更新日:2020年4月13日
【バリ島】人々の生活を左右する文化と習慣を知る
バリ島の文化や慣習について知っておけば、旅の際に目に映る光景もまた違ったものになり、よりディープな島の暮らしが見えてくるだろう。
3つの暦を使用するバリ人
バリ島には、ウク暦とサカ暦という伝統的な暦がある。ウク暦は1年が210日と短く、異なる周期の週が重なり合う非常に複雑な暦だ。この週と日の組み合わせにより、祭事や儀式の日、水田に水を引く日、習い事を始める日など、生活全般に関わる吉日が細かく割り出され、その日に行動しなければうまくいかないと信じられている。一方、サカ暦は月の満ち欠けを基準とする太陰暦で、ニュピと呼ばれるおよそ雨季と乾季の境目に年が改まる。一方で公共機関やオフィスなどでは太陽暦が普及しており、なんと3種類の暦が時と場合に応じて併用されているのだ。
多彩な年中行事
バリ島では毎日のように儀式や祭事がある。なかでも、サカ暦の元日にあたるニュピは、瞑想しながら過ごす静寂の日で、この日は外出、労働、煮炊き、食事、電気の使用などあらゆる活動が禁じられる。街中の商店や飲食店はもちろん、国際空港までが閉鎖され、観光客もホテルから出ることはできない。ニュピ前夜にはングルプックと呼ばれる儀式が行なわれ、巨大なオゴオゴ(はりぼて)を担いだ人々が練り歩く光景が見られる。また、祖先の霊を迎えるガルンガン、祖先の霊を天界に送り出すクニンガンなど、ウク暦に基づく重要な祭りも多数ある。
宗教儀礼(ウパチャラ)は各地で毎日のように行なわれる
バリ・カレンダー
以下のようなものが表示されている。
・まず月と西暦の年、サカ暦の年号、仏教の年号(仏暦)、日本の紀元(皇紀)が書かれている
・ウク暦の各週が横並びで示されている
・曜日名が、インドネシア語やバリ語、日本語などで表記されている。写真のカレンダーにはアラビア文字も見える
・数字は日付。右上には新月と満月を表すマークが入る。新月の日は黒丸、満月は赤丸
・一日一日について、何を行なうのに適した日なのかが定められている。たとえば、田植えの日や、用水路を開くのに適切な日、家を建てる日などがある。日本でも大安といった六曜に配慮するが、バリはそれが甚だしく、毎日が「なすべきこと」に支配されているといえる
・バリ島の各地で行なわれる、寺院創立の誕生祭(オダラン)の日程が書かれている
・このカレンダーの制作者の名前、顔写真、連絡先
・各行事について、この日に行なったほうがよい日程が項目別に書かれている
・広告欄
など
人生で大切な通過儀礼
バリ島では、人生の節目ごとにさまざまな通過儀礼があり、儀礼をひとつでも怠ると、災いが起こると信じられている。子供が産まれる際には呪術師が立ち合い、生後105日目には祖先の霊を赤ん坊の体内でよみがえらせる招魂式(ニャンブータン)がある。ここで初めて子供に名前がつけられ、人間として認められる。
成人式に相当するのが、独特の削歯儀式(ポトン・ギギ)。尖った歯は獣を連想させることから、前歯を削って平らにするもので、削歯のあとは聖水で清められる。また、人は成人したら、早く結婚して子孫を増やすことが義務と考えられている。結婚は家同士の話し合いで決められる。駆け落ちもないではないが、実際はあらかじめ家族も了承済みの場合がほとんどだ。結婚式は盛大に行なわれ、数日間続くこともある。
ポトン・ギギ
葬式は村を挙げての盛大な祭り
バリ島で最も華やかな儀式は、葬式(ガベン)である。日本の重々しい葬儀とは異なり、一見するとエキサイティングな祭りのようだ。その理由は、バリ島の人々が輪廻転生を固く信じているからだ。死者の魂は火葬によって浄化され、肉体から解き放たれると考えられている。死は繰り返される人生の節目のひとつであり、葬儀はよりよく生まれ変わるための出発の儀式なのだ。
死者は、バデと呼ばれる幾層にも塔が重なったきらびやかな御輿に乗せられ、長い行列をなして火葬場まで運ばれる。参列者たちの表情は一様に明るく、衣装も色とりどりだ。火葬場に到着すると、牛や獅子などをかたどった棺に遺体が移され、豪快に火が放たれる。天界に昇った魂は祖霊となり、ガルンガンの日に再び地上へ戻ってくるという。
葬式の規模は身分や経済力によってさまざま。火葬には膨大な費用がかかるため、いったん土葬にしてから、資金ができたときに改めて火葬する場合も多い。
神聖な動物・プトゥラガンの張り子に棺を納めて火葬する
帰属義務の強いバンジャール
古くから共同体意識をはぐくんできたバリ島では、集団に属することが生きるための必須条件。人々はみな、デサ(村)、親族集団、スバック(水利組合)、サンガール(舞踊団)などいくつもの集団に所属し、極めて複雑な社会を形成している。なかでも重要なのが、バンジャールと呼ばれる地域組織。その結束は強く、寺院の祭事、結婚式、葬儀、その他あらゆる儀礼や作業が共同で行なわれる。住所に「Banjar(Br.)〜」として記載されることもある。バンジャールのメンバーは夫婦単位で、男性が所帯を持つことで一人前と見なされ、初めて加入する資格が与えられる。これは、神々への供物作りを担う女性がいないと社会が成立しないためで、バリ人にとって結婚は社会的地位を得る上でも、たいへん重要なものだと考えらる。
供物作りは女性の役割
互いに助け合うことで安定した生活を送ることができる反面、規則を破ったり秩序を乱したりした者は、バンジャールから永久に追放され、一切の援助が受けられず、大切な儀礼を行なうこともできなくなる。これは日本の村八分よりも厳しく、バリ人にとっては死に等しい。
宗教行事はバンジャールの存在なしでは行なえない
農耕社会を支えるスバック
インドネシア随一の優れた稲作技術を誇るバリ島。その背景には、900年以上の歴史を持つスバック(水利組合)がある。これは農業において最も重要な水を公平に分配するための組織で、寄り合いにより選出された長が、灌漑の管理、土地税の徴収、争いの仲介、収穫祭などの一切を取り仕切る。メンバーは灌漑用水を利用する代わりに、水路や道路の補修、寺院や穀物庫の建設、祭事の準備など、さまざまな労役を担う。こうした共同作業のなかで人々は相互扶助の精神を学び、平和な農耕社会を築いてきた。争いを好まず温厚な人柄のバリ人が多いのもそのためで、隣人同士の深い絆と協調性が、穏やかな暮らしや田園風景を支えているのだ。 2012年にはバリ独自の哲学(トリ・ヒタ・カラナ)を体現したスバックの潅漑システムがバリ州の文化的景観として世界遺産に登録された。
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- 奥付:
- この記事の出展元は「トラベルデイズ バリ島」です。掲載している情報は、2017年11〜2018年1月にかけての取材・調査によるものです。掲載している情報、商品、料理、宿泊料金などに関しては、取材および調査時のもので、実際に旅行される際には変更されている場合があります。最新の情報は、現地の観光案内所などでご確認ください。
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。