更新日: 2024年7月26日
【石川県 和倉温泉・山中温泉・山代温泉】憧れの高級旅館~温泉宿ガイドブックのプロがおすすめする、一度は泊まりたい至高の宿
コロナ禍の長期化もあり、旅の「行き控え」で楽しみがない...という人は多いのではないでしょうか。
そんな近ごろのトレンドは、従来なら支出していたはずの旅行コストを憧れだった高級旅館やホテルにドン!と費やす「一点豪華主義」。贅を尽くした料理と温もりに満ちた温泉、ハイエンド宿ならではの極上空間は、スペシャルなひとときを叶えてくれます。
ここでは、美術館のような空間で大人の時間と美味に酔う「加賀屋別邸 松乃碧」(石川県・和倉温泉)、純和風の造作ともてなしで日本旅館の真髄を見せる「胡蝶」(石川県・山中温泉)、加賀の伝統工芸をハード・ソフト面の双方に生かして継承の一助を担う「星野リゾート 界 加賀」(石川県・山代温泉) をクローズアップ。
ホテル・旅館の取材歴20余年、まっぷるマガジン『温泉やど』シリーズで2500件以上の宿に関わってきた編集者が、「プロの目利き」でおすすめするイチ押しの高級宿をご案内します!
執筆者のプロフィール
過去20年に渡って国内・海外の旅館やホテル、旅行全般のメディアを制作しているプロダクション「編集屋チョーク」です。
創刊28年の『温泉やど』シリーズをはじめとする「まっぷるマガジン」を通して、関わってきた宿は2500件以上。宿の良し悪し・見極めには“そこそこ”自信あります。
趣味は「品のある」宿の考察、支配人との一献、あとは庭いじりと猫いじり。
取材・撮影には特急で馳せ参じ、宿選びの参考にしていただける現場のライブ感と実直なレポートをお届けします!
予約時におさえておきたいポイントは?
満ち足りた至福の滞在を体験したいときにダンゼンおすすめの高級宿ですが、もちろん個々の期待や優先事項はさまざま。
せっかくお金を出すなら失敗したくない!という人のために、これから紹介する宿は、下記のカテゴリーに着目しています。予約時のポイントをおさえながら、自分のニーズに合わせた宿選びを!
- 客室…当然ですが、客室クラスが上がれば料金も上がります。さっくり素泊まりで一泊、料理のグレードを上げて部屋はモデレートで、おこもりできる連泊可能な客室がいい、1部屋の定員や眺望が優先など、まずは自分のプライオリティに順番をつけて、ベストマッチな客室選びを。今回は参考となる客室の広さも紹介しています。
- 部屋付き温泉…高級宿は客室に源泉かけ流しの露天風呂や内湯を備えていることが多々。ただ、なかには客室風呂は白湯、温泉は大浴場のみという場合もあります。温泉を重視したいなら、ぜひともチェックしておきたい項目です。
- 食事…部屋食、専用個室、食事処と大きく3つのパターンに分かれます。高級宿の場合、広間にずらーっと膳が並ぶことはまずありません。おこもり滞在がねらいなら部屋食に徹している宿がおすすめですが、ダイニング食の場合でも100%に近い宿がかなり慎重に密を避ける安全対策を実施しています。
- パブリックスペース…観光ではなく「宿そのもの」が旅の目的、というときは館内・敷地内に何があるのか、何ができるのか、は気になるところ。これはHPで紹介している宿が多いので、事前に確認しやすいポイントです。
なお、本記事の表示料金は、2名で宿泊した場合の1名料金の目安となっています。
加賀屋別邸 松乃碧(石川県・和倉温泉)
海の蒼と芸術品に魅せられる
大人のための特別な時空
和倉温泉の名を全国に知らしめた国内最大級の名旅館、加賀屋が“大人の二人”に特化したコンセプトで展開するハイエンドな宿がこの松乃碧。
約1400人という収容人数をもつ加賀屋とは異なるテイストで、こちらは全31室に絞ったスモールラグジュアリー的な位置づけです。
