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薩摩硫黄島は海岸野湯のパラダイス!NO 野湯 NO LIFE!【vol.02 ウタン浜温泉・穴之浜温泉(鹿児島県三島村)後編】

瀬戸圭祐

更新日: 2024年12月24日

薩摩硫黄島は海岸野湯のパラダイス!NO 野湯 NO LIFE!【vol.02 ウタン浜温泉・穴之浜温泉(鹿児島県三島村)後編】

野湯を求めて、薩摩硫黄島へ向かった。

薩摩硫黄島は、日本最大級のカルデラ・鬼界カルデラの北縁に外輪山として形成された火山島だ。縄文時代(約7300年前)には、過去1万年において地球最大規模とされる超巨大噴火が起きた歴史を持つ。

そんな薩摩硫黄島の海岸沿いは、野湯が点在する野湯パラダイスなのだ。

前編では、「東温泉」「長浜温泉」をご紹介したが、まだまだ薩摩硫黄島の野湯について語り足りない。

後編となる今回は、波で変化する湯温を楽しむ「穴之浜(けつのはま)温泉」とよりどりみどりの湯が楽しめる「ウタン浜温泉」をご紹介しよう。

穴之浜温泉への入浴は運次第!

景色の良い平家城展望台に寄り道

薩摩硫黄島の最北端の西側の海岸に湧くのが、穴之浜温泉だ。

※マップは国土地理院(電子国土Web)の地図にスポットを追記

穴之浜温泉に向かう途中には、気象庁の火山噴火予知連絡会の監視・観測の測候施設が設置されている。野湯を目指す前に、島の北側に突き出た岬にある平家城展望台に立ち寄った。

火山噴火の監視・観測用の測候施設

平家城は、城郭のように見える岩山で、その直下まで舗装道があり車で行くことができる。展望台は高さ70mのほぼ垂直に切り立った断崖の上にあり、噴煙を上げる硫黄山が見渡せて、景色はすこぶる良い。

噴煙を上げる硫黄山

温泉が穴之浜海岸の海水を色づかせる

断崖上の展望台は各地にあるが、ここまで垂直に海まで直接落ち込んでいる崖上に立つと、恐怖を通り越して畏敬の念すら覚えた。

さらに驚くべきは、眼下に見える穴之浜海岸の海の色である。

硫黄岳が海に落ち込む海岸には、赤茶けた硫黄島港とは異なる色彩が広がっていた。乳白色やエメラルドグリーン、メロンソーダ色などから太平洋の濃い群青の沖合まで、幅数百mの帯状に海を染める。

現実とは思えないほど美しい色の海に、我を忘れて見入ってしまう。

高さ約70mの平家城展望台から直下の海を見おろす

硫黄岳の流紋岩から溶け出したアルミニウムや鉄、ケイ素が含まれた温泉が、海岸や海中から大量に湧き出して海水と反応し、潮流や風などで複雑に混じり合って色が変わるため、「七色の海」と呼ばれている。

眺めていると、乳白色の海面に黒い小さな岩礁が浮いているように見えた。それは、沈んでは消えて、また別の場所に現れることを繰り返す。いったい何だ?

実はこの時目にしたのは、ウミガメだった。透明な海面では発見することが難しい生き物を見ることができたのだった。カメも温泉に浸かりに来たのかもしれない。

温泉でグラデーションカラーになった穴之浜海岸を見下ろす

数年で消える穴之浜温泉への道

平家城展望台の手前200mくらいの所に穴之浜温泉に降りる道がある。その分岐Aまでは硫黄島港から4km程度だ。車で10分ほど、徒歩でも約1時間で行ける。

※マップは国土地理院(電子国土Web)の地図にスポットを追記

グーグルマップなどでの下調べでは、途中までは車の轍があって歩きやすそうだったが、実際にはヤブが覆いかぶさり、人ひとりがやっと通れるような道だった。

数年前にはクルマが通れた道はヤブが覆いかぶさっている

この背丈をはるかに上回る高さのヤブは、大名竹であった。大名竹はタケノコの王様と称される薩南諸島の名産品で、肉質が柔らかく、アクが少なく味染みのよい高級食材として人気がある。名前の由来は「美味しすぎて高級で大名しか食べられないから」だという。

4~6月が旬で、今回宿泊した民宿でも食事はタケノコの天ぷら、煮物、丸焼き、竹の子の肉詰めフライやみそ汁など、大名竹のフルコースを味わった。どれもとても美味しかった。

大名竹のフルコース(PHOTO:尾山慎一)

この島では植物の繁殖力が猛烈で、年2~3回は草を刈らないとあらゆるところが草に覆われてしまう。車の轍のあったこの道も、放っておくと数年で足もとが見えないほどになってしまうだろう。

ヤブを抜けると目の前にグラデーションの海が現れ、岩場の急斜面を降りて穴之浜に辿り着いた。

ヤブを抜けて岩場の急斜面を降りる

穴之浜温泉に到着

強運を見方に湯船工事をする楽しみ

野湯に入るのには、知識と経験と運が必要となる。

特に海岸野湯は、潮汐についての知識が必要だ。また、適温となる場所を見つけ出すには、ある程度経験を積まねば難しい。そして、天気や波は穏やかかなど、天候も味方につけねばならない。

