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ここで、オートレースについて簡単におさらいです
オートレースとは、簡単にいうと「プロ選手が二輪車で速さを競うモータースポーツ」です。
公営競技としての歴史は、戦後まもない1950年、船橋オートレース場(千葉県)から始まりました。
1950年前後には、地方自治体の主催する公営競技が、全国各地で相次いで始まります。戦災復興のための財源確保を、目指したものでした。公営競技とは、地方競馬、競輪(自転車競技)、競艇(ボートレース)、オートレースなどを指します。競輪、競艇などが誕生したのも同じ頃です。
その後、幾つかの施設は廃止され、現在オートレースの開催があるのは、全国5か所。川口(埼玉県)、伊勢崎(群馬県)、浜松(静岡県)、山陽小野田(山口県)、飯塚(福岡県)となっています。
現在行われているオートレースについて、トリビアを以下にご紹介します。
・競走車にはブレーキが無い
・・・急なブレーキ操作が事故につながる為。代わりにエンジンブレーキを使う
・ハンドルの高さが左右で異なる
・・・車体を倒して走行する時に、安定させるため。左回りで周回するので、左ハンドルが高い位置
・かつては4輪車によるレースもあった
・・・1973年廃止。現在は2輪車のみ
・勝利選手の最高齢は75歳※
・・・鈴木章夫選手。選手登録年はなんと1964年(※2022年7月現在現役続行中)
それにしても、後期高齢者の年齢の方が現役レーサーとは、驚きですね。
大井に誕生した、東京初のオートレース場
大井オートレース場は、東京都初のオートレース場として、1954(昭和29)年この地に誕生しました。
その場所は「勝島」と呼ばれた人口島です。この島が海軍省の主導で建設されたのは、第二次世界大戦の頃でした。戦いに「勝つ」ようにという思いから、こう命名されたそうです。
上記の地図と写真は、レース場と競馬場の建設直前のもので、そこは何もない空き地になっています。この勝島の先には、埋立地の形もなく、ここが海岸線だったことがわかります。この頃、オートレース場は、全国で建設されました。先ほどの船橋を始め、甲子園(兵庫県)、柳井(山口県)などが相次いで誕生しています。
こちらは、1971年の空中写真です。中央に見える小さな楕円形がレース場です。
先ほどの写真からおよそ20年の歳月を経て、周囲は大きく変わりました。最大の変化は、海が陸地に変わっていることでしょう。巨大な埋立地では、整備工事が進められているようです。また、勝島には高速道路が通り、建物が立ち並び、空き地は無くなっているように見えます。
このオートレース場の最大の特徴は、「日本初の舗装路」を備えた、一周500Mのコースでした。このコースはファンの人気を集め、川口オートレース場(埼玉県)とともに「ダートの川口、舗装の大井」などと呼ばれて、親しまれていたそうです。
その後、美濃部都知事の時代になると、選挙公約による公営ギャンブル廃止の方針が打ち出されます。それには反対運動もあったようですが、レース場は、結局1973年に廃止となりました。開設から20年に満たない、短い歴史に幕を閉じたのです。
大井の廃止から3年後、伊勢崎オートレース場(群馬県)が誕生し、所属選手などはこちらに移籍しています。
現在のオートレース場跡地はどうなった?
こちらは、オートレース場跡地の現在です。大井競馬場の駐車場(○にPのマーク)となっています。
周囲に目を向けると、陸地と勝島を隔てていた勝島運河は、一部埋め立てられ「しながわ区民公園」として整備されました。併設の「しながわ水族館」は、多彩なショーと展示が人気を集めています。
勝島の東側の巨大な埋立地は、「大井ふ頭」として整備され、倉庫が立ち並ぶ物流の拠点となりました。八潮団地というマンモス団地も建設され、商業施設や学校、公園もある一つの街が出来上がっています。
大井競馬場(東京シティ競馬)は、開設から70年を迎えて今も健在です。夜間開催の「トゥインクルレース」は1986年スタートし、今やすっかりおなじみになりました。またレースの無い時期に開催されるイルミネーションイベント「メガイルミ」の美しさは一見の価値あり。競馬ファンのみならず多くの人を集める場所となっています。
古い地図は小さな発見の宝庫 未知の世界への旅に出かけよう
さて、今回は1968年の古地図から、品川区にあったオートレース場の短い歴史を紐解いてみました。オートレースについては、殆んど知らないことばかり。レジャー施設が何でもある今の東京に、無いものがあることを知ったのも、今回の新たな発見でした。
古い地図は、謎解きや発見の宝庫です。みなさんも「ちょっと昔」地図から、未知の世界への旅に出かけてみては如何でしょうか。
【参考にした主な資料:AutoRace.JP公式サイト、大井競馬場HP、東京都競馬(株)HP】
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◆収録されている都市地図の刊行年 「1968年」「1985年」「2001年」「2014年」
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】オフィス プラネイロ
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現住所は地図雑学系ライター、本籍は地図実踏調査員。昭文社地図の現地調査歴15年以上の、自称「地理のプロフェッショナル」チームです。これまで調査・取材で訪問した市区町村は、およそ500以上。昭文社刊『ツーリングマップル』『全国鉄道地図帳』等の編集に参加しています。休日は、国内外の廃線、廃鉱など「廃」なものを訪ねる「廃活」、離島をめぐる「島活」中。好きな廃鉱は旧羽幌炭鉱、好きな島はサンブラス諸島(カリブ海)と大久野島。特技は「店で売ってる野菜の産地名⇒県名を当てること」。