北陸エリアではいち早くインクルーシブシステムを取り入れ、夕食・朝食時の飲み物をはじめ、ラウンジやバーでのドリンク、スイーツなどは料金内。また「美術館に泊まる宿」を標榜するだけあって、希少価値の高い石川県の伝統工芸品が館内随所にちりばめられ、輪島出身の漆工芸家・角 偉三郎(かど いさぶろう)のギャラリーも併設、見る者を圧倒させる繊細な展示物や意匠のあるディスプレイが高級旅館にふさわしく、エントランスからして期待の高まる素敵な造作です。
MUSEUM×RYOKANの贅沢美
豪快な杉の大木を寝殿作り風に配したエントランスは、松乃碧のシグネチャーといえる空間。全国の漆器では初の重要無形文化財に指定された輪島塗の漆器コレクションによって、黒と朱の小世界が創造されています。
地元が誇るこの輪島塗、完成までに120以上の工程を踏み、ひとつの椀を仕上げるのに一年以上を要することも。天然の漆を幾重にも塗り足すことで堅牢さと優美さを併せもち、その品質の高さは江戸時代中期にはすでに世の認めるところとなっていた日本を代表する塗りものです。
この空間には、漆器の原点を軸にしながら、独自の漆芸表現で新しい道を切り拓いた角 偉三郎の美術館も併設。代表作の合鹿椀(ごうろくわん)をはじめ、へぎ板やお重、沈金のパネルなど国内外で高い評価を得た偉三郎の力作が工夫たっぷりに展示されています。
また奥へ進むごとに、加賀の美意識が凝縮された九谷焼や友禅、金沢金箔といった世界的に知られる工芸品がそこここでノーブルな彩りを放ち、館内随所がギャラリーさながら。品格に満ちた石川の文化と伝統を肌で感じることができます。
好きなものを好きなだけ。インクルーシブの内容は?
近年、宿に限らずインクルーシブスタイルはぐんと増えましたが、北陸の旅館で最初にこのシステムを取り入れたのが松乃碧。特別なものを除き、以下の内容すべてが宿泊料金に含まれています。
・ラウンジ(アルコール含む各種ドリンク、スイーツ)
・茶室(呈茶/14:00~18:00、1組30分、フロントで要予約)
・食事処(夕食・朝食時の飲み物、アルコール含む)
・湯上がりラウンジ(ビール、ソフトドリンク、ジェラート)
・バー(アルコール含む各種ドリンク、夜食など)
・客室の冷蔵庫内の飲み物すべて
・温泉めぐり(加賀屋グループ旅館の大浴場利用) ※コロナ対策のため現在休止中
旅先でのお酒のたしなみは、高揚感もあってなかなか楽しいものですが、個々のニーズに合わせてインクルーシブなしの宿泊プランも用意。アルコールが苦手という人にはこちらがおすすめです。
至高の料理はさすがに北陸随一の名旅館
「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で40回もの総合第1位を獲得している加賀屋のグループだけに、料理の質は折り紙付き。食材も手技もクオリティーはかなり高く、舌の肥えた大人を十分に納得、満足させる至福の品々でもてなしてくれます。
稀少な能登牛をはじめ、ノドグロや寒鰤、加能蟹、舳倉島(へぐらじま)の鮑といった日本海の高級魚介など食の宝庫・能登の美味は垂涎ものぞろい。料理人の腕が冴える見事な調理や厳選した器も素晴らしく、奇をてらい過ぎない演出で供されるあたりは食材に自信のある証拠。さすがというほかない魅力のひとつが料理といっても過言ではありません。(季節や仕入れ状況によって内容が変わるため、写真は一例です)
すべての客室から波穏やかな七尾湾を一望
客室はすべて和建築を基本としながらも、立ち座りの楽なリビングスペースとツインベッドを採用。海に向かっての導線がよく、眺めを最優先した奥行きのあるレイアウトで瑞々しく快適な空間造りが具現化されています。
趣は全室少しずつ異なりますが、タイプは3つのみ。特別室は温泉を引く露天風呂付き、和室と和洋室は内湯(沸かし湯)となり、温泉の利用は大浴場へ。和室は2室のコネクティングが可能な部屋もあり、グループでの利用や二世代旅行時に好評です。
客室タイプは以下のようになっています。
・和室…ツインベッド・リビング12畳/2名定員
・和洋室…ツインベッド+リビング13畳+広縁/3名定員