大小様々な石が転がる海岸には適当な湯船は見当たらない

穴之浜温泉においては、温泉は干潮時にしか出現せず、潮が満ちてくるとお湯の湧出場所がどんどんと海面下に沈んでいき、入湯できなくなる。

また、潮の満ち引きを計算しながら数十分後に適温になるような場所を浜辺で見つけ出し、そこで湯船工事をする必要がある。
スコップなどで石混じりの浜を掘り、大きめの石を積み上げて波を遮る堰を作って行く。実はこの工事もまた、野湯ならではの楽しみのひとつだ。

湯船工事の場所を選定する

そして、ここには天候や風を前もって予測し、船や宿を確保してから行くことは困難である。船は欠航が多く、島に2軒しかない民宿はキャパが少ないので予約は至難である。したがって遅くとも数週間以上前に行程を決定しなければならないが、その時点での天候予測は意味が無いだろう。

船が硫黄島に無事に着岸できて、天気も良く、特に波が穏やかであることが必須条件となる。強運でなければ入湯はできないのだ。

波での湯温の変化を楽しむ

強運の持ち主である私は、上記の条件が揃って、湯船工事を開始することができた。
穴之浜というのは島の東岸に数キロほど続いており、随所にお湯が湧いているようだが、陸路でアクセスが可能なのは浜の北端付近だけである。

まずは湯船候補場所を探すが、岩場には適温で適当な湯だまりは見つからなかった。波打ち際で湯船の工事ができそうな場所を決めて、さっそくスコップで掘り始める。並行して石を積んで消波堰を作るが、大波が来るたびに崩れてしまう。

波と戦いながら湯船を作る

そんな工事を楽しみながら15分ほどで寝湯ができる湯船が完成した。

海水を堰き止めて作った湯船の様子

早速入湯するが波が入ると温くなり、波が引くと熱くなる。それでも目の前に広がるグラデーションの海を眺めながらの湯浴みは、すこぶる幸せを感じた。

ひととき寝湯を楽しむ(PHOTO:尾山慎一)

ちなみに硫黄島は「鬼界ヶ島」とも呼ばれている。硫黄のために島の周辺海域が黄色に変色していることから「黄海ヶ島」と呼ばれ、これが「鬼界ヶ島」になったといわれている。

ウタン浜温泉は干潮のタイミングを狙うべし

転倒しそうになりながら急斜面のヤブを降りる

次にウタン浜温泉(大谷温泉)を目指す。穴之浜温泉から舗装道路に戻って、200mほど港のほうへ進むと「大願成就の島 大谷(ウータン)入口」と書かれた白い縦看板がある。そこから浜に向かって下ってゆく。

大谷入口の看板がある

急斜面を降りてゆく

ヤブで足元が見えない急斜面で、何度が転倒しそうになった。しかし、ヤブが背丈よりも低く、前方に広がる海が見えているので心理的には安心できる。10分ほどで海岸に近づくと、ペットボトルや缶などがたくさん転がっていた。

海岸にはゴミが散らばっていた

海岸に辿り着くとその付近から西側にかけては赤茶色や乳白色の石や岩があり、硫黄臭も漂ってきてワクワクしながら岩の間の海水に手を入れた。

よりどりみどりの湯船が楽しめる

大量に湧き出る硫黄成分で白く濁った海水の温度は40℃程度の適温で、深さもちょうどいい岩場の湯だまりで、そのまま即入湯可能であった。

さっそく入湯すると底からも熱い温泉が湧出しており、熱い場所とぬるい場所が波の加減で微妙に移動する。数人程度は同時に入湯可能な広さの湯船だが、その横にも別の湯船が大きな石に囲われて存在していた。こちらも適温で快適な湯船であり、それぞれを一人ひとりで独占。
少し海に突き出た岩場には濁りの無い透明のお湯が溜まっていた。

こんなに至近距離でも泉質が違うことに驚いたが、数カ所ある湯船を仲間で交替しながらのんびりと湯浴みを満喫する。入湯していると潮が満ちてきて10分後には先ほどまで快適だった湯船は温くなり、さらに10分後には海の中に沈んだ。

干潮時の海岸はあちこちに入湯ポイントがある

大きな石で囲われた岩場なので工事しての湯船作りは困難だが、干潮のタイミングで波が穏やかならば、よりどりみどりの湯船が楽しめる海の野湯天国である。

大海原を感じながらの湯浴み(PHOTO:尾山慎一)

運がものをいう薩摩硫黄島での野湯めぐり。ヤブをかき分け、急斜面を降りて、ようやく海の秘湯へと辿り着く。

絶海の孤島での湯浴みは、格別なよろこびを私にもたらしてくれた。

※マップは国土地理院(電子国土Web)の地図にスポットを追記

※マップは国土地理院(電子国土Web)の地図にスポットを追記

■穴之浜温泉
■住所:鹿児島県三島村硫黄島90-61
■アクセス:硫黄島港から平家城展望台手前百数10m(分岐A)まで車で10分、下車徒歩10分

■ウタン浜温泉
■住所:鹿児島県三島村硫黄島
■アクセス:硫黄島港から大谷入口の看板まで車で約10分、下車徒歩10分

 

TEXT:瀬戸圭祐
PHOTO:瀬戸圭祐、木下滋雄、尾山慎一

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

【筆者】瀬戸圭祐

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    アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に、全国各地の野湯を訪ね歩いた冒険譚『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)などがある。2024年5月現在、足を運んだ野湯はトータルで約110湯。
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