見る富士山はいつの時代も変わらず雄大です。

今回は富士山の姿を望みながらハイキングを楽しむ、由比宿~薩埵(さった)峠~興津宿の旅をお届けします。

エビの向こうに富士山

東海道の16番目の宿場・由比宿は、静岡市清水区に位置しています。宿場の中心部だった場所には、現在は「由比本陣公園」が整備されていて、東海道五十三次の浮世絵で有名な、歌川広重の絵などを展示する「東海道広重美術館」もあります。

立派な門構えの由比本陣公園

公園の向かい側には、江戸時代から続く「正雪紺屋」があり、中を見学できるほか、染め物の手ぬぐいなども販売。風情のある街並みが残る宿場町です。

趣ある佇まいの正雪紺屋

今回のコースのスタート地点、JR東海道本線由比駅は、由比宿の中心部から西に徒歩30分ほど歩いた場所にあります。時間に余裕があるのなら、薩埵峠を目指して西進する前に「由比宿」の散策を楽しむのもいいでしょう。

駅を出て、ロータリーを横切って旧東海道である道路へと出ます。右に行けば、本陣などがある宿場中心部、左に行けば薩埵峠です。

右手の方をふと見上げてみると、大きなエビのオブジェが乗った商店街のアーチがあります。由比はサクラエビが名物。春の旬の時期には、地元産のサクラエビを使ったサクサクのかき揚げを食堂などでも味わえます。

駅を出たところにあるエビのアーチ

「いい写真が撮れるところがあるよ」

エビのアーチを写真に収めていると、地元の方から声をかけられました。ロータリーを出て少し左に進んだところにある街路樹の下に誘導されたので、そこから振り返ってエビのアーチを見ると、2匹のエビの間に小さく富士山が。地元の人オススメ通りの写真が撮れました。

エビとエビの間に富士山

かなり急勾配な薩埵峠

旧東海道を西に向かって歩き出します。間もなく大きな通りに合流するので、歩道橋を渡って道路の反対側へ。歩道橋を降りた先には、住宅街に細い道が続いており、ここが旧街道になります。

少し進むと、古い建物などが残る趣ある街並みに。「小池邸」は、かつての名主の館で、中を見学することができます。庭には水琴窟があり、水をかけると涼しげな音を奏でてくれました。「小池邸」を出るときに、職員の方が「今日はどちらまで?」と声をかけてくれました。興津宿までと答えると、峠は大変だけれどがんばってと応援の言葉が。とてもうれしい心遣いでした。

「小池邸」の中には展示も充実

集落が途切れると、斜面には柑橘畑が見えます。その向こうには海があり、遠くをゆっくりと船が進む光景が広がります。

旧街道の両脇には柑橘畑がせまる

しばらく行くと、古めかしい建物が並ぶ、趣ある集落へとたどり着きます。ここは間の宿・西倉沢。薩埵峠へ向かう旅人が休憩した場所です。

今は普通の民家であろう家の玄関先に案内板が下げられていました。かつて本陣だったという川島家や明治天皇が休憩したという柏屋があった場所を今に伝えてくれています。

民家の軒下にかけられた川島家の案内板

西倉沢の端までやってくると、薩埵峠登山口が現れました。この坂の始まりがとにかく急勾配。こんなきつそうな坂道が行くのかと、思わずひるんでしまいます。

薩埵峠登山口の急坂

薩埵峠は箱根峠に次ぐ難所として知られた場所です。当時は海岸線を行くことができず、旅人はこの峠を越えるしかありませんでした。

覚悟を決めて坂をのぼり始めます。最初の10分ぐらいは、なかなか厳しい坂道が続きました。途中、犬の散歩をしている地元の人とすれ違い、こんな急坂を散歩コースにするなんて、この辺りの人たちはタフだなと感心してしまいました。

道の両脇にはあいかわらず、柑橘の畑が広がっています。間もなく、坂は少し緩やかに。やがて「薩埵峠」の案内板が現れます。駐車場があり、車やバイクが何台か停まっていました。東海道を歩く人の姿もちらほら。

