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明治から平成 舎人町の変遷をたどる
明治時代末期の地図です。「南足立(郡)舎人村」とあります。「舎」の文字の横には集落がみられますが、周辺は殆どが田園地帯です。南足立郡は1932年東京市に編入され、「足立区」となります。
一気に時代は飛んで、およそ90年後の平成時代の舎人町です。農地はほぼ姿を消しています。地図の中央を南北に貫く太い道は「尾久橋通り」と呼ばれる幹線道路です。この道路の全線開通により、舎人町から都心へのアクセスは便利になりました。まっすぐ9キロほど南下すれば、荒川区西日暮里付近へ容易に出ることができます。しかし、一方で、新たな問題が起きていました。
新交通システムの誕生
前述の尾久橋通りの開通により、舎人町周辺から日暮里駅へ向かう東京都営バスが運行を開始します。しかし、沿線の通勤車が集中するラッシュ時には、慢性的な渋滞が発生し、定時運行が難しくなっていきます。このため、1970年代から、新たな鉄道建設の要望が高まっていきます。当初は地下鉄案もありましたが、採算性と経済性の面から、「新交通システム(AGT)」の採用が決定され、1997年着工されます。
この新交通システム(AGT)とは、正式には「自動案内軌条式旅客輸送システム」と呼ばれるものです。簡単に言うと、「小さなゴムタイヤの車両が、自動運転で走る路線」でしょうか。鉄道とバスの間の、「中間的な」輸送力を持つ交通手段として、発想されました。比較的建設費が安価なこと、自動運転のため人件費が抑えられる、などのメリットがあります。1981年開業の神戸市ポートライナーが、日本最初の本格的な路線で、他に「ゆりかもめ」(東京都)、「横浜シーサイドライン」(横浜市)などがあげられます。
2008年、着工よりおよそ10年の歳月を経て、東京都交通局「日暮里・舎人ライナー」は開業します。総延長は9.7キロ、駅数は13、路線名は、公募により決まりました。
「舎人」という地名は、多くの人にとって、この時初めて目にするものだったのでないでしょうか。
現在の舎人町 養鶏場のあった場所はどうなった?
こちらは、現在の舎人4丁目付近です。日暮里・舎人ライナーの終点・見沼代親水公園駅があります。この駅は「東京都23区で最北に位置する駅 」です。
冒頭地図で「養鶏場」があった場所は、この駅前の一等地!になっていました。地図ではセブンイレブンがある辺りです。道路網は一変していますが、氷川神社だけは、変わらず同じ場所に鎮座しています。
さて、日暮里・舎人ライナーの開通は、この街周辺の交通網を一変させました。埼玉からバスが乗り入れるようになり、都心へ向かう新たなルートになったのです。これに加え、山手線の駅から20分というアクセスの良さから、近年多くのマンションが建ち始め、沿線の人口は増加していきます。東京都は列車を増発する対策を取ってきたのですが、朝の通勤時間帯の混雑ぶりが近年問題になっていました。
そんな中で「日暮里・舎人ライナー」は、全国の都市鉄道の中で、最も混雑率が高いワースト1位(※)となってしまいました。その調査によると、最も混雑する西日暮里駅直前の区間で、混雑率140%(前年は189%で5位)。コロナ禍に行われた調査とはいえ、混雑で有名な東海道線や埼京線を上回る数字であり、驚きです。
※【出典】都市鉄道の混雑率調査(国土交通省・令和2年度実績)
舎人町は、かつての「陸の孤島」から、今や「東京23区最北の駅」と「日本一混雑する都市鉄道」のある街となったのです。
いつもよく目にするけど、行ったことが無いあの街へ
さて、今回は1968年の古地図から、東京23区最果ての街、舎人町の歴史を紐解いてみました。
かつて公共交通網から取り残されたような街が、日本有数の混雑する列車が走る街へ変わっていくという、大転換の歴史が、そこにありました。
いつもよく目にするけど行ったことが無いあの街へ、みなさんも、「ちょっと昔」地図から、小さな時間旅行に出かけてみては如何でしょうか。
【参考にした主な資料:東京都交通局HP、足立区HP、神戸製鋼所HP】
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昭文社が刊行してきた都市地図には、道路や鉄道、河川など街の骨格となる情報はもちろん、町丁名や地番、学校・役場などの公共的施設から、住宅団地やアパート、スーパー・デパート、工場や倉庫などの民間施設まで豊富に掲載してきました。収録内容も時代とともに変化するなど、地図はその時々の景観や暮らしが垣間見える「街の記憶」でもあります。
この商品は昭和40年代以降に出版した大判の都市地図から、時代の変化がわかる4世代の地図を選出・複製し、どこでも手軽に利用できる電子書籍として編集・構成したものです。
銭湯や映画館、銀行や郵便ポストなど生活密着の情報から、住宅団地の整備、工場跡地の再開発まで、様々な街の様子や移り変わりを地図から読み解きつつ、昭和から平成に至る社会の変化と合わせて時間を辿ってみてはいかがでしょうか。
<商品の概要>
◆収録されている都市地図の刊行年 「1968年」「1985年」「2001年」「2014年」
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】オフィス プラネイロ
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現住所は地図雑学系ライター、本籍は地図実踏調査員。昭文社地図の現地調査歴15年以上の、自称「地理のプロフェッショナル」チームです。これまで調査・取材で訪問した市区町村は、およそ500以上。昭文社刊『ツーリングマップル』『全国鉄道地図帳』等の編集に参加しています。休日は、国内外の廃線、廃鉱など「廃」なものを訪ねる「廃活」、離島をめぐる「島活」中。好きな廃鉱は旧羽幌炭鉱、好きな島はサンブラス諸島(カリブ海)と大久野島。特技は「店で売ってる野菜の産地名⇒県名を当てること」。