更新日: 2024年9月15日
暑い夏は涼しい沢コースがおすすめ!日本200名山の栗駒山にある宮城県随一の沢コースを登り、お花畑が広がる雪田草原を通って、360度の絶景が広がる山頂へ。栗駒山の魅力を凝縮した山旅が楽しめます
日本200百名山にも選ばれている栗駒山。その山名は5月中旬頃、西側の斜面に天駆ける馬(駒)の雪形が現れることに由来しています。元来、「駒形嶽」と称されていましたが、岩手県胆沢郡にある駒ヶ岳と区別するために、宮城県栗原郡の一字を冠して栗駒山と呼ばれるようになりました。近在の人々はこの見事な雪形を山の神のメッセージととらえ、田植えを始める目安としました。それゆえ、古くから山岳信仰の山として崇敬され、山麓の集落でお駒講を組んで御室にある駒形根神社奥の院にお参りしたといわれています。
また栗駒山は日本有数の豪雪地帯に位置しているため、盛夏まで雪渓が残り、多くの高山植物が見られる花の山として有名です。雪解けとともにヒナザクラや、ワタスゲ、トキソウ、キンコウカなどの高山植物が順番に咲き競います。この山が一番華やぐ季節は秋です、ドウダンやハウチワカエデにハイマツが混じる豊かな植生が創り出す秋の紅葉は「神の絨毯」と称され、全国的にも有名な紅葉スポットになっています。
しかしながら登山者の多くが宮城県側のいわかがみ平や、岩手県側の須川温泉を起点に短時間で登れるコースに集中しており、行動時間が長く、標高差も大きい他のコースは敬遠されているのが実情です。そんなロングコースこそ、ブナの原生林に包まれた、昔から変わらぬ静かな栗駒山の良さを味わえるのですが・・・。
そこで混雑するコースが苦手な私は、かつて山岳信仰の登拝路だった御沢表掛コースを歩くことにしました。本来の登拝路は表掛から栗駒山頂を経て裏掛を周回するコースですが、コースタイム8時間強のハードコースなので、今回はもう少し難易度の低い山頂から中央コースを下ることにしました。御沢コースは約2Kmの沢登りや、盛夏まで残る雪渓、そして様々な高山植物に出会える、栗駒山の良さを凝縮したコースです。
執筆・写真:山と高原地図「栗駒・早池峰」著者 曽根田 卓
目次
1.いわかがみ平の駐車場から御沢コース登山口へ
東北地方の山全般に言えることですが、最寄りの駅からいわかがみ平を結ぶ路線バスの便がありません(※)。そこでマイカーもしくはJR東北新幹線くりこま高原駅からタクシーを利用したアクセスが基本となります。
※紅葉の時期のみ臨時バス「栗駒山・紅葉号」がJR石越駅~くりこま高原駅~いわかがみ平の間で運行されます(詳しくはこちら)。また同じ時期には、いわかがみ平駐車場~いこいの村栗駒跡に設ける臨時駐車場の間の約3kmでマイカー規制が実施されます。ご注意ください。
今回は単独で、しかも登山口と下山口が異なる山行のため、下山口となるいわかがみ平にマイカーを停めて、約4km離れた御沢コース登山口へ県道42号(築館栗駒公園線)を歩いて下ることにしました。登山において車道歩きは嫌なものですが、朝の凛と冷えた空気の中、清々しい景色を眺めながらの車道歩きはさほど苦になりませんでした。
御沢コース登山口から本格的な登山が始まります。御沢まで約1時間10分。最初は昔スキー場だった草原の中を少し歩きますが、そこから先はほぼ山腹を横切るように岩魚沢、デロコ沢を越えて深いブナの森を西進します。登山道の脇には夏キノコのチチタケや、アカヤマドリ、ドクベニタケが生えていました。キノコを観察しながら歩くのも私の山の楽しみ方の一つです。
2.御沢の出合から沢沿いのルートを約2kmさかのぼる
白い湯の花が水面下に付着し、硫黄臭が漂う小沢を渡った先が御沢の出合です。飛び石で沢の対岸に渡り、石に腰掛けて沢靴に履き替えます。ここから大きな岩がゴロゴロした御沢を約2km遡行します。ロープを必要とする滝はありません。
登山ルートは岩に描かれた黄色いペンキマークと、木々に付けられた赤テープで示されています。しかし大きな石の間をジャンプしないと渡渉できない箇所が随所にありますので、登山靴の場合は行き詰ってしまう場合が多く、ほとんどの方が靴を中まで濡らしてしまうようです。その点、沢靴の方が沢の中をジャブジャブ歩けるため、水と戯れながら楽しく、涼みながら歩けますし、ヤブに覆われた中洲を避けて通過することもできます。
しかし沢の遡行はルートファインディング要素が加味されるため、普通の登山道歩きに比べ時間がかかりますので、焦らずのんびりと沢歩きを楽しみましょう。
なお御沢の水は鉄分が含まれているので飲用には適していません。
3.御沢唯一の滝、ハシゴ滝
2時間ほどの沢をさかのぼると川幅が細くなり、右から大日沢が流入してきます。この二股は左の沢に入りますが、大日沢の奥に木々の間から栗駒山の山頂が望めます。長時間歩いてきたのに山頂はまだまだ遠いので少しがっかりするかもしれません。
