更新日: 2021年2月17日
【連載エッセイ・第20回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~
東京生まれ、東京育ち。9年前に奥さんと、大分・国東半島へ移住。
そこで出会った猫たちと、こんどは、自然豊かな伊豆の田舎へ。
ゆっくりと流れる時間のなかで、森や草むらで自由に駆け回る猫たちと、一緒に暮らす日々のあれこれをお伝えしていきます。(毎週火曜日・金曜日に公開)
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目次
しま兄とケーキ
当たり前のことだけれど田舎には人が少なく、人が少ないがゆえに商店も少ない。だから田舎に住んでいると外食の機会も少なくなる。我が家は都会にいた頃からあまり外食をしなかったけれど、田舎へ移り住んでから外で食事をする機会は輪をかけて減った。その代りと言ってはなんだけどケーキを買ってきて食べることが多くなったように思う。
たまに東京へ行ってデパートの地下にあるケーキ屋さんのショーケースを覗くと、僕はその煌びやかさと値段の高さに驚いてしまう。それはまるで貴族の宝石箱みたいな輝きで僕の目に映る。
人ごみの中で僕はちょっと呆然としてしまい、ふと我に返って「ああ、そういえば都会ってのはこういうものだったよなあ」と妙に納得したりする。何もかもがキラキラ輝いていて、何もかもがセンスを競い合っていて、だからこそ都会のケーキ屋さんのショーケースはあんなにも眩しいのだろう。
そうだよ田舎のケーキは見た目も味も、9歳になった太っちょ長男の腹に似ているんだ。それは春の木洩れ陽のように優しい暖かさと脱力感。それは遠足のときに山の頂上で開いた愛情ぎゅうぎゅう詰めのお弁当。それはお洒落なファッションに身を包んだ人々が足早に行き交うデパートの地下では、どこを探しても見つけられないものなのだと思う。
夕ご飯を食べると三々五々散って行った猫たちが、ひと遊びして一匹、また一匹と帰って来る。まだまだ冷える山の夜。午後8時を回って最後に帰って来た大長男しま兄。
「どこへ行ってきた?」「何して遊んできた?」と僕は尋ねる。
しま兄は僕を見上げ、ちょっとしわがれたいつもの声で何か答える。太っちょの身体は冷え切っていて、暖かいパネルヒーターの前を離れない。5分ほど身体中を撫で回してやると彼は満足して横になり、横になったかと思うと途端に鼾をかき始める。
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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】高橋のら
1960年東京生まれ。製本業経営を経て編集プロダクションを設立。
2011年に東京から大分県国東市へ移住し、2014年に国東市から静岡県伊豆半島に転居しました。現在は伊豆の家で編集業を営みながら仕事上のパートナーでもある家内と、国東で出会った6匹の猫たちと共に暮らしています。
国東での猫暮らしを綴った著書「猫にGPSをつけてみた」雷鳥社刊があります。