後鳥羽上皇が挙兵の機会をうかがう
実際、後鳥羽上皇はチャンスの到来を待っていたように見受けられます。畿内最大級の軍事力を誇る有力な御家人大内惟義(おおうちこれよし)に接近したり、院の御所を警固する北面(ほくめん)の武士に加え、西面(さいめん)の武士を新たに創設するなど、兵力の拡充に余念がありませんでした。
そうしたなか、後鳥羽上皇を慕っていた源実朝が殺されたことにより、彼は幕府への不信感を高め、幕府打倒へと動き出したのです。
後鳥羽上皇周辺の人物相関図
後鳥羽上皇も権力をふるった院政とは?
天皇が上皇になると迅速な政治判断を下せるため、院政のシステムは時代に即していました。
院政とは天皇より上位の上皇が政治を行うこと
院政とは、平安時代後期から鎌倉時代前期にかけて行われていた政治の形です。譲位した上皇(院)が天皇の後見として政務をとるもので、1086(応徳(おうとく)3)年に堀河(ほりかわ)天皇に譲位した白河(しらかわ)上皇以降、鳥羽(とば)上皇、後白河(ごしらかわ)上皇、後鳥羽上皇が権力をふるい続けました。
その権力の大きさは、院政の政務機関である院庁(いんのちょう)が置かれた離宮跡をみるとわかります。白河上皇が造営した鳥羽離宮は南北880メートル、東西660メートルもあるのです。
院政のしくみ
院政というシステムは必ずしも悪ではない!?
院政については、上皇が天皇を差し置いて政治の実権を掌握していた守旧のシステムで、そのせいで貴族は武士に政権を奪われたと一般的に認識されています。現代において使われる院政という言葉も、よいイメージをもたれることはほとんどありません。
一方で、院政をポジティブに捉えようとする見方も出てきています。
天皇には行わなければならない儀礼がたくさんありましたが、上皇になるとそれらから解放され、重要な政務の決定に専念することができました。土地をめぐる訴訟や朝廷の人事などが激増していた当時の状況を考えると、その手続きが院に集約されて迅速な政治判断を下すことができる院政は、時代に合っていたともいえるのです。
院政の拠点
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2022年のNHK大河ドラマは『鎌倉殿の13人』。日本の中世は『平家物語』『太平記』などの記述を頼りにしてきましたが、不鮮明な部分が多くありました。近年、文献の研究が進み、軍記物が伝えてきたのとは異なる実像が浮かび上がり、いまもっとも注目される時代です。
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見どころ―目次から抜粋:鎌倉時代
■源氏の挙兵/宿命のライバル、平氏と源氏が全国各地で戦を繰り広げる
■一ノ谷の戦い/平氏の野望を打ち砕く 源義経の奇襲「鵯越の逆落とし」
■壇ノ浦の戦い/日本史上初の本格的海戦が勃発 戦局を左右したのは潮の流れ!
■奥州合戦/源平合戦で大活躍した源義経を兄の頼朝が排斥した理由とは?
■鎌倉幕府成立/全国に守護が設置され、頼朝の征夷大将軍任命で幕府が成立!
[中世史の最前線]あの肖像画は将軍ではない?源頼朝の本当の顔
■幕府の統治機構/封建制のはじまりとなった鎌倉幕府の統治システム
■13人の合議制/カリスマ源頼朝の死後、幕政の主導権を握った13人とは?
■比企能員の乱/「13人」のメンバーの北条時政が粛清の嵐で源氏将軍の独裁を阻む
■和田合戦/鎌倉で大規模な市街戦が勃発!北条義時と古参の御家人の戦い
■将軍断絶/3代で途絶えた源氏将軍の系譜 ますます勢いを増す北条氏の権勢
■後鳥羽上皇の企み/目指すは公武合体による親政 後鳥羽上皇がついに動き出す!
[中世史の最前線]言葉のイメージはよくないが、院政は悪いシステムではなかった?
■承久の乱/公武の力関係を大きく変える中世最大級の大乱が起こる!乱の結果、幕府が勢力を拡大し、公武二元体制を終わらせた
■執権政治/武家政権を安定させたのは稀代の名執権・北条泰時!
■文永の役/日本侵略の危機!そのとき幕府はどう動いた?
■弘安の役/モンゴル軍が再び襲来するも、またもや暴風雨によって失敗!
[中世史の最前線]元寇で「神風」は吹いたのか、吹かなかったのか?
■鎌倉新仏教/上流階級から庶民のものへ……次々に誕生した新しい仏教宗派
[中世史の最前線]鎌倉新仏教と旧仏教はどんな関係だった?
■得宗専制政治の確立/将軍にならず得宗として権力を掌握した北条氏一族
■両統迭立/皇位継承が不安定に……皇統が持明院統・大覚寺統に分裂!
■正中の変・元弘の変/幕府に戦いを挑み、2度も失敗……それでも信念を貫いた後醍醐天皇
■鎌倉幕府の滅亡/幕府方の足利高氏が謀反!新田義貞も活躍し幕府が滅びる
見どころ―目次から抜粋:室町時代
■建武の新政/武家軽視の方針が仇に……挫折した後醍醐天皇の夢
■中先代の乱/ついに後醍醐天皇と決別!政府打倒を目指す尊氏
[中世史の最前線]黒い馬にまたがる騎馬武者は足利尊氏ではない?
■南北朝の分立/朝廷が分裂して天皇も2人に!北朝と南朝の攻防がはじまる
■観応の擾乱/尊氏と直義の骨肉の争い!史上最大の兄弟喧嘩の顛末は?
■将軍権威の確立/武家と公家両方の頂点に立ち、幕府を全盛期に導いた足利義満!
■幕府統治機構の確立/鎌倉幕府を踏襲した統治機構が義満の時代にようやく確立する
■南北朝合一/南北に分裂していた朝廷が約60年のときを経てひとつに!
■日明貿易/優先すべきは名より実 巨大ビジネスをものにした義満
[中世史の最前線]足利義満は本当に天皇の地位を奪おうとしていたのか
著者紹介
山田 邦明(やまだ・くにあき)
1957年、新潟県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学史料編纂所教授などを経て、現在愛知大学文学部教授。日本中世史を専門とする。主な著書に『鎌倉府と関東』(校倉書房)、『日本の歴史8 戦国の活力』(小学館)、『日本中世の歴史5 室町の平和』『戦国のコミュニケーション』『人物叢書 上杉謙信』(以上、吉川弘文館)、『日本史のなかの戦国時代』(山川出版社)、『鎌倉府と地域社会』(同成社)などがある。
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