更新日:2020年4月13日
アンコール・トム 栄華を誇る巨大都城めぐり
王朝最盛期の栄華を誇る巨大都城。プノンペンへの遷都以降、長い眠りについた、かつての王朝の都。1860年の再発見以来、世界中の人を魅了し続ける遺跡群を訪ねる。
アンコール・トムとは?
国民に愛される王の慈愛と信仰心の城都
クメール語で“大きな都”という意味のとおり、アンコール・トムは広大な面積の敷地内に遺跡が散在している。現存する遺跡は12世紀後半から13世紀にかけてジャヤヴァルマン7世によって造られたもの。かつては889年の創立以来、都は複数の王によって建設、改変と増築が重ねられてきた。そのため随所に時代ごとの建築様式の違いを楽しめる。中央のバイヨンという寺院ははずせない。そこに立つ四面仏塔はどれも慈愛に満ちた表情をしており、「クメールの微笑み」として知られている。
DATA
所要時間 約6時間
創建者・創建年代・信仰 遺跡により異なる
シェムリアップ市街から車で20分
歩き方のアドバイス
総敷地面積は900haにも及ぶアンコール・トム。見どころ満載の遺跡が集まっているが、歩いてすべてをまわるのは時間も体力も奪われる。見たい遺跡を絞ってまわるか、トゥクトゥクのチャーターやオプショナルツアーに申し込むなど事前に計画を。
鑑賞のポイント
建立された時代によって変わる様式
バイヨンをはじめ、王宮跡や寺院、テラスなどの遺跡の数々は、889年に即位したヤショヴァルマン1世ら複数の王によって造り足され、造り替えられてきた。その時代ごとの建築様式を見比べてみよう。
バイヨンのレリーフに見る当時の生活
神話が描かれたアンコール・ワットのレリーフに比べ、バイヨンのレリーフはチャンパとの戦争や狩りの様子が描かれ、庶民の暮らしをうかがい知ることができる。
関連リンク
アンコール・トムめぐりのモデルルート
①南大門 Southern Gate
所要時間 約15分
アンコール・ワットから続くバイヨンへのメインゲート
アンコール・トムにある5つの城門のうち、アンコール・ワットから北へ約1㎞のところに位置する高さ約25mの南大門。上部には縦3mにも及ぶ観世音菩薩の顔が東西南北の四面に刻まれ、人々の往来を見守っている。
DATA
創建者 ジャヤヴァルマン7世
創建年代 12世紀末
信仰 仏教
ジャヤヴァルマン7世
ジャヤヴァルマン7世は、1177年にチャンパ国(現在のベトナム中〜南部にあったチャム族の国)による侵略に対し大勝利を収め、1181年に第21代王に即位。在位時代にはアンコール・トムを完成させるほか、幹線道路の整備と121の宿舎、無料の治療施設を国内に102か所建設し、国の経済と生活の充実を図った。慈悲深い王として現在も国民に愛され、敬虔な仏教徒でもあり、数多くの四面仏塔を築いた。
南大門から続く高さ8mの城壁は1177年のチャンパ軍の侵入を教訓にした頑丈な造り。門の脇から登ることもできる
かつては木造の扉があったアンコール・トムのメインゲート
②バイヨン Bayon
所要時間 約2時間
「気高い天上の塔」と称され大小さまざまな四面仏塔が特徴的
アンコール・トムの中心であるバイヨンは、ヒンドゥ教と仏教が混在した寺院。仏の顔が彫られた四面仏塔が複数点在する。顔の大きさはそれぞれ約2mほどあり、やさしい微笑みが仏の慈愛を感じさせる。そのなかでも中心に鎮座するのはジャヤヴァルマン7世を模しており、それぞれの宗教を認めつつも中心は自分であることを示している。チャンパ国からアンコールを奪還したジャヤヴァルマン7世は、今もなお国民から信仰を集める存在。人々の暮らしがいきいきと描かれたレリーフを見ると、彼の国民を見る温かい眼差しを感じられるかもしれない。
