更新日: 2021年2月22日
【連載エッセイ・第21回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~
東京生まれ、東京育ち。9年前に奥さんと、大分・国東半島へ移住。
そこで出会った猫たちと、こんどは、自然豊かな伊豆の田舎へ。
ゆっくりと流れる時間のなかで、森や草むらで自由に駆け回る猫たちと、一緒に暮らす日々のあれこれをお伝えしていきます。(毎週火曜日・金曜日に公開)
>>第1回から読む
山焼き-冬の燃えさしと春を告げる香り
木へんに春と書けば椿。
いつ頃だったか枝が密生し過ぎた椿を剪定してくれと奥さんに頼まれ、借りてきた強力な剪定バサミで豪快に切り刻んだ。そしたら風通しと日当たりが良くなったせいなのか、毎年一つも花をつけなかった椿が咲くようになった。
秋の彼岸にはちゃんと彼岸花が咲くように山から吹き降ろす木枯らしの中、サザンカが散った後に椿が咲く。サザンカ、サザンカ咲いた道~♪ という歌のようにサザンカは冬の花。その後に咲く花は木へんに春と書いて椿。昔の人はちゃんと季節と共に生きていたんだろうな。
山焼きが終わって都会からの見物客が帰り、やがて日が暮れて満天の星が僕らの上へ瞬きだす。我が家のように古い家は隙間だらけで気密性がよくない。だから夜の冷気が山肌を伝って下りてくると、煤の匂いというか、焚火のあとの匂いが家の中へひたひたと流れ込んでくる。それはなんとも言えない田舎らしい香り。都会で何かを燃やしたって、こんな懐かしくて優しい匂いはしないだろう。
そして炎の熱で空へ吹き上げられた燃えかすが、夜の間に音もなく降ってくる。朝になると家の屋根にも、猫たちが遊ぶデッキにも、そして車の上やメダカ鉢の水面にも、真っ黒に焦げた燃えさしが積もっている。それは冬将軍が脱ぎ捨てていった外套の燃えかすなんだ。
伊豆・箱根の新着記事
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】高橋のら
1960年東京生まれ。製本業経営を経て編集プロダクションを設立。
2011年に東京から大分県国東市へ移住し、2014年に国東市から静岡県伊豆半島に転居しました。現在は伊豆の家で編集業を営みながら仕事上のパートナーでもある家内と、国東で出会った6匹の猫たちと共に暮らしています。
国東での猫暮らしを綴った著書「猫にGPSをつけてみた」雷鳥社刊があります。