更新日:2020年4月13日
アンコール・ワット 神々が棲む聖地めぐる遺跡巡礼
東南アジア最大級の石造伽藍。プノンペンへの遷都以降、長い眠りについた、かつての王朝の都。1860年の再発見以来、世界中の人を魅了し続ける遺跡群を訪ねる。
アンコール・ワットとは?
ヒンドゥ教の世界観と王の偉大さを体現
クメール語で“アンコール”は都、“ワット”は寺院という意味。創建者スールヤヴァルマン2世が自身を神格化し、その力を世界に誇示するために建設したといわれている。約30年の歳月をかけて建てられたこの寺院は、ヒンドゥ教の世界観を体現。中央祠堂はヒンドゥ神話のなかで宇宙世界の基軸を意味する須弥山(メール山)、それを取り囲む回廊はヒマラヤの山、張りめぐらされた濠は海を表している。中央祠堂への参拝はまさに“神へ近づくための登山”なのだ。
DATA
所要時間 約3時間
創建者 スールヤヴァルマン2世
創建年代 12世紀前半
信仰 ヒンドゥ教
シェムリアップ市街から車で15分
鑑賞のポイント
美しいレリーフに描かれたストーリーを追う
壁面を覆い尽くすように施されたレリーフでは、神話などが描かれている。細やかなレリーフは場面ごとに注目してしまいがちだが、全体のストーリーを把握して進むのも楽しい。
クメール建築の最高傑作
寺院建設が重要な国政であったアンコール王朝。試行錯誤を重ね、よりよい寺院造りをめざしたクメール人の集大成ともいえる、アンコール・ワット。建造物そのものはもちろん、神へと導く参道や計算された景色の変化も見事。
歩き方のアドバイス
アンコール・ワット観光の最大の魅力のひとつが、日の出、日の入りの時間帯の景色。建物の背後から朝の光が煌々と差す神秘的な印象も、夕日で赤く染まる姿も、どちらも見ておきたい。伽藍は、見る角度によって尖塔の数が違って見えたり消えたりと視覚的な仕掛けが施されており、歩けば歩くほど楽しめる。場所ごとに変化する景色をしっかり目に焼き付けながら進もう。
関連リンク
アンコール・ワットめぐりのモデルルート
①西参道 West Approach
所要時間 約10分
聖なる寺院への第一歩
左右に鎮座するシンハ(獅子)像の間を抜けて、環濠の上に延びるのがアンコール・ワットへ続く西参道だ。西参道正面からは中央祠堂が見えない設計になっていたり、歩を進めるごとに変わる景色を楽しみたい。
アンコール・ワットを囲む環濠は幅190mにも及ぶ
②西塔門 West Pylon
所要時間 約15分
ヴィシュヌ神が祀られたアンコール・ワットの正門
アンコール・ワットを囲む環濠を渡って最初に行き着くのはここ。現在は上部が倒壊しているが、門にはかつて3つの尖塔が建っていた。西塔門をくぐると、アンコール・ワットの尖塔を再び目にすることができる。
アンコール・ワットの正門にあたる西塔門
向かって右側に祀られている太陽神ヴィシュヌ
③経蔵 Library
所要時間 約5分
左右対称の建物が景観にアクセントを加える
中央祠堂へ向かう途中の前庭に、左右1つずつ建つ経蔵は経典や歴史書を収めた建物。その先の聖池は16世紀頃に掘られたとされ、睡蓮が咲く水面に映り込むアンコール・ワットも見ものだ。
クメール建築の特徴のひとつである連子状窓もわずかに残る
④第一回廊 First Corridor
所要時間 約50分
美しい回廊に囲まれた伽藍に突入 !中央祠堂への道
いよいよアンコール・ワットの内部へ。クメール美術の最高峰といわれるレリーフと建築美を目に焼き付けよう。
壁面を彩るレリーフで描かれた神々のエピソード
外塀・石壁の内側に位置する第一回廊。全長約800mにも及ぶ壁面に描かれているのは、壮大なヒンドゥ教神話。躍動感に満ちた神々のエピソードは、ときに残酷でときにユニーク。神話のほかにも、インドの叙事詩『マハーバーラタ』の物語を展開する壁面も必見。
見学ポイント
