更新日: 2023年1月21日
【連載エッセイ・第6回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~
東京生まれ、東京育ち。9年前に奥さんと、大分・国東半島へ移住。
そこで出会った猫たちと、こんどは、自然豊かな伊豆の田舎へ。
ゆっくりと流れる時間のなかで、森や草むらで自由に駆け回る猫たちと、一緒に暮らす日々のあれこれをお伝えしていきます。
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慣れていく、人も猫も
猫たちと暮らすこと考えて「庭の広さを第一条件」に探したら、予算的にどんどん東京から離れていって伊豆半島の伊東市に落ち着いた。 信州や房総も初めは候補にあったけれど、やっぱり冬の暖かさと物件の多さが伊豆の決め手でした。
東京まで特急で2時間。車だと3時間。大室山の麓。家の周りは隙間なく緑で囲まれているから、庭へ置いた椅子に座っているとどこかの公園にいるような気になる。つい2か月前までは野山を駆け回っていた猫たちだけど、今の庭にだって彼らが全力疾走できるだけの広さはあるよ。
猫たちが新しい家と環境に慣れていくのとともに、僕たち夫婦も朝の散歩で出会う近所の人と会話を交わして名前を覚え、この土地に流れる時間や季節に慣れ始めていった。
秋半ばの引っ越しから2か月が経ってクリスマスが近づいた頃、庭にある大きな桜の木にメジロがやって来て、チチチッと可愛い声で鳴いている。伊豆の道路傍にはミカンの無人販売所がたくさんあるんで、そこで買ってきたミカンをメジロさんたちに振る舞った。こんな細やかな冬の景色も、やっぱり都会を遠く離れた山の麓だからだろうなあ。
今回の引っ越しで一番恩恵に浴したのは、山の放浪児だった次女のぷーかも知れない。人間にはよく懐くものの猫兄妹とはどうにも折り合いが悪く、国東での二部屋しかない間借り住居では家の中になかなか落ち着ける場所がなかったぷー。
居心地の悪い家を嫌っていつも外に出かけてしまい、その結果「放浪児」になってしまったのではないかと。
僕は部屋数の多い家へ移れば、猫嫌いのぷーにも安住の場ができるんじゃないか? と期待していたんだが、案の定奥さんの居室に割り当てた二階の部屋が「ぷーの部屋」になった。
他の猫にちょっかいを出されることもなく日がな一日寝ていられる場所。ぷーはご飯を食べ終えるとトントントンと二階へ上がっていく。そして大きな窓から射し込む陽を燦々と浴びながら極上の独りぼっちを満喫している。
たまに上へ上がって頭や体を撫でてやると、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らす。こういう場所さえあればあの放浪癖もどこかへ失せるんだな。そのせいか顔つきや声まで穏やかに変わってきた。
僕は「北風と太陽」の話を思い出しながらぷーの寝姿を見て満足している。地価の安い田舎では、家や庭の広さによって人や猫たちの間にも心身の緩衝地帯が得られると思う。
この空間的なゆとりというのが実はとても大切な意味を持っていて、物理的な混雑だけでなく精神的な抑圧からも僕たちをふわっと解放してくれる。
それは2か月前までほとんど家に寄り付かなかったぷーの、安心しきった寝顔がすべてを語っていると僕は思う。
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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】高橋のら
1960年東京生まれ。製本業経営を経て編集プロダクションを設立。
2011年に東京から大分県国東市へ移住し、2014年に国東市から静岡県伊豆半島に転居しました。現在は伊豆の家で編集業を営みながら仕事上のパートナーでもある家内と、国東で出会った6匹の猫たちと共に暮らしています。
国東での猫暮らしを綴った著書「猫にGPSをつけてみた」雷鳥社刊があります。