更新日: 2024年12月24日
「衝撃アウトドア本」発掘レビュー!STRANGE OUTDOOR BOOK vol.04『これで死ぬ』
まっぷる読者の皆さんお元気ですか!
ぼくがこの記事を書いているということは、生きているということ。皆さんがこの記事を読んでいるということは、皆さんも生きているということ。でも、人間って、ちょっとしたことで死ぬんですよね。不慮の事故に遭って亡くなった人たちは、その瞬間、みんな同じことを思ったに違いありません。「あれ? おれ死ぬの? こんなことで?」と。
実名を出すことは避けますが、国民的なヒット作をもつ作家が、予想外の事故で命を落としたというニュースは、度々目にします。名も知れぬ普通の人々も、誰もが知る有名人も、あるいは世界的に名を知られた冒険家でさえも、些細な判断ミスひとつで平等に死の淵を乗り越えます。今回ご紹介する『これで死ぬ』は、そんな「死ぬはずのなかった人たち」に襲いかかる、死のきっかけを解説した本なのです。
低すぎる死のハードルに震え上がれ!
まずは『これで死ぬ』というタイトル。よくぞ付けたものです。必要にして十分な情報量。米作家スタッズ・ターケルには、救急救命士、死刑冤罪者、被爆者、退役軍人、物理学者など様々な職業に就く63人にインタビューした『死について』という本があります。人間にとって「死」とは何なのかを考えさせる名著なのですが、『これで死ぬ』もその延長上にあるものといえそうです。
本書では「第1章 山で死ぬ」「第2章 動物にあって死ぬ」「第3章 毒で死ぬ」「第4章 川や海で死ぬ」という4つに分けて、様々なシチュエーションで人間が死ぬパターンを紹介しています。表紙もなかなかのインパクトだったのですが、ページを開いて第1章を見ると、いきなりこうです。
もう山に行ったら死ぬことは避けられない感じがしてきますね。登山すれば死ぬし、キャンプでテントを張っても死ぬ。スキーやスノーボードは死の危険に満ちているし、山菜採りは転落死への罠。あなたが採り集めたキノコはことごとく毒キノコなのです。
いや、スノーボードが危険と隣り合わせなスポーツなのは知っています。素人がキノコを採ることの怖さも常識人なら知っているでしょう。でも、ページをめくって最初に紹介される山での死亡例が「転倒して死ぬ」なのは、死へのハードルが低すぎて震え上がります。
様々な危機への対処法も紹介されている
そこに書かれている例を紹介しましょう。6月の上旬、2人の男性がパーティーを組んで秋田の駒ヶ岳へ向かいます。しかし、登山開始から約4時間後、先行していた相棒が倒れているのを発見します。119番通報して救助はされましたが、病院で死亡を確認。発見時の状況から、石につまづいて転倒した際に頸椎脱臼骨折し、呼吸不全で命を落としたようです。
滑落でも、落石でもなく、石ころにつまづいただけで! でも、それが山というものなのです。どれだけ用心をしても、しすぎるということはないですね。
山がこんだけ怖いんだから、海はもっと怖いんじゃない? そうです。海は山どころの騒ぎじゃありません。なにしろでかい。よく「七つの海」というけれど、ご存知のように海は全部つながっていて、実はひとつしかない。その海水の総量は推定で約14億立方キロメートル。重さにすれば約14兆トン……の10万倍。桁外れの量。想像を絶する水圧。そりゃヒトも死ぬよ!
海には山以上に死の入り口が口開けていますが、そのなかでの初歩的な死亡例のひとつが、たとえば「離岸流で死ぬ」というやつ。
離岸流というのは、海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとするときに発生する強い流れのこと。波っていうのは「寄せては返す波のように」なんて言い方があるように、行ったり来たりを繰り返しているように思われますが、その強さが違うんですね。しかも、水面は穏やかに見えても水面下の離岸流が予想外に強く、足を救われてそのまま沖へ連れ去られてしまうことが少なくない。
とにかく、他に水泳客がいないところでは泳がない、監視員がいるか確認する、救命ジャケットを着用するなどなど、用心には用心を重ねるといいです。さらに、この本には「知っておきたい安全知識」というコラムがあり、そこでは様々な危機への対処法を紹介しています。もちろん離岸流で流された際の戻り方もばっちり載っているので、ぜひ参考にしてください。
人間の脳は「大丈夫な方」にバイアスがかかる
本書を読んでいて感じるのは、本当に気をつけなければいけないのは、山や海での活動を仕事にしていたり、積極的に趣味にしている人ではないということです。そういう人たちほどきちんと危機管理をしているし、危険に遭遇したときの対処法も知っている。
それよりも気をつけるべきは、年に一度か二度、友人に誘われたり家族サービスのため慣れない川遊びやハイキングに行こうとする人です。
人間の脳というのは「大丈夫な方」にバイアスがかかるもので、ひたひたと危険が迫っているにもかかわらず、誰もが「自分だけは大丈夫」と思って油断する。熱中症なんていうのは、その際たるものですね。帽子もかぶってる、水も定期的に飲んでる。なのに、いつの間にかめまいがして、ヤバい! と思ったときにはもう手遅れ……なんてことになる。
先日、江ノ島へ遊びに行ってきたんですけど、ぼくは昨今の日差しの強さを警戒して、帽子と日傘はもちろん、濡れタオルと水を凍らせたペットボトルなども携帯して、万全を期しておきました。周囲を見渡しても、大半の人々は帽子、日傘、片手には水筒の類を持っていましたが、なかにはそうした準備をまったくしてないように見受けられる人もいるんですね。
午後のニュースの主人公にならないためにも、装備は万全に。忘れがちな塩分補給も、スポーツドリンクや塩飴でバックアップするとよいです。
気をつけよう、アナフィラキシー・ショック!
個人的に背筋をゾワゾワさせながら読んだのが「第2章 動物にあって死ぬ」ですね。日本では限られた山に近づかなければクマに襲われることはまずないし、海でも人喰いザメに出会うことは珍しい。でも、毒ヘビやハチあたりになると、ちょっとした林や草むらでも遭遇の確率はグッと上がる。君子危うきに近寄らず、です。
ご存知の人も多いと思いますが、ハチの毒は一度刺されただけなら腫れる程度で済みますが、二度目、もしくは繰り返し刺されると「アナフィラキシー症状」を発症し、最悪の場合はショック死を引き起こします。アナフィラキシー・ショックは本当に怖いもので、この章では他にも「オニダルマオコゼ」や「オニヒトデ」によるショック死の例も紹介されています。
とにかく、自然で遊ぶということにはたくさんの喜びが待っている反面、死の危険もセットでついてくるのです。『野外毒本』『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』『人を襲うクマ 遭遇事例とその生態』『十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕』『山はおそろしい 必ず生きて帰る!』……。こうして巻末の著者プロフィールにある羽根田治さんの著書のタイトルを並べてみると、そんな自然の恐ろしさがよ~くわかります。
■羽根田治・著『これで死ぬ』(2023年8月/山と溪谷社)
PHOTO:とみさわ昭仁
『これで死ぬ』はこちらから購入できます
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【筆者】とみさわ昭仁
1961年東京生まれ。フリーライターとして活動するかたわら、ファミコンブームに乗ってゲームデザイナーに。『ポケモン』などのヒット作に関わる。
2012年より神保町に珍書専門の古書店「マニタ書房」を開業。2019年に閉店後は、再びフリーライターとして執筆活動に入る。近著は、プロハンバーガーこと高野政所氏が画像生成AIで作った架空の昭和の風景画集『架空昭和史』(辰巳出版)の編集&プロデュースを担当。