更新日: 2024年12月24日
山岳信仰の御神体に入湯!湯滝で滝行も!!NO 野湯 NO LIFE!【vol.05 御宝前の湯・両部の滝 雌滝(栃木県那須町)】
那須岳の主峰、茶臼岳の西麓。ここには、天空に浮かぶ野湯があるという。
名は、御宝前の湯。御宝前は「ごほうぜん」と読み「神仏の前」を意味する。つまり神様の前で手を合わせてお参りをする場所のことを指す。
この野湯のある那須岳一帯は、昭和初期に至るまで山岳信仰の霊場だった。修験者らは「御宝前の湯」を〝御神体〟とし、数十カ所の拝所を巡る登拝(とはい)を行っていたという。
しかし信仰が途絶えると、御神体とされていた神聖な源泉から、麓の温泉施設や別荘に湯を引くための工事が行われたため、湯量も湯温も下がってしまったそうだ。
目次
天空に鎮座する【御宝前の湯】
いざ、御宝前の湯にチャレンジ!!
御宝前の湯へのアクセスは、上からのルートと下からのルートの2つがある。私は上からのルートにチャレンジすることにした。
姥ヶ平の下の分岐から数100m進んだ小さな谷が入口だが、水のない沢のようになっていて分かりづらいらしい。そこからヤブコギ(※1)を20~30分ほどしながら下れば到達できるはずだ。
早朝に東京をたち、午前10時頃には峠の茶屋の駐車場に到着し、御宝前の湯へ出発。茶臼岳西側の姥ヶ平から三斗小屋温泉へ向かう途中で登山道を外れ、涸れた沢をヤブコギで下る。次々と立ちはだかる巨石に深いヤブ。迂回し、かき分けながらどうにか下る。
※1 ヤブコギ…道がなく草木が生い茂る薮の中をかき分けながら進むこと
巨岩から滑り落ちてあちこちを擦り剝きながらも、試行錯誤しながら進んでゆく。沢の随所から、温泉成分がにじみ出ていた。ということは、下流に野湯があるはずだ。確信を得るも、なかなか見つらない。気づけば、数時間が経っていた。
やっとのことで滝の上部に出たが、これ以上は進めなさそうだ。しかも、滝の形状が事前情報とあまりに違う。道を間違えてしまったのだろう。
無情にも日が暮れはじめた。あぁ、帰路につかなくては。そして、今下ってきたこの沢を登り返さなければならない現実に愕然とする。
全身泥だらけ、傷だらけで、ずぶずぶの濡れネズミのようになりながらもなんとか登山道に戻り、どっぷりと日が暮れた頃にかろうじて生還できた。
リベンジは地図には出ていない道をゆく
はじめてのチャレンジから1年と少し経ち、下からのルートでリベンジすることにした。業者のための給湯管保守道と呼ばれている道を下から登る。
この保守道は源泉地から山麓の温泉地へと設置されている引湯用パイプの保守道だ。パイプ道とか湯道ともいわれるが、この道は一般には公開されておらず、地図には出ていない。山岳信仰の神聖物に対する秘匿性といった観点からも伏せられているようだ。
事前準備の段階では、保守道の入口がどこにあるのか、明確にはわからなかった。したがって、まずは保守道を捜索する必要がある。
沼ッ原駐車場から茶臼岳への登山道を十数分ほど進んだ付近(分岐A)で道を外れ、笹ヤブに入りヤブコギであたりをつけて保守道を目指した。
等高線に沿って笹藪の中を北へ前進すると、10分足らずでパイプのある保守道に出ることができた。今回は御宝前の湯に辿り着けるかもしれない。希望が見えてきた。
パイプと保守道は概ね並行して走っており、ところどころに設置されている送湯パイプを確認しながら進んでいく。さらに2~3㎞進むと急斜面を流れる水量の多い沢に出た。
簡易的な橋が架けられており、ここでパイプを離れて脇から下に降りて沢を登って行く。降り口は少し踏み跡があるくらいで分かりづらく、ここでもヤブコギを強いられた。
天空に浮かぶ神々しい御神体
沢は既にぬるいお湯が流れており、御宝前の湯が近いことを彷彿させる。しばらく登ると森の中に突然、広い空間が出現した。そこには堆積した温泉成分で赤茶けたドーム状の巨大な岩盤があり、湯船はその最上部に神々しく鎮座していた。
