更新日: 2021年2月11日
【連載エッセイ・第4回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~
東京生まれ、東京育ち。9年前に奥さんと、大分・国東半島へ移住。
そこで出会った猫たちと、こんどは、自然豊かな伊豆の田舎へ。
ゆっくりと流れる時間のなかで、森や草むらで自由に駆け回る猫たちと、一緒に暮らす日々のあれこれをお伝えしていきます。
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猫の家出とご近所さんの暖かさ
大分県国東の山では24時間自由に辺りを駆け回っていた6兄妹たち。でも伊豆へ来てからは先住者さんのつけた猫ドアの位置を変えたり、お隣さんの畑へ入れないよう防獣ネットを張ったりといろいろ準備があったので、引っ越してしばらくの間は屋内暮らしをしてもらった。
だけど田舎の里山で好き勝手にやってきて、我慢なんて何もしたことのない彼ら。なんとしても外へ出ようとあらゆる窓や出入り口に猛然とアタック開始。
施錠は万全のはずだったけど、九州からの荷物が届いて運送屋さんが慌ただしく出入りしたのに怖気づいたのか、ビビリ屋の三男くつしたが風呂場の脱衣場にあった小さな明かり取りの小窓を破って脱走してしまった。
引っ越してきてまだほんの数日。右も左もわからない場所で迷子になったりしないかと心配したんだけど、案の定待てど暮らせど帰って来ない。
まだご近所さんに引っ越しの挨拶すらしていないのに、奥さんは迷子猫のチラシを作って向こう三軒両隣だけでなく辺り一帯にそれを配って回ったのでした。
でも遠く大分県から越してきた新参者に近所の人たちは親切だった。
誰もが迷子になったくつしたのことを親身になって聞いてくれ、ここいらは人も車も少ないし皆が犬や猫と暮らしている人ばかりだからきっと見つけてくれるよ、と口々に言ってくれた。
結局くつしたは3日目くらいにふらりと玄関先に現れて無事帰宅できたけれど、この一件で家の周りに住む人たちが、猫や犬に対して並々ならぬ愛情を持って接する人ばかりなのだと知ることができた。
僕たちが移り住んだ土地は、リゾート地としてはもうその役割を終えつつあるような古い古い別荘地で、定住しているのは都会から移り住んだ人ばかり。そんなこともあって「田舎」とはいっても本当の田舎ではない一種独特な生活圏が出来上がっている。僕はさっき「新参者」という言葉を使ったけれど、ここでは誰もが新参者で、ここで生まれ育った人などほとんどいないんだ。
それは住んでみるまで分からなかったことで、田舎特有の濃密な近所付き合いやしがらみみたいなものはまったく無く、どちらかと言えばそういう人付き合いの煩わしさを嫌った人たちが都会から移り住んでいるといえるのかも知れない。
面倒くさいことは嫌です、静かにのんびり暮らそうよ。みたいな緩い近所付き合いの中で、ほとんどの人が犬や猫と共に穏やかに暮らしている。
辺りを駆け回っている猫たちもどこかで誰かにごはんをもらい、どこかの誰かが不妊手術を施している。我が家も繰り返し庭へ入り込んでくる雄猫を保護し、去勢手術をしてからまた庭へ放した。その猫はやがて近所の猫好きなFさんちの子になり、それが縁で我が家とそのFさん夫妻は仲良くなった。
田舎の暮らしといえば家庭菜園やDIYを誰もが思いつくだろうけど、田舎には人と車のひしめく都会とはまた違った猫たちとの暮らしがある。
多少の不便さを受け入れることができるなら、地価の安い田舎では都会じゃ考えられない広さの土地と家が手に入る。人間だけではとても使い切れない家の中や庭を走り、駆け上がり、飛び降りる猫たちにしてみたら、毎日が遊園地で遊んでいるようなものなのかも知れない。
そうさ、猫は寝ているばかりじゃないよ。走り回って遊ぶのが大好きなんだ。(文・写真:高橋のら)
6匹の猫を動画で紹介!
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【筆者】高橋のら
1960年東京生まれ。製本業経営を経て編集プロダクションを設立。
2011年に東京から大分県国東市へ移住し、2014年に国東市から静岡県伊豆半島に転居しました。現在は伊豆の家で編集業を営みながら仕事上のパートナーでもある家内と、国東で出会った6匹の猫たちと共に暮らしています。
国東での猫暮らしを綴った著書「猫にGPSをつけてみた」雷鳥社刊があります。