レリーフのストーリーや背景を追いながら眺めるのが第一回廊めぐりのコツ。正面から入ってすぐの西面から反時計回りに進もう。
細密なレリーフが並ぶ回廊。造られた当時は、金箔を下地とし、その上に漆塗りを施したといわれている
第一回廊のレリーフのストーリーを読む
クルクサットラの戦い(マハーバーラタ)
スールヤヴァルマン2世の行軍
神の象徴である三角帽をかぶったスールヤヴァルマン2世の姿から、王すなわち神という考えを如実に表している壁画。
天国と地獄
3段構成の壁画は、上2段が裁定を受ける様子と極楽界、下1段が地獄界を描写。とくに地獄の責め苦の様子はより緻密に描かれており、迫力がある。
乳海攪拌
ヒンドゥ教の天地創造神話が描かれている
ヴィシュヌ神と阿修羅の戦い
阿修羅から不老不死の薬を奪うため、ガルーダの肩に乗って戦うヴィシュヌ神。
クリシュナとバーナ
建造当時ではなく、16世紀頃に彫られたとされる。ほかのレリーフと比べると、質の違いを見てとれる。写真は1000本の手を持つバーナ。
アムリタをめぐる神々と阿修羅の戦い
阿修羅に奪われた不老不死の薬「アムリタ」をヴィシュヌ神が取り返して神々に与えたという。
ランカ島の戦い(ラーマーヤナ)
2つのレリーフでインドの二大古典叙事詩を表現している。
⑤十字回廊
所要時間 約20分
聖なる地に向かうため、身を清める
第一回廊から第二回廊へつながる場所にある十字形の回廊。広い屋根を設ける石造技術をまだ編み出せていなかったこの時代には、空間をつないでもオープンエアになるスペースが出てきてしまった。それを利用し、雨水を溜めて参拝客らが身を清めるための沐浴場を造った。
見学ポイント
十字回路の北側面にある「エコーポイント」。壁面に背をつけて胸をこぶしで叩くと、反響音が返ってくる。人間の邪気や病を追い出すための場所と伝えられている。
十回廊の北側にある「エコーポイント」。壁面に背をつけて胸をこぶしで叩くと、反響音が返ってくる。人間の邪気や病を追い出すための場所と伝えられている。
十字回廊の柱など3か所に森本右近太夫の墨書が残っている
ポル・ポト時代に多くが破壊されたが、現代仏教徒たちの信仰の場になっている
かつては沐浴地だった場所。当時の建物の基壇部分の建築工法をつぶさに見ることができる
⑥第二回廊 Second Corridor
所要時間 約10分
回廊に安置された仏像が激動の歴史を物語る
十字回廊を出ると第二回廊。第一回廊ほどの豪華さはなく、むしろ簡素な場所。大きな見どころは、並ぶ頭部のない仏像と下書き段階で未完成のままのデヴァター。
下書き状態のデヴァターが残る
回廊内には内戦の混乱で、頭部が切り取られた仏像が残る
⑦第三回廊 Third Corridor
所要時間 約30分
レリーフが華やかな聖なる祠堂へ向かう回廊へ
傾斜70度の急な階段を上ると見えるのが第三回廊だ。すべての回廊のなかで最もレリーフが華やかで静ひつな空間が広がる。眼下に広がるジャングルの大パノラマも楽しもう。なお、月に4〜5回ほどある仏教の日は入場不可。見学時間も制限されているので注意。
かなり急な階段なので、足元に十分気をつけて上り下りをしたい
第三回廊から西塔門方面を眺める
通路にかがみ、中央祠堂に向かう階段を見上げると、デヴァターが連なって見える
⑧中央祠堂 Central Shrine
所要時間 約10分
王しか入ることの許されなかった中央祠堂へ
第三回廊の4つの祠堂に囲まれた中央祠堂は、空に向かい突き出すようにそびえ立つ。天に最も近いこの場所は、クメールの王が神に最も近づき一体となれる神聖な場所。
世界の中心である須弥山(メール山)を模したといわれる
アンコール王朝滅亡後、仏教寺院に改修された際に持ち込まれた
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