・露天風呂付き特別室…ツインベッド+リビング44㎡+和室8畳/3名定員
畳に合う日本的な要素を取り入れたデザインで知られる高級家具ブランドROCKSTONEのソファやマッサージチェアを全室に配しているほか、備品の充実度も特筆もの。
フリーWi-fiやオーディオ機器はもちろん、フェイス・ボディケアのアメニティーも豊富、3種の館内着、またコーヒーや加賀棒茶のセット、おつまみ、冷蔵庫内には各種アルコール、ソフトドリンクが用意され、いくつでも追加オーダーOK。スパークリングワインもフロントへ知らせると客室へ届けてくれ、セッティングしてくれます。これぞ大人の別天地に憩うインクルーシブの醍醐味ですね。
1200年の歴史をもつ成分豊かな海の湯
和倉の湯は北陸では唯一の本格的な海浜温泉。高い塩分濃度と高温源泉は療養泉の基準をはるかに超え、1日2000トン以上もの湧出量を誇ります。
海中にあった湯脈の発見は1200年前まで遡りますが、室町時代の七尾城主畠山氏や近世では加賀藩前田家が現実的な温泉整備事業に力を注いだこともあり、その泉質の良さから江戸時代初期にはすでにブームの兆しを見せていたほど。
松乃碧では、この大自然の恩恵を海の眺めとともにたっぷり堪能することができます。2か所の露天風呂付き大浴場はいずれも波静かな七尾湾に臨み、絶景と湯浴みを同時に味わえる趣向。これぞ非日常の愉悦ですね。(利用時間は15:00~翌1:00、5:00~11:00)
編集者からのおすすめポイント
「加賀屋別邸 松乃碧」のチェックポイントはこちら!
・美術館というテーマに恥じない展示品の格の高さ
・料理の質に安定感があり、常に最上級の味を供している
・接遇に重きをおいた加賀屋伝統の心得が映える気配り
こういったあたりに着目しながら、ぜひ「加賀屋別邸 松乃碧」を楽しんでみてはいかがでしょうか?
ミシュランガイド北陸版で旅館部門の4レッドパビリオンを獲得。たっぷり時間をとって、大切な人と訪れてみたい宿です。
お宿のデータ
加賀屋別邸 松乃碧
かがやべっていまつのみどり
所在地/石川県七尾市和倉町ワ部34
アクセス/JR七尾線和倉温泉駅から送迎バスで約6分(要予約)
電話番号/0767-62-8000
宿泊料金/1泊2食付(税・サ込)4万9500円~8万円前後
駐車場/30台
子ども/宿泊不可
>>「加賀屋別邸 松乃碧」をネットで宿泊予約
胡蝶(石川県・山中温泉)
日本旅館の真髄を受け継ぐ
純和風の格式と加賀の懐石
奇岩が連なる渓流と3つの個性的な橋で知られる県下きっての景勝地、鶴仙渓(かくせんけい)に寄り添う閑静な湯宿です。
平成の中ほど以降、大型化・モダン化が著しく進んだ山中温泉にあって、今も日本旅館ならではの造作と品位、代々培われてきたもてなしの精神を大切に受け継いでいる姿が深く印象に残ります。
建物は書院造り、数寄屋造りといった伝統的な和建築。凛とした規律のなかに落ち着きを醸す古き良き日本の美、九谷焼や山中塗の器で供する加賀の食、そして1300年の歴史をもつ名湯が旅慣れた大人を魅了しています。
鶴仙渓に臨む全客室が贅沢な2間続き
「和美の室礼、花鳥風月」をコンセプトとしている宿だけあり、全客室が緑濃い鶴仙渓の景色を取り込む風流な空間。すべてが主室と副室の2間続きで、部屋食に際してゆとりの広さを確保しているとともに、和の伝統工法に則った端整な造作がこれぞ日本旅館といった趣です。
離れ風の「月の棟」と渓流に沿った「鳥の棟」はいずれも数寄屋造り、特別室「聚楽第」は昭和15(1940)年に宮大工が建てた木造2階建ての一棟屋を生かしたもので、和室を成立させる要素がパーフェクトに整った本格的な書院建築。要の書院はもとより、近江八景の彫刻欄間や格天井、組子格子など見事な普請が際立ちます。こちらは最大9名まで宿泊でき、グループや三世代旅行で別荘のように使えるのも利点。ただし一夜一組のみのため、希望の場合は早めの予約が鉄則です!