DATA
創建者 ジャヤヴァルマン7世
創建年代 12世紀末
信仰 ヒンドゥ教、仏教
四面仏塔には「菩薩の慈愛が全世界に届くように」という願いを込めて、四方に顔が彫られている
【第一回廊】
第一回廊は壁面に描かれたレリーフに注目。クメール人とチャンパ人の戦いの様子や、人々の暮らしぶりがいきいきと伝わってくる。一人一人の表情も豊か。東西約160m、南北約140m、一周は約600m。高さ約10mの壁面をじっくり観察しよう。
チャンパ軍との戦い
チャンパ王国軍との戦いに敗れ、退却していくクメール軍の無念が感じられる。
レスリング
日本の相撲のような衣装をつけて睨み合う二者。当時レスリングは民衆に人気のスポーツであったという。
虎から逃げるバラモン僧
ヒンドゥ教の支配が長かったため、バラモン僧は国政に対する権力を増大させていた。仏教統治となることで、腐敗した権力層を一新する意味もあったのか、虎に追われたバラモン僧が逃げまどう姿も。
チャンパ軍との戦い
象に乗って戦いに出るクメール兵士などが描かれているが、未完成部分も多く残っている。
日常生活の様子
トンレサップ湖での漁や調理の様子など当時の人々の生活ぶりが細やかに描写されている。右のレリーフはバナナを焼いているシーン。
チャンパ軍との戦いに向かうクメール軍の行進
行軍の後方には一家総出でクメール軍に追従する人々の姿が。後方支援部隊なのか、宿営地でご飯を炊き、魚を調理する光景も描かれている。
【第二回廊】
ヒンドゥ教に帰依したジャヤヴァルマン8世の指揮下で制作されたため、ヒンドゥ教にちなんだ神話やインドの叙事詩をテーマにしたレリーフが数多く残る。南側にはリンガが祀られている。
注目!
東面北側には、ライ王伝説のレリーフがある。三島由紀夫の戯曲でも有名な物語が時系列で描かれている
改築が繰り返されてきたため、若干複雑な構造
アンコール・ワットのものと比べると、清楚で落ち着いた印象のデヴァター
【中央祠堂】
第二回廊から階段を上りきったところにあるのが中央祠堂。八角形の建物の中心部には小乗仏教の仏像が置かれる。中央祠堂を囲むように立つ四面仏塔は、全部で16体。どれひとつとして同じ表情のものはなく、中央祠堂にはジャヤヴァルマン7世のものがある。ぞれぞれの表情を比較してみよう。
祠堂に安置されているご本尊
高さ43m、直径25mの基部を、小さい部屋が囲む
③バプーオン Baphuon
所要時間 約30分
歴代の王を祀る菩提寺長い空中参道は地上と天界とを結ぶ
3層からなるピラミッド型をした寺院。東塔門から中央伽藍まで、円柱に支えられた空中参道が200mほど延びている。参道を歩いて中央へ行くと、世界の中心にそびえる聖山・須弥山(メール山)を模した祠堂が配されている。その上にはかつて高い塔がそびえていたという。
DATA
創建者 ウダヤディティヤヴァルマン2世
創建年代 11世紀半ば
信仰 ヒンドゥ教
ピラミッド型寺院は、50mもの高さがあったという
中央伽藍まで続く空中参道
④象のテラス Elephants Terrace
所要時間 約15分
蓮の花を摘む象の鼻が柱に
壁一面にガルーダや象の彫刻がテラスを支えるように描かれている。王の謁見や式典などを執り行なうのに使われた。
DATA
創建者 ジャヤヴァルマン7世、ジャヤヴァルマン8世
創建年代 12世紀末
信仰 仏教
王宮前広場に面して南北方向に延々と続くテラス
コレも見られます!
