更新日: 2021年2月11日
【連載エッセイ・第3回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~
東京生まれ、東京育ち。9年前に奥さんと、大分・国東半島へ移住。
そこで出会った猫たちと、こんどは、自然豊かな伊豆の田舎へ。
ゆっくりと流れる時間のなかで、森や草むらで自由に駆け回る猫たちと、一緒に暮らす日々のあれこれをお伝えしていきます。
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大分の国東半島から静岡の伊豆半島へ
島国や海に面した国には「海を渡る」という言葉があって、それはどこか遠くにある、まだ見ぬ土地への憧れを秘めているように僕は思う。
2014年の秋の初め、僕たち夫婦と3歳になった6匹の猫たちは皆で国東の山を下りた。
そして夜の大分港から神戸行の「さんふらわあ」に乗り込んで海を渡り、1000キロ離れた伊豆半島へとやってきた。
国東を離れたのは僕の個人的な理由だったけれど、猫たちのことを第一に考えた引っ越し先を決めるのには半年以上の時間が必要だった。
僕は3年間のあいだ野山を駆け回って育った猫たちに、なるべくなら国東の山と同じ生活環境を用意してあげたかった。
だから国東で住んでいた家の敷地を基準に300坪という広さの一つの目安にして、賃貸でもよかったけれど貸主に気兼ねすることなく猫たちと暮らしたかったから、我が家の経済状況で購入できる家を探し回ったのでした。
実はこの「我が家の経済状況」というのが問題で、その頃の僕にはまだ東京という響きにわずかな未練が残っていたけれど、300坪と我が家の経済状況に合致する家はどんどん東京から離れていくばかり。けれど最終的には伊豆半島の伊東市に、これぞ探し求めていた家ではないか! という古家を見つけそこを引っ越し先に決めた。
山で生まれた元野良2匹。山に捨てられた元捨て子4匹の6兄妹にとって、それまで山を下りるのは動物病院へ行くときくらい。
別府や大分の繁華街やフェリーターミナルの夜景は、彼らが生まれて初めて目にする新世界だったと思う。
猫たち全員が「僕たちどこへ連れて行かれるんだろう?」という不安げな顔で窓の外を凝視していた。人のいない里山しか知らない田舎者の彼らにとって、車窓を流れる都会の景色は驚きの連続だったと思う。
夜が明け始めた頃に船が通過した瀬戸大橋の下では、猫たちが皆で船窓に張り付いて目を見開きながら、巨大な橋を見上げていて可愛かった。
朝7時に着岸した神戸港からは高速一気。途中の休憩は1回だけにし、伊豆まで6時間で走り切った。まだ家財道具も届いていない築40数年の古い古い新居。猫たちは早速匂いを嗅ぎ回り探検を始める。
そうだよ、今日からここがきみらの家なんだ。
どんなに壁や柱で爪を研いたって誰も文句は言わない。どこを走り回ろうが、どこで寝ようが好きにしていい。その為に僕ら夫婦はこの家を選んだんだから。
田舎者らしく度胸の据わった6兄妹。1匹だけいるビビリ屋の三男を除いてはすぐに新居にも慣れ、翌日にはもう跳ねたり跳んだりかくれんぼしたり鬼ごっこしたり。なんとなく、楽しい暮らしになりそうな予感がふつふつと沸いてきた。
こうして無事に引っ越しを終えた2人6匹の伊豆暮らしが始まったのでした。(文・写真:高橋のら)
6匹の猫を動画で紹介!
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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】高橋のら
1960年東京生まれ。製本業経営を経て編集プロダクションを設立。
2011年に東京から大分県国東市へ移住し、2014年に国東市から静岡県伊豆半島に転居しました。現在は伊豆の家で編集業を営みながら仕事上のパートナーでもある家内と、国東で出会った6匹の猫たちと共に暮らしています。
国東での猫暮らしを綴った著書「猫にGPSをつけてみた」雷鳥社刊があります。