更新日: 2021年11月26日
【連載エッセイ・第11回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~
東京生まれ、東京育ち。9年前に奥さんと、大分・国東半島へ移住。
そこで出会った猫たちと、こんどは、自然豊かな伊豆の田舎へ。
ゆっくりと流れる時間のなかで、森や草むらで自由に駆け回る猫たちと、一緒に暮らす日々のあれこれをお伝えしていきます。(毎週火曜日・金曜日に公開)
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猫のための家を探す
僕ら夫婦が猫たちと暮らすために選んだ家は築40年の古い古い元別荘。
家を選ぶ条件は、猫が走り回れる広い庭のあること。仕事の関係もあり光回線が来ていること。そしてこれも仕事上の必要で、できれば宅配便の営業所が車で30分以内にあることの3つだった。
建物は二の次で探していたんだけれど、その3つの条件に合致した上に僕の憧れでもあった「山の古い木造校舎の分校」みたいな古家がついている物件を見つけることができた。分校というよりはどこか山小屋みたいな造りで、古民家と呼ぶほど歴史的価値や建築物としての価値はないと思うが、40年という年月を経てきた風合いがちゃんと刻み込まれている。そして広い庭にはおそらく竣工された当時に植えられたしだれ桜が、枝をいっぱいに広げて立っていた。
別荘地に建っている別荘物件でも、中には普通の住宅とほとんど変わらないものもあるし、元保養所だったような大きい家もある。別荘物件の面白いところは建てた人の遊び心があちこちにあることで、例えば我が家には囲炉裏があったり、家のあちこちに意味のない段差があったりする。
浴室は居室から階段をトントントンと下りていった先にあって、階段を下りたところに大きな暖簾をかけておくと、なんだか毎日が温泉宿での湯治気分になれたりする。
この家のあちこちにあるそういう段差や、これも意味があるのかないのか分からない吹き抜けに渡された太い梁なんぞも、猫たちにとってはちょっとした遊園地気分なのではないかという気がしてならない。
もともと古い家だから6匹の壊し屋たちが傷をつけたり汚したりしても気にならない。壁が剥がれたらペンキを塗ればいいや。柱が壊れたら板を打ち付けとけばいいや。借家じゃないからそんな気楽な気持ちで住んでいられる。この気楽さというか気兼ねの無さは、猫と共存する上で人間のストレスを大きく減じてくれると僕は思う。
そして夫婦二人が住むには十分すぎる広さの家は、6匹の猫たちにとってもストレスなく共存できる広さを備えているといっていい。仲の良い子たちは一緒になって寝るし、一人でいるのが好きな子は好きな場所で存分にくつろげる。春は彼らがうたた寝をするどの場所にも陽が当たり、夏は彼らが涼むどの場所にも涼風が吹く。
僕自身は初めからそれを望んで東京を離れたわけではないけれど、移住先で人間に見放された猫たちと出会い、6匹という「数」に見合った自由を用意するために土地と家を選ぶことになった。その結果、猫たちと暮らすために都会へ戻ることをやめて伊豆の片隅に落ち着いた。
そんな僕が猫と暮らしている人たちに一つ言えることは、様々な条件が許すのであれば「猫たちのため」に都会を離れて、「猫たちのため」の家を探して住むのはとても幸せなことだということ。
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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】高橋のら
1960年東京生まれ。製本業経営を経て編集プロダクションを設立。
2011年に東京から大分県国東市へ移住し、2014年に国東市から静岡県伊豆半島に転居しました。現在は伊豆の家で編集業を営みながら仕事上のパートナーでもある家内と、国東で出会った6匹の猫たちと共に暮らしています。
国東での猫暮らしを綴った著書「猫にGPSをつけてみた」雷鳥社刊があります。