プラサット・スール・プラット Prasat Sour Prat
ジャヤヴァルマン7世が12世紀末に創建。塔の間にロープを張って踊り子に綱渡りをさせていた、裁判や儀式に利用していたなど諸説あり、利用目的が解明されていない。
広場前に並ぶ小さな塔
⑤王宮跡 Royal Palace
所要時間 約5分
影も形も残らないアンコール朝の夢のあと
高さ5mの壁に囲まれた、東西600m、南北250mの敷地に、かつて歴代の王たちが暮らした王宮があったという。建物が木造だったため王宮そのものは残っておらず、現在見学できるのは跡地のみ。敷地内には、宮廷の人々が使っていた沐浴場の男池や女池、王族専用だったとされるピミアナカス寺院が残っている。
DATA
創建者 不明
創建年代 不明
信仰 不明
女池の段側面にはヒンドゥの神々が彫られている
男池は、女池よりもかなり小さく、装飾もない
2つの寺院跡をたどる
王宮跡周辺には、王族のみ入ることが許された寺院と、美しいレリーフを持つ小さな寺院跡が残る。時間があれば立ち寄りたい。
ピミアナカス Phimeanakas
空中楼閣と称された寺院
王宮跡内にある、王族のための寺院。ピラミッド型の3層の基壇の上に回廊、その中心に祠堂があった。10世紀末にジャヤヴァルマン5世により建立された。
ラテライトの赤みが美しい
プリア・パリライ Preah Palilay
森に抱かれた神秘的な姿
王宮跡の北に位置する寺院跡。一辺50mの周壁に囲まれ、スポアンという樹木がからまり整備されずにたたずむ姿は力強い存在感を放つ。
木洩れ日を浴び、神々しさを放つ
⑥ライ王のテラス Terrace of the Leper-King
所要時間 約15分
壁面いっぱいの彫刻が圧巻三島由紀夫の戯曲でも有名
テラスの上に王の座像があることからついた名。20世紀初頭まで土に埋もれており、レリーフの保存状態が良い。
DATA
創建者 ジャヤヴァルマン7世
創建年代 12世紀末
信仰 仏教
テラスの上のライ王像はレプリカで、実物はプノンペンにある
壁面には仏や阿修羅、女神の姿が彫られている
⑦プリア・ピトゥ Preah Pithu
所要時間 約15分
訪れる人も少ない眠れる森の遺跡
12世紀から13世紀に建てられた寺院群。5つの祠堂がそれぞれ、高いピラミッド型基壇の上に建てられており、その位置関係から王宮の関連施設だったとされている。
DATA
創建者 不明
創建年代 12世紀初頭〜13世紀
信仰 仏教
さほど広くない遺跡なので、静かな見学が楽しめる
⑧勝利の門 Victory Gate
所要時間 約10分
観世音菩薩が微笑む出陣と凱旋時に使用された門
門には、王宮までまっすぐつなぐ道がある。戦いにでかけるクメール軍がここから出陣し、勝てばここから凱旋し、そのままテラスで王と謁見するときに使われていた。南門同様、門の中央には四面仏塔がある。
DATA
創建者 ジャヤヴァルマン7世
創建年代 12世紀末
信仰 仏教
アンコール・トム周辺の遺跡に続くツアーでは、この門を抜ける
もうひとつの門!
死者の門(東大門) Gate Of The Dead (East Gate)
所要時間 約10分
バイヨンから東へまっすぐ延びた道の先にあるのが死者の門。戦争に倒れたクメール軍の魂がここからバイヨンに戻ると考えられていた。
亡き兵士の鎮魂の門
観光情報を観光地ごとに紹介する雑誌スタイルの旅行ガイドブック「まっぷるマガジン」。その取材スタッフや編集者が足で集めた「遊ぶ」「食べる」「買う」「見る」「泊る」のおすすめ情報をご紹介しています。
- 奥付:
- この記事の出展元は「まっぷるベトナム ホーチミン・ハノイ’18」です。掲載した内容は、2017年3〜4月現在の取材・調査によるものです。諸事情による変更の可能性があります。ご利用の際は、改めて事前にご確認ください。
- その他:
- ●料金の単位は、ベトナムドン(VND)またはUSドル(US$)で表示しています。※2017年4月現在、1万VND=約50円、US$1=約110円、US$1=約2万3000VND ●料金のほかに、別途付加価値税(VAT)10%がかかります。また、スパや中級以上のホテルやレストランでは、付加価値税(VAT)10%とサービス料5%〜がかかる場合があります。サービス料は店によって異なるので、事前にご確認ください。 ●アルファベット表記の発音記号は省略しています。カナ表記についても、日本語では表現しきれない微妙な発音があります。また、本書内でのベトナム語音の表記は、おもに北部地方の発音に従っています。 ●ショップやレストラン、ホテルとの個人的なトラブルに関して、弊社では責任を負いかねますのでご了承ください。
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