客室タイプは以下のようになっています。
<月の棟>
・白鷺/高瀬…和室12.5畳+6畳
・こおろぎ…露天風呂付き15畳+6畳
・黒谷…露天風呂付き12.5畳+6畳
<鳥の棟>
・鶴仙…12畳+6畳
・河鹿…12畳+リビング8畳
・道明…12.5畳+4.5畳
・芭蕉…12畳+4.5畳
・岩船…露天風呂付き12畳+6畳
<1棟建て特別室>
・聚楽第…露天風呂付き12.5畳+6畳+2.5畳(2階はベッドルーム12畳+8畳+8畳)
茶の湯の心と感性を映し込む加賀懐石
山中の風土や慣習が育んだ郷土の味と調理技法を尊び、それを旅館料理へと昇華させたのが胡蝶の加賀懐石。華やかな演出へのこだわりよりも、本来の上質さに目を向けた一級の味を供しています。
料理長は、東京・赤坂の料亭で長く研鑽を積んだ三代目主人でもある三谷 修司氏。「懐石料理は茶事の一要素ですが、基本の精神は亭主がお客さまをもてなすことに尽きます。おいしいものを愛でる楽しみは人間の感性の原点」という信条を守り、手間を惜しむことのない繊細な料理には一期一会に通じる懐石の心が映されています。
日本海の高級魚介や能登牛ほか贅沢な食材選びが光る料理はもちろんですが、古来の方法で炊き上げる魚のあら炊き、加賀太胡瓜や加賀蓮根の一鉢、鮎やゴリといった地元の川魚など、素朴ながら山中の食文化が伺える品々にも、さすがに洗練された妙美があります。
また先々代から継承する貴重な九谷焼や山中塗の器も見事。食材を生かしきることや、料理と器の調和に重きをおいた北大路魯山人の哲学にならい、選び抜いた陶磁器・漆器コレクションが目をも楽しませてくれます。
料理プランは一年を通して、基本の加賀懐石ほか、ランクアップが3~4種、季節によってフグやウナギ、ズワイ蟹といった極上食材に特化したコースを設定。夕食・朝食とも部屋食または個室食事処での用意となります。
芭蕉も称えた山中の湯を24時間いつでも自由に
館内には、露天風呂付き大浴場「月かげの湯」、鶴仙渓とあやとりはしが目の前に迫る内湯浴場「川かぜの湯」、貸切風呂「山なみの湯」があり、深夜も含め滞在中いつでも好きなときに山中温泉を楽しめる趣向です。
漂泊の俳人、松尾芭蕉が代表作『おくのほそ道』で詠んだ一句「山中や 菊は手折らじ 湯のにほひ」はあまりにも有名ですが、これは薬効高い山中の湯なら不老長寿の菊の露など飲むまでもないという意。実は温泉嫌い、しかもひとところに長く滞在しない生粋の旅人だった芭蕉が、山中温泉だけはよほど気に入ったのか、9日間も逗留し、いくつもの句を残したうえに、草津や有馬と並ぶ「扶桑の三名泉」と褒め称えています。
蓮如上人や柴田勝家が好んで湯治に利用し、また昭和初期には海軍の温泉病院も開設されたほど湯の効能は高く、今も北陸随一の名泉として豊富な湯量と効用を誇っています。
館内随所に秘蔵の九谷焼磁器やアート作品が
純粋な和建築を維持する宿屋だけあり、館内パブリックは控えめ。派手な施設こそありませんが、そこに品位が感じられ、また随所に飾られる芸術的な絵画や陶磁器が日本旅館ならではの床しさに彩りを添えています。
館内には宿泊者だけが観覧できる「ギャラリー蔵」があり、宿の創業以前から蔵物として受け継がれた貴重な九谷焼を展示。現存数が少なく希少価値の高い古九谷をはじめ、文政期に古九谷再興の精鋭となった吉田屋窯、神業の赤絵細描といわれた飯田屋窯、精緻な絵付けが圧巻の大聖寺伊万里など歴史上の傑作品が並び、焼物好き、骨董好きにはちょっとたまらない空間です。
