更新日: 2022年10月14日
多摩ニュータウンの歴史を追う。古地図から見る街の移り変わり
「紙地図をたどれば、その町の歴史や人の営みが見えてくる」
実在しない都市の地図を描く、空想地図作家の今和泉隆行さんはそう言います。そんな今和泉さんに、今回は多摩ニュータウンの変化について語っていただきました。
計画的に保育園や小中学校、公園や病院、商業施設などがそろう快適な居住環境が整備された多摩ニュータウン。首都圏の人口増加を支えた国内最大級のニュータウンの始まりを探ると、高度経済成長期へと遡ります。
現在とニュータウン開発当初の地図を見比べながら、多摩ニュータウンの計画から発展までを辿ってみましょう。
地図に見る多摩ニュータウン開発前夜
今和泉:
まず、多摩市の現在と1968年の地図とを見比べてみてください。
少年B:
これ、ほんとに同じ町なんですか? 1968年の地図は山ばかりで、ほぼほぼ地形図じゃないですか? 今と違いすぎて、まったく手がかりが見つかりません。
今和泉:
そう、丸ごと変わっちゃってるんですよ。まずは、地名から手がかりを見つけていきましょう。貝取という地名、どちらの地図にもありますよね。
少年B:
はいはい、永山の近くにありますね。1968年の地図にある「主要地方道37号府中町田線」が大きな道なので、手掛かりになるのかな?と思って探してるんですが、見つかりませんね。どこだろう?
今和泉:
現在の地図だと「都道18号 府中町田線」になっています。鎌倉街道って書いてありますね。
少年B:
地形も全然違うし、道路の名前も変わってるんだ! 1968年の地図を見ると、いまの鎌倉街道には、山の中に雪印乳業とサントリーの運動場しかありませんね。
今和泉:
そうですね。黄色い四角で書かれているところが家なんですが、貝取より南にはほとんどありません。ほぼ山です。
ちなみに雪印乳業は多摩村初の企業誘致で、その後同社系列の昭和牛乳の工場となり、2000年代までありました。もともとこのあたりは畜産農家が多かったので、それも関係しているでしょう。
少年B:
この山が多摩ニュータウンになったなんて、想像もできませんね。なんでこんなことに???
今和泉:
当時は高度経済成長期を迎えていて、東京に進学や就職する人が増えた。東京で働く人たちは結婚して、子どもも増えていったんですね。
「家が足りない、どうしよう。じゃあここを全部宅地にしよう!」ということになったわけですね。
少年B:
ワイルドがすぎる。そういう理由で、各地にニュータウンが生まれたんですね。
今和泉:
そうです。そして、ここ多摩地域にも多摩ニュータウンが爆誕したんです。
少年B:
江戸川区を見比べたときに、今和泉さんは「小学校や神社仏閣を手がかりにするといい」っておっしゃってましたが、それもないですよね……。地形が変わりすぎていて、どこがどこなのか、ぜんぜん分かりません。
今和泉:
では、次に乞田周辺で見比べてみましょう。
少年B:
……待って。面影がない。
今和泉:
現在の地図を見ると、大通りから1本入ったところに、細い裏道がありますよね。これが、1968年の地図に描いてある、主要地方道37号府中町田線にあたります。
ここのポイントは、この道路以外に当時の形をとどめているものがないことです。
少年B:
1968年はこの細い裏道しかなかったってことですか? うそだろう。当時のこの道路と今の道路が、本当に同じものなのか?って気すらします。
今和泉:
道路だけじゃなくて川も変わっているんですよね。乞田川は当時にょろっとした川なんですが、今は河川改修で護岸をコンクリートで固めてまっすぐにしています。乞田川だけじゃなくて、聖蹟桜ヶ丘駅の近くにある大栗川も同じです。
少年B:
マジで地形が変わりすぎてて……。いやあ、人類の科学の進歩はすごいですねぇ。
今和泉:
すべての理解を諦めた顔をしないでください……!
少年B:
いや、すみません。あまりにもわからなくて。あと、1968年の地図だと、川と道路が似たように描かれているので、ちょっとわかりづらいですね。これかぁ……。
今和泉:
確かに、色もついてないのでわかりづらいですよね。川は道路よりもうねっていたり、道路と交差する地点では道路の下に描かれているので、そこで判断するといいと思いますよ。
さて、聖蹟桜ヶ丘まで辿ったので、ついでに駅の周辺を見てみましょう。注目ポイントは一の宮団地と桜ヶ丘4丁目付近。ここだけ区画がしっかり書いてある点です。
少年B:
確かに。一の宮団地だけやけに細かくないですか? なぜだ。
今和泉:
そう、ここだけ建物の形まで描いてあるんですよね。桜ヶ丘も区画がきっちり書いてあります。
少年B:
これは、何か理由があるんですか?
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