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「衝撃アウトドア本」発掘レビュー!STRANGE OUTDOORE BOOK vol.1『はじめてのびわこの魚』

とみさわ昭仁

更新日: 2024年12月26日

「衝撃アウトドア本」発掘レビュー!STRANGE OUTDOORE BOOK vol.1『はじめてのびわこの魚』

まっぷる読者の皆さん、はじめまして!

アウトドアとはあまり縁のない、万年引きこもりライターのとみさわ昭仁です。以前、別の媒体で連載していた、ちょっと変わったアウトドア本を紹介する「STRANGE OUTDOORE BOOK」(通称:SOB)を、縁あってこちらのサイトで再開することになりました。

心機一転でリスタートする今回は、中学3年生の黒川琉伊(くろかわるい)くんの著書『はじめてのびわこの魚』をご紹介しましょう。

琵琶湖の魚が大好きな中学生によるお魚図鑑

この本は、琵琶湖に生息する魚に惚れ込んだ著者が、実際に自分で見聞したそれらの魚について詳しく解説した本です。見た目の形状は自らの絵で表現し、文章は本人の手書き文字をそのまま印刷した、実に味わい深い一冊。図鑑……というよりも、絵本と呼んだほうがより正確かもしれませんね。

いまは出版不況と言われ、ぼくみたいに本を書くことを職業とする人間でも、なかなか出版企画が通りにくくなっています。黒川くん、若干13歳にして単著デビューって凄すぎますよ。ぼくなんて初めて本を出せたのは27歳のときなんだから!

でも、この『はじめてのびわこの魚』を読んで納得。本当に魚が大好きなんだなということが伝わってくる、とてもいい本なんですよ。よく「のど自慢」で子供だけ採点が甘くなるようなアレじゃなくて、たしかにこれは企画通るわなーという、実にしっかりとアイデアに満ちた本だったのです。

優れた観察眼を持った若き博物学者のスケッチ

本書で紹介されているのは、50種類にもおよぶ琵琶湖の魚たち。世界中に魚は36,000種以上もいて、すげー! 多いー! と思うかもしれませんが、いやいや地球上に95万種はいると言われる昆虫に比べたら、たいしたことないんです。でも、それを比較するのはナンセンス。むしろ、36,000種いる魚のうち、50種類もの魚が、アジアの、日本の、琵琶湖に生息していることのほうが驚きですよ。

著者の黒川くんは、滋賀県の大津市生まれ。大津市は琵琶湖の南端に位置するところで、バカリズム風に言えば「琵琶湖を持つとしたら、こう」の場所。2歳半から魚に興味を持ちはじめ、毎日のように琵琶湖博物館へ通うようになる。魚大好き少年といえば、多くの人がさかなクンを連想することでしょう。実際、黒川くんも5歳の頃から魚の絵ばかり描くようになり、付いたあだ名が「こざかな君」。

本書には魚の写真は一切なく、すべては黒川くんの手によるイラストで表現されています。この絵がバツグンに上手いんですね。このあたりもさかなクン先輩に通ずるところ。ようするに博物学者特有の観察眼を持っているということなんでしょう。手塚治虫は言うまでもないですが、ファーブルもめちゃめちゃ上手いスケッチをたくさん残しています。

魚の漢字のことなら黒川せんせいに訊け!

魚の絵はもちろん、解説の文章もすべて黒川くんの手書き文字なので、本を読んでるというより、学校の壁に貼ってある研究発表を見ている気持ちになりますね。大人になってしまったいまのぼくは、犬猫以外の動物はそんなに好きじゃなくて、魚もできれば朝食に焼く塩鮭以外は触りたくないんですけど、この本を眺めていると、あらゆる生物を分け隔てなく(ときには毛虫さえも!)いじっていた子供時代の気分が蘇ってきます。

ぼくは原稿を書いているとき、魚の名前って漢字で表記すべきか、カタカナで表記すべきか、いつも迷うんですよ。シャケは「鮭」、マグロも「鮪」、コイも「鯉」でいい。でもサンマのことを書くときに「秋刀魚」って書いてしまうと、なんだか気取っているような気がして「サンマ」に直す。すると、それ以前の文章に出てきた「鮭」や「鮪」と整合性が取れなくなって、うぎゃー! っとなるんですね。

本書では、魚の名前は基本的に漢字で、それも黒川くんの味のある手書き文字で書かれています。そのおかげで、魚の名前に関する発見も多い。『どうぶつの森』で覚えたオイカワは、「追河」と書くのだとこの本で知りました。しかも、名前の由来は「オスどうしが河で追いかけ合うから」という説明まで書いてあって、思わず「黒川せんせい!」って言いたくなります。

今はゴミを拾うしかない。でも未来は変えられる!!

ページを開いた最初「この本の読み方」のところに、釣り竿、たも網、カメラ、箱メガネなど黒川くん愛用の道具のイラストが描かれており、「実はぼく、いろんなページに持ち物をおとしてきてしまったんだ。みつけてくれる?」なんて書いてある。そんな『ウォーリーをさがせ!』的な仕掛けまで施されている本書です。魚に対する愛情がひしひしと伝わってきます。

あとがきの〈山に行っても、川に行っても、ゴミを見ない日はありません。琵琶湖にも、缶、タバコ、ルアーにペットボトル。コンビニの袋のまま捨ててある。あるとき、ぼくが怒り狂っていると、母は「今は拾うしかない。でも未来は変えられる!! 今の子どもたちがポイ捨てしいひん大人になればいいんやし」と言いました〉という言葉が胸に刺さります。

そう、未来は変えられる。これからの未来を生きる子どもたちがポイ捨てをしないような大人になるべきなのはもちろん、すでに大人になってしまったぼくも、ポイ捨てだけはするまいと(黒川くんのお母さんに)誓うのでありました。

■『はじめてのびわこの魚』(2022年7月刊/能美舎)
評者:とみさわ昭仁(とみさわあきひと)

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

【筆者】とみさわ昭仁

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1961年東京生まれ。フリーライターとして活動するかたわら、ファミコンブームに乗ってゲームデザイナーに。『ポケモン』などのヒット作に関わる。

2012年より神保町に珍書専門の古書店「マニタ書房」を開業。2019年に閉店後は、再びフリーライターとして執筆活動に入る。近著は、プロハンバーガーこと高野政所氏が画像生成AIで作った架空の昭和の風景画集『架空昭和史』(辰巳出版)の編集&プロデュースを担当。