おすすめ土産は名物の伝統料理
自宅でも胡蝶の味を楽しめる名物が「お茶漬けいわし」と「かじかの佃煮」。
加賀地方に伝わる郷土食を、料理長がイチから手作りでお土産用に仕立て、数々のメディアでも取り上げられた大人気の商品です。
いずれも保存が効く昔ながらの濃い味付けで、酒の肴やお茶漬けにうってつけ。北大路魯山人や松尾芭蕉も好んで食したという素朴な田舎料理は、おもたせにも使えると評判ですよ。
編集者からのおすすめポイント
「胡蝶」のチェックポイントはこちら!
・格式と由緒が漂う建築美を保つザ・日本旅館
・熟慮した献立で構成される質のいい懐石料理
・和の室礼を重視しながらも、親しみのある接客サービス
こういったあたりに着目しながら、ぜひ「胡蝶」を楽しんでみてはいかがでしょうか?
和風旅館には珍しくチェックイン14時、アウト12時。現在ニーズに呼応した長い滞在時間で、とくに朝ゆっくりできるのがうれしいと好評です。
お宿のデータ
胡蝶
こちょう
所在地/石川県加賀市山中温泉河鹿町ホ-1
アクセス/JR北陸本線加賀温泉駅からタクシーで15分(加賀温泉駅から送迎あり、要予約)
電話番号/0761-78-4500
宿泊料金/1泊2食付(税・サ込)3万5200円~8万円前後
駐車場/30台
子ども/宿泊可(大人の70%)
>>「胡蝶」をネットで宿泊予約
星野リゾート 界 加賀(石川県・山代温泉)
麗しい加賀文化を受け継ぐ
山代温泉のランドマーク
界 加賀の前身は、北陸の旅館文化を 400年近くの長きに渡って支えた白銀屋。昔日のたたずまいを残しながらリノベートした空間に、モダンな趣と郷土の工芸品をふんだんに取り入れ、「新しい感性が息づく加賀伝統の温泉宿」であることを基本テーマに掲げています。
加賀地方の伝統工法でもある紅殻(べんがら)着色の格子と赤壁で表門を構えるのは、由緒ある山代温泉のなかでも唯一。歴史的な建築を保存しながら改修されたフロント棟(旧白銀屋の本館)や茶室「思惟庵」は国の登録有形文化財ともなっています。
また料理やもてなしの評価も高く、ミシュランガイドのエリア版で旅館部門の4レッドパビリオンを獲得。加賀藩前田家にも重用された寛永元(1624)年からの軌跡を現代へとつなぐ役割を担いながら、温故知新のストーリーを紡いでいる湯宿です。
加賀友禅や九谷焼を客室のエッセンスに
各地域の文化継承をテーマにしている界らしく、「加賀伝統工芸の間」と名付けた客室には加賀友禅をはじめ、加賀水引、九谷焼、山中漆器の4つを建具や装飾で取り入れています。
近年インテリアに使われることも多い加賀水引は障子のあしらいに、九谷焼は特徴を生かした客室の表札や愛らしい茶器で、ベッドパネルやライナーには加賀友禅など、すべて地元作家が手がけるオリジナル。意匠を利かせた「ご当地部屋」で知られる界の小世界が品よく表現され、地域の伝統と共存する姿勢に心温まるものがあります。
すべての客室が畳間に寝台をしつらえた瀟洒なローベッドスタイル。ソファーの配置や眺め、広さなど少しずつ趣の異なる4タイプ48室があり、18室の露天風呂付き客室以外はシャワーブース付き。全国の界でお馴染みのオリジナルマットレス「ふわくもスリープ」や和漢を使ったアメニティー、おしゃれな風呂敷も好評です。