ここまで歩き続けること約2時間。辿り着いた湯船には神々しい雰囲気が漂っており、やっとの思いでリベンジできたことに気持ちの昂ぶりを感じた。
人肌程度のぬるいお湯に身を浸す。湯船から溢れ出たお湯が、赤茶けた岩盤の山肌に筆を走らせてゆく。
前方には那須の山々を望むことができ、赤い大地と、緑の森、青い空のコントラストが美しい。湯船ごと天空に浮かんでいるような錯覚に陥る。
御神体のパワーを感じつつ入湯し、心身が清められたような気がした。
湯滝で修行だ!!【両部の滝・雌滝】登山道が無い双爆を目指す
今日はここで終わりではない。このエリアにあるもうひとつの野湯、両部の滝の雌滝を目指す。
御宝前の湯を源流とした渓流は、随所でお湯が湧出しており、その流れの下流に両部の滝、雌滝が温泉滝として落ちているのだ。
来た道を引き返し、給湯管保守道へ。そして、谷底への降り口(分岐B)を右へゆく。慎重にヤブを掴みながら落差数10mの急斜面を降りると、踏み跡はいくつかに分かれていたが、向かって右へ右へと進むと渓流に辿り着くことができた。谷底の御沢は渡渉が必要だが、ヤブコギよりはずっと歩きやすく、上流に進むと滝が見えはじめる。
双竜のように流れる両部の滝
赤茶色の岩盤が美しい御沢の流れは二股に分かれており、その先の広い空間に出ると、双竜のように流れる素晴らしい2つの滝を同時に見上げることができた。タイプの異なる滝をすぐ直近で比較しながら鑑賞できるのは、貴重な経験かもしれない。
向かって左が雄滝で、落差約20mを真っすぐ落ちる典型的直瀑だが、温泉ではなく冷たい飛沫でマイナスイオンを大量に振りまいている。渕に立つと瀑風による風圧がすごい。実は御宝前の湯への初回チャレンジ後にどこの滝にたどりついたのか地図で確認したのだが、それがこの雄滝の上部だった。
右の雌滝は岩場を階段状に落ちる分岐瀑で、ぬるいお湯が温泉成分で茶色くなった岩肌を階段状に落ちてくる。ゴツゴツした岩場を大量の飛沫を上げながら流れ落ちる様には、ダイナミックな力強さを感じた。
岩盤をよじ登り湯滝に突っ込む!!
この雌滝の源流が、その数100m上流にある御宝前の湯である。この滝は昔、山伏が籠って滝行する千日修行の場だったという。滝の流れに逆らって滑りやすい岩盤をよじ登り、足場の安定するテラス状の場所を探す。その場所に立ち、流れ落ちる湯の中に思い切って入ってみた。
直瀑ではないので、激しく打ちつけられる感覚はない。大量に絶え間なく流れ落ちる滝の中に立ち、頭から温泉を受け止めることができた。野湯マニアにとって湯の滝を全身で浴びることは、至高の喜びかもしれない。
ただし、湯温は人肌程度のぬるめで、夏であればとても気持ちいいが、寒い季節や雨の後の水量が多いタイミングでは体感温度はかなり低く感じるだろう。
滝に打たれながら、千日修行をした山伏への敬意が湧き起こる。全身全霊で湯の滝を満喫し、ほんの少しは悟りを開いたような気分になった。
■御宝前の湯、両部の滝 雌滝
■住所:栃木県那須郡那須町湯本
■沼ッ原駐車場までのアクセス:東北道那須ICから県道17号線266号線林道沼原線経由で約40分
※野湯やルート上には私有地を含む場合があります。野湯を訪れる際は事前に許可を得ることを推奨します
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【筆者】瀬戸圭祐
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アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に、全国各地の野湯を訪ね歩いた冒険譚『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)などがある。2024年5月現在、足を運んだ野湯はトータルで約110湯。
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