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高層ビルがテーマ? 1969年のヒット映画とは

ここで、この年のヒット作品を幾つか紹介しましょう。当時の大人鑑賞料金は全国平均300円程度でした。新作封切り館は、これよりもう少し高かったかもしれません。

■栄光への5000キロ 【出演】石原裕次郎、浅丘ルリ子、三船敏郎ほか 【監督】蔵原惟繕
■ブリット 【出演】スティーブ・マックィーンほか 【監督】ピーター・イエーツ
■日本海大海戦 【出演】三船敏郎、加山雄三、仲代達矢ほか 【監督】丸山誠治
■超高層のあけぼの 【出演】池部良、丹波哲郎ほか 【監督】関川秀雄

・・・懐かしい俳優さんの名前が並びますね。

この年の配給収入一位は「栄光への5000キロ」。サファリラリーに情熱を燃やす男の物語で、多数の海外ロケや迫力あるレースシーンが話題を呼んだそうです。「ブリット」は、サンフランシスコを舞台にしたカーアクション映画でした。

最後に挙げた「超高層のあけぼの」は、「霞が関ビル」(注3)を完成させた男たちの物語。完成当時、このビルは「超高層」と呼ばれ、日本一の高さでした。前年1968年に完成したばかり。きっと世間の話題になったことでしょう。それが映画のメインテーマになるとは、時代の空気を感じますね。

(注3)霞が関ビル(千代田区霞が関三丁目)周辺図  1968年地図/昭文社より  ※地図上では「三井霞ヶ関ビル」と表記されています

日本の映画館。その数は半世紀でどう変わった?

ところで、かつて「斜陽」とも言われた映画産業ですが、半世紀前とくらべ、現在の映画館の数どうなっているのでしょうか。

以下は、全国の映画館における「スクリーン数」「入場者数」「平均(鑑賞)料金」を、統計から抜粋した数字です。(注4)

1960年 =7457 (過去1955年~2021年の最大値)・約10.9億人・72円
1969年 =3602・約2.8億人・295円
2021年 =3648・約1.1億人・1410円

テレビの急速な普及が要因でしょうか、1960年から1969年の間で、スクリーン数と入場者数は大きく減少しています。この頃が「映画離れ」が一番深刻だった時期かもしれません。

意外なことに、1969年と現在では、スクリーン数はほぼ変わっていませんでした。漠然と「映画離れ」により映画館は減っている、と考えていたのですが、予想を裏切られました。

ただし、現在は「シネコン」(シネマコンプレックス=複数スクリーンをもつ映画館)が全スクリーン数の90%近くを占めています。つまり「従来タイプの映画館」は大きく減少しているのです。(注4)

(注4)【出典】日本映画産業統計(一般社団法人日本映画製作者連盟)

映画の後は、喫茶店。買い物して帰路につきます

映画の後は、喫茶店。買い物して帰路につきます

さて、1969年の新宿に戻りましょう。
映画を無事見終わりました。その後は、近くの喫茶店「らんぶる」(注5)で一服です。珈琲を飲みながら映画の余韻を楽しんだあとは、「三平ストア」(注6)(上図に記載あり)で、お買い得の鮮魚を大量買いです。

暗くなりかけた夕暮れの靖国通りを、国鉄(日本国有鉄道=現・JR東日本)新宿駅へ向かいます。駅構内には、前年の「新宿騒乱」(注7)の爪痕がまだ残っていました。キミドリ色の山手線電車で、帰路につきました。

(注5)名曲・珈琲「新宿らんぶる」(新宿三丁目)は1950年開業。現在も当時と変わらず営業中
(注6)「三平ストア」は、現在も総合スーパーとして、当時とほぼ同じ場所(新宿三丁目)で営業中
(注7)1968年10月国際反戦デーに起こった学生を中心とする暴動事件。新宿駅構内では、施設などの破壊行為があり、多数の検挙者を出した

現在の新宿駅東口・新宿三丁目  今も変わらず営業する映画館も

現在の新宿駅東口・新宿三丁目  今も変わらず営業する映画館も

さて、現代に戻りましょう。
こちらは現在の新宿駅東口付近です。

駅東口前には「武蔵野館」という劇場(映画館)が見えます。この施設は、冒頭の1969年地図でも、全く同じ場所にあります。
当時と今を比較すると、昭和館→K’s cinema 、松竹→新宿ピカデリー、東映→新宿バルト9 といった具合に、同じ場所で別の映画館として営業しているケースも多いです。
これ以外にも、新宿三丁目界隈では、今も多くの映画館が営業しています。昭和の新宿映画館文化の遺伝子は、今もしっかり継承されているようですね。

今回は、1969年の新宿地図を机上散歩し、映画館のちょっとした歴史を紐解いてみました。

みなさんも「ちょっと昔」地図から、小さな時間旅行に出かけてみては如何でしょうか。

【参考とした資料:新宿東口商店街ホームページ】

1969(昭和44)年はどんな時代?

<出来事>
・アポロ11号・人類初の月着陸
・東名高速道路全通
・東大安田講堂占拠事件
・新宿西口地下広場で反戦フォーク集会
<流行語>
・あっと驚くタメゴロー
・オー、モーレツ!
<テレビ・音楽>
・テレビアニメ「サザエさん」放送開始
・ヒット曲:夜明けのスキャット(由紀さおり)/港町ブルース(森進一)/ブルーライト・ヨコハマ(いしだあゆみ)

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昭文社が刊行してきた都市地図には、道路や鉄道、河川など街の骨格となる情報はもちろん、町丁名や地番、学校・役場などの公共的施設から、住宅団地やアパート、スーパー・デパート、工場や倉庫などの民間施設まで豊富に掲載してきました。収録内容も時代とともに変化するなど、地図はその時々の景観や暮らしが垣間見える「街の記憶」でもあります。

この商品は昭和40年代以降に出版した大判の都市地図から、時代の変化がわかる4世代の地図を選出・複製し、どこでも手軽に利用できる電子書籍として編集・構成したものです。

銭湯や映画館、銀行や郵便ポストなど生活密着の情報から、住宅団地の整備、工場跡地の再開発まで、様々な街の様子や移り変わりを地図から読み解きつつ、昭和から平成に至る社会の変化と合わせて時間を辿ってみてはいかがでしょうか。

<商品の概要>
◆収録されている都市地図の刊行年 「1968年」「1985年」「2001年」「2014年」

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

現住所は地図雑学系ライター、本籍は地図実踏調査員。昭文社地図の現地調査歴15年以上の、自称「地理のプロフェッショナル」チームです。これまで調査・取材で訪問した市区町村は、およそ500以上。昭文社刊『ツーリングマップル』『全国鉄道地図帳』等の編集に参加しています。休日は、国内外の廃線、廃鉱など「廃」なものを訪ねる「廃活」、離島をめぐる「島活」中。好きな廃鉱は旧羽幌炭鉱、好きな島はサンブラス諸島(カリブ海)と大久野島。特技は「店で売ってる野菜の産地名⇒県名を当てること」。

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