客室タイプは以下のようになっています。
・和室A…3名定員(約41~51㎡)
・和室B…4名定員(約62㎡)
・露天風呂付き和室…3名定員(約51㎡)
・露天風呂付き和室「紅殻の間」…3名定員(約51㎡)
魯山人の思想を映す見事な器と料理の競演
料理もまた、界の得意とするテーマ性を巧みに体現した逸品ぞろい。白銀屋を常宿にしていた北大路魯山人の「器は料理の着物」という哲学に習い、「器と料理のマリアージュ」を基本思想にした美味を供しています。
若き日の魯山人が、陶芸作品を山代の旦那衆に買ってもらい、また得意の書や篆刻で温泉旅館の看板を制作して宿賃にしていたというのは有名なエピソードですが、界 加賀でも若手作家の九谷焼・山中塗作品を多く取り入れ、湯客の目を楽しませてくれます。
料理プランは通年、基本会席と季節ごとに変わる特別会席。とくに例年登場する春から秋のノドグロや鮑、冬の活けズワイ蟹が好評で、古来の調理法を参考に料理長が考案したオリジナルの名物「しめ縄蒸し」はそのルックスもインパクト大。
おいしいものには事欠かない北陸、食膳を彩る旬の恵みと美しい器の競演は、常に宿泊客の満足度項目№1を占めています。
開湯1300年の歴史を誇る北陸随一の古湯
山代は北陸3県のなかでも最大級の温泉。歴史は古く、平安時代末期にはすでに湯の街ができあがっていたとか。藩政時代から続く共同浴場を“総湯”、その四周を宿屋や商店が囲む街並みを“湯の曲輪(ゆのがわ)”と呼ぶ北陸特有の形態が今なお残っています。
湯の曲輪の内に建つ界 加賀が引くのも総湯と同じ塩類系の源泉。館内2か所にある大浴場は、九谷焼の伝統的な4様式で描かれたアートパネルや金沢の金箔工芸で彩られた加賀の粋が冴える空間。弱アルカリ性の湯はクセがなく肌なじみのいいなめらかさで、敏感肌の人にも安心です。
また宿泊者は、徒歩1分の場所に建つ共同湯「古総湯」を無料で利用できる特典付き。客室に置かれているアメニティーをオリジナル風呂敷に包み、下駄を鳴らして湯めぐりに出かける楽しさも山代ならではです。
独服体験ができる茶室や魯山人ギャラリーも
界 加賀には歴史的建築物のロビー棟と客室棟をつなぐ3つの庭園があり、茶庭造りの奥庭にたたずむのが国登録有形文化財の茶室「思惟庵(しいあん)」です。
ここでは用意された深煎りと浅煎りの加賀棒茶で、完全貸切の「独服体験」ができます。独服とは、自分で淹れた茶を味わい、静謐な空間で感覚を研ぎ澄ませながら自らと向き合う時間を作ること。茶釜から柄杓で湯をすくい、異なる2種のお茶と2種の和菓子を楽しむ20分間は何とも贅沢です。(当日フロント予約、15:00~18:00、1名1500円)
また併設の「ギャラリー白銀」は、北大路魯山人が残した白銀屋にゆかりする品々を中心に、九谷焼の若手作家の作品も交えて展示され、見どころたっぷり。魯山人の代表作となった「染付福字額皿」や「志野」シリーズも見ることができますよ。(入館は宿泊者のみ)
界の「ご当地楽」でここだけのアクティビティを