その後、急に傾斜を増した沢筋を少し登ると巨岩が積み重なったハシゴ滝が姿を現します。
※ゴーロ・・・大きな石や岩がゴロゴロとある場所。安定していない岩などがある可能性が高いので、通過の際には細心の注意が必要となります。
4.高山植物が咲き競う御室下
ハシゴ滝の上部では水量が一気に減り、せせらぎのような穏やかな沢になります。御室の岩壁が望める場所があり、雪渓の有無が観察できますが、この日は雪渓が完全に消えていました。
小沢を左右に渡り返しながら登って行くと、沢から離れ、右手の草つき斜面に登山道が移るポイントがあります。草ヤブが繁茂して登山道が隠れている場合が多いので要注意箇所です。ここで沢靴から登山靴に履き替えます。
そして最後に袋小路になった半円形の地形から、ロープを頼りに岩まじりの急なザレ場を登ると、いっきに視界が開け、高山植物が咲き乱れる御室下の雪田草原に飛び出します。栗駒山随一の美しい景観に誰もが驚くでしょう。ここは栗駒山の桃源郷と言っても過言ではありません。
雪田草原・・・残雪が厚く残る雪田と呼ばれる場所で、雪解けの後のごくわずかな期間に形成される植生のこと。
道迷い対策には山と高原地図アプリ!!インストールしてから登山へいこう
山と高原地図アプリを使えば、自分の今立っている場所が人型のシンボルで表示されます。また、自分の向いている方角(スマートフォンの正面が向いている方向)が扇形に示されるので、道迷いのリスクが格段に下がります。これらの機能はGPSの測位によるものなので、スマートフォンが圏外でも使用可能です。
また、歩いてきたルートも同時に記録できるので、山行記録の整理にも持って来いの便利なアプリです。
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5.かつての山岳信仰の聖地・駒形根神社奥の院へ
以前は盛夏まで御室下の雪渓が残っていましたが、地球温暖化の影響なのか最近は7月中に雪渓は消えてしまいます。7月以降の雪渓は氷化しやすいため軽アイゼンを持参しましたが、この日は使う必要がありませんでした。
御室まで右手に栗駒山、左前方に虚空蔵山、正面に御室の岩壁の開放的な風景を眺めながら、夏の高山植物が群生する急な雪田草原を登ります。最初は顕著な踏み跡がありますが、雪解けとともにルートが移り変わるため、途中から踏み跡が不鮮明になります。できるだけ高山植物を踏まないように登りましょう。
岩壁の基部まで登り詰めるとはっきりした登山道が現れます。右手に少し進めば栗駒山の山岳信仰の聖地で、かつて多くの人々が参拝した駒形根神社の奥の院に着きます。山岳信仰が盛んだった時代に思いをはせながら参拝します。
6.天狗平を経て栗駒山山頂を目指す
御室からベルト状に上部へ連なる岩壁の下部に沿って登ります。一部、草ヤブが道を隠すところもありますし、足場の悪いガレ場が続く場所で、しかも夏の暑い日差しを遮る木々が一切ありません。体力の消耗をおさえるためにも、ここは道沿いに咲くキンコウカやイワイチョウ、オオバギボウシなどの花々と雄大な栗駒山の姿を眺めながら、ゆっくりペース守って登ります。
ちなみに御沢コースは滑落と転倒による事故の危険性があるため、下りの利用が禁止されています。また7月上旬までは斜めに急傾斜した雪渓が残るため歩けません。盛夏から秋にかけて楽しむことができる、とっておきのコースです。
やがて左手の岩壁が途切れた場所を灌木につかまって登り、湯浜コースに合流すると整備された歩きやすい尾根道になります。そこから天狗平までもうひと頑張りです。
※ガレ場・・・岩のくずや石が積み重なっており、足元が不安定で歩きにくい場所。岩が大きくなるとゴーロと呼ぶことがある。
※灌木・・・背が低く、幹が太く発達しない樹木のこと。低木や喬木と呼んだりする。
稜線上の十字路・天狗平に出ると、行き交う登山者の数が一気に増えます。南側から天狗平へ登ってきた私に女性グループが「どこから登ってきたのですか?」と驚いて聞いてきました。登路を指さして「御沢コースですよ。」と答えると、そのコースの存在自体が分からない様子でした。
天狗平から分岐する須川コースは昭和湖付近の火山ガス濃度が高いため、現在は天狗平から苔花台まで通行禁止になっていて、須川温泉へのエスケープルートとしては使えません。ここから山頂までは天狗岩の脇を通過して、展望抜群の尾根を約20分の行程です。
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】山と高原地図 編集部
『山と高原地図』シリーズは、1965年より毎年発行、登山を楽しむ方に長く親しまれ続けているロングセラー登山地図。深田久弥による「日本百名山」をすべて収録し、主要な山岳エリアを網羅しています。
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