海岸線を見下ろす位置にある薩埵峠案内板

駐車場の端にある公衆トイレの裏側の方に遊歩道が続いています。少し行くと小さな展望台があります。歌川広重は、ここからの眺めを浮世絵に描きました。東海道歩きをするなら、この景色はぜひとも拝みたいものです。

展望台に上がり、来た道の方を振り返るとそこに広がる景色は、まさに歌川広重の浮世絵と同じ! と言いたいところなのですが、私が薩埵峠を訪れた日はあいにくの曇り空。低く雲が垂れ込め、富士山は山頂部分のほんのちょっとしか姿を現してくれませんでした。

歌川広重「東海道五拾三次 由井 薩埵嶺」 出典:国立博物館所蔵品統合検索システム

曇り空で富士山がほとんど見えなかった展望台からの景色

左手には山がそびえ、眼下に大きくカーブする海岸線と海。晴れていれば、奥に大きな富士山が見えるそうです。

天気がいい時の展望台からの景色(PHOTO:photoAC)

いつかリベンジしたいものですが、展望台の少し先の方で道の崩落が起きたため、この遊歩道は2024年8月現在、通行止めになっています。静岡市の広報によると、修繕の完了は2025年3月ごろの予定らしいので、リベンジはもう少し先になりそうです。

歴史ある建物を巡る街歩き

遊歩道になっている山道を興津方面に向かって下っていきます。道は狭いですが、箱根の石畳のような歩きづらさはないので、比較的楽な道のりです。

山道を抜けると墓地が広がっていて、平坦な舗装された道へ。ここからは、案内表示などに従って、興津宿をひたすら目指します。

山道になっている遊歩道

興津川にかかる大きな橋を渡ります。歩道がなく路側帯を歩くことになるので、車には十分に気を付けましょう。橋を越えてしばらく行くと、やがて家々や商店なども増えていき、興津駅が近くなってきます。駅の少し先にある理源寺の辺りからが、かつての興津宿になるそうです。

興津川にかかる橋は歩道がないので注意

かつて旅籠だった割烹旅館岡屋

水口屋ギャラリーを見学しても

興津宿の西側の端近くに位置する清見寺。江戸時代よりもさらに古く、7世紀後半ごろにはここに清見関が設けられ、防衛の役割を果たしていたといいます。

現在、境内の中を東海道線の線路が通っていて、踏切を渡るか跨線橋で線路を越えないと建物の方へ行くことができません。

線路の向こうには、江戸時代からの姿を残す鐘楼や大方丈、書院などの建物があり、拝観できます。少し高い場所にあるので、遠くに海を望むことも。

清見寺の境内を電車が通過

清見寺を出てさらに進むと、元内閣総理大臣の西園寺公望の別邸だったという「興津坐漁荘」が残されています。興津の地は、近代になると海水浴場や避寒地としてにぎわい、当時の政治家などが別荘や別宅を構えた地でもありました。

興津坐漁荘の内部を見学

「興津坐漁荘」の建物をゆっくりと見学して東海道の歴史にふれたら、今回のハイキングコースは全行程終了です。

富士山を望みながら歩く、由比宿~薩埵峠~興津宿のコースはいかがだったでしょうか。次は、丸子宿と岡部宿の間にある宇津ノ谷峠を越える旅です。

<データ>
■由比宿~興津宿 
【距離】約9.1km
【所要時間目安】約4時間

※国土地理院(電子国土Web)にスポットとルートを追記
※ルートは本記事のものです。一部、旧東海道とは異なる場合があります

PHOTO:加藤きりこ(特記以外)

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

【筆者】加藤きりこ

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    秋田県生まれ。編集プロダクションで旅モノ、歴史モノ、交通系を中心に書籍の制作に携わり、現在はフリー。数年にわたり東海道五十三次を歩く旅を続けており、全宿踏破を目指している。2023年にようやく半分の袋井宿を通過し、今も京都を目指して西進中。

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