旅の醍醐味でもある当地ならではの体験として、毎夜催しているのが金沢市の無形民俗文化財「加賀獅子舞」を独創的にアレンジした“白銀の舞”。前田利家が金沢城へ入城した折の祝賀に始まり、加賀百万石の武家文化を現代に伝えるダイナミックな民俗芸能です。(※コロナ感染防止対策として開催休止の場合あり)
この勇壮華麗な舞が披露されるトラベルライブラリーは、さまざまなセレクト書籍をはじめ、コーヒーやハーブティーなどのフリードリンクが用意され、滞在中は自在に時間を過ごすことができます。
また人気の高い手わざ体験が「金継ぎ」のアクセサリー作り。
金継ぎとは、割れやヒビが入った陶磁器を漆と金で艶やかに修復する独特の技法。このワークショップでは、用意された九谷焼のかけらを金継ぎで合わせ、イヤリングやピアスを作ることができます。もちろん手習いレクチャー付きなので、初めての人でも大丈夫。手作りのワクワク感を味わえるとともに、欠けた器を大切に受け継ぐことや、新たな価値を見出すことができると評判です。
(当日フロント予約、15:00~18:00、毎時00分開始、1名3000円)
そのほか、庭園を幻想的に照らす春から夏の「加賀水引の灯り」、毎年夏期に登場する地元食材のフレーバーかき氷といった季節ごとのイベントも、界ならではの「ご当地楽」。歴史や伝統文化を継承しながら、新しいアイデアを投入し、多彩な楽しみが提供されていますよ。
編集者からのおすすめポイント
「星野リゾート 界 加賀」のチェックポイントはこちら!
・歴史的な建築と現代モダンを調和させた快適な空間
・若手作家を起用した九谷焼と山中塗の美しい器
・付かず離れずの接遇対応はバランス感覚が抜群
こういったあたりに着目しながら、ぜひ「星野リゾート 界 加賀」を楽しんでみてはいかがでしょうか?
ご当地文化に根ざした体験ものや季節ごとの滞在アイデアが豊富で、退屈知らずに過ごせる加賀の旅が待っています!
お宿のデータ
星野リゾート 界 加賀
ほしのりぞーとかいかが
所在地/石川県加賀市山代温泉18-47
アクセス/JR北陸本線加賀温泉駅からタクシーで10分
電話番号/0570-073-011(界予約センター)
宿泊料金/1泊2食付(税・サ込)3万7000円~7万5000円前後
駐車場/35台
子ども/宿泊可(大人の70%)
>>「星野リゾート 界 加賀」をネットで宿泊予約
至福のときが待つ、極上温泉やどへ
北陸エリアでおすすめ度の高い極上温泉宿3軒を紹介してみました。
全国で何千軒もの温泉宿を長年取材してきたプロの編集者がセレクトした珠玉の宿です。
近場でゆっくりのんびり、絶品の夕餉と良泉にまどろんで心と身体をリセット。
こんな贅沢な時間を過ごしに行きませんか?
加賀温泉郷の新着記事
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】編集屋チョーク
SNS
過去20年に渡って国内・海外の旅館やホテル、旅行全般のメディアを制作している編集プロダクションです。まっぷるマガジンを通して、関わってきた宿は2500件以上。宿の良し悪し・見極めには“そこそこ”自信あります。
趣味は「品のある」宿の考察、支配人との一献、あとは庭いじりと猫いじり。二輪・四輪問わず、輪っかの付いているものなら何でも好き。取材・撮影に特急で馳せ参じ、宿選びの参考にしていただける現場のライブ感と実直なレポートをお届けします!