後楽園球場と後楽園競輪の生い立ち。 その前身は軍用地だった
これらのレジャー施設が生まれる以前、この一帯は「軍用施設」でした。
地図にある「砲兵工廠」は、旧日本陸軍の東京砲兵工廠のことです。「工廠」とは主に兵器を製造する工場です。空中写真から、中央の庭園「後楽園」(現在の小石川後楽園)の緑を囲むように、工廠が建っていたことがわかります。現在の文京区役所や中央大学理工学部を含む広い範囲が、工廠の用地だったようです。
この施設は、大名屋敷だった水戸藩邸の跡地に、明治期に建設されました。その後、関東大震災(1923年)により大きな被害を受けます。陸軍は復旧を断念し、工場を九州・小倉に移転させました。その跡地に建設されたのが、後楽園球場です。
●後楽園球場【1937年開場~1987年閉場】
正式名称は「後楽園スタヂアム」。名称は、隣接する大名庭園「小石川後楽園」にちなんだもの。50年間で約7000試合のプロ野球公式戦が開催され、生まれたホームランの数は約10000本でした。これらはいずれも、日本プロ野球の球場での歴代1位の記録です。(2位は甲子園で、現在約5400試合)
以下、後楽園球場トリビアです。
・戦後の一時期「アンラッキーネット」というフェンスが外野に設置・・・当初のグラウンドが狭すぎた(両翼78m)ため、ホームランが量産された。これを防ぐためのもの。
・大相撲の本場所が開催(1944年)・・・太平洋戦争中で、両国国技館が軍に接収されたため。
・最後のコンサートを行ったのは、マイケル・ジャクソン(1987年)・・・キャンディーズの解散コンサート(1978年)をはじめ、多くのコンサートに使用された。
●後楽園競輪場【1949年開場~1972年休止】
東京都の戦後復興財源のため、開設されました。その後、東京都の政策方針転換により、休止となります。当時の美濃部都知事が、選挙公約として「ギャンブル廃止」を打ち出したためです。競輪場としての役割を終えたのちは「後楽園ジャンボプール」に改装され、子供たちの人気を集めました。
後楽園の現在。今もスポーツレジャーの拠点
こちらが、現在の東京ドーム周辺の地図です。後楽園球場の跡地には、東京ドームホテルが建ち、アイスパレスは、黄色いビル(ボウリング場など)に変わっています。第三遊園地には、複合施設「ラクーア」(スパとアトラクションなど)が建ち、総合レジャー施設として、以前より充実しているようです。
交通網に目を向けると、このエリアには地下鉄4線が乗入れるようになり、地下鉄の要衝となりました。文京区役所は、地上28階の高層ビル(1994年完成)に生まれ変わりました。展望ラウンジは、美しい夜景が堪能できる場所として知られています。
大名屋敷から軍用地、そしてビッグプロジェクト
さて、今回は1968年の古地図から、東京ドーム界隈のちょっとした歴史を紐解いてみました。その、大名屋敷→軍用地→広域施設 という変遷は、東京ミッドタウンのたどったものと同じです。六本木ヒルズや東京大学も、かつては大名屋敷でした
そこで改めて気付いたことがあります。それは「東京都心の広域施設は、元をたどれば江戸時代の大名屋敷に行き着く」ということです。そうなると「江戸時代の参勤交代制度が、今の東京の都市機能形成の一役を担った」と、言えるのかもしれません。
話が壮大になりすぎました。この話は別の機会にしましょう。
みなさんも「ちょっと昔」地図から、小さな時間旅行に出かけてみては如何でしょうか。
【参考にした資料:株式会社東京ドームHP、日本野球機構HP】
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<商品の概要>
◆収録されている都市地図の刊行年 「1968年」「1985年」「2001年」「2014年」
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
【筆者】オフィス プラネイロ
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現住所は地図雑学系ライター、本籍は地図実踏調査員。昭文社地図の現地調査歴15年以上の、自称「地理のプロフェッショナル」チームです。これまで調査・取材で訪問した市区町村は、およそ500以上。昭文社刊『ツーリングマップル』『全国鉄道地図帳』等の編集に参加しています。休日は、国内外の廃線、廃鉱など「廃」なものを訪ねる「廃活」、離島をめぐる「島活」中。好きな廃鉱は旧羽幌炭鉱、好きな島はサンブラス諸島(カリブ海)と大久野島。特技は「店で売ってる野菜の産地名⇒県名を当てること」。