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尾瀬の湿原は泥炭が6~8000年かけて蓄積した高層湿原

では、そもそも湿原とは何なのでしょうか。一般的には、“低温多湿の環境下で生じ、泥炭(気温が低く植物が完全に分解されずにできた土)の上に広がった草原”をさします。湿原は、泥炭の蓄積具合で分類されます。周辺よりも地表面が高くなるまで泥炭が蓄積し、川などがなく、水分を雨や霧だけに頼っているものを「高層湿原」といい、山地では日本最大といわれるものがいわゆる尾瀬ヶ原です。

なお、周囲よりも低い位置で泥炭が蓄積しているものは低層湿原、中間湿原といい、尾瀬で泥炭が蓄積する量は1年で1mm以下。尾瀬ヶ原の約5mの泥炭は、6~8000年かけて蓄積したと考えられています。

高層湿原は長い年月をかけて形成されていった

高層湿原は長い年月をかけて形成されていった

低層湿原
池や沼に土砂が流れ込んで浅くなり、水草が生えます。水草が枯れて泥炭になり、泥炭が積み重なることで湿原になります。

中間湿原
周りの土地の地下水面と同じか低い状態の「低層湿原」に、さらに泥炭が積み重なっていくと「中間湿原」になります。

高層湿原
泥炭が積り続けて湿原が盛り上がり、周りの土地よりも地表面が高くなった状態を「高層湿原」といいます。

尾瀬の湿原の成り立ち

四方を2000m級の山々に囲まれ、海抜1400mの盆地に孤立した状態の尾瀬の湿原ですが、その成り立ちについては長いこと解明されていませんでした。

現在、有力な説としては、およそ200万年に周辺の山々が噴火したことで、やや平坦な盆地のような場所ができ、源流となる川が流れたことで現在の尾瀬の形が見え始めたとされています。さらに火山活動が活発化し、約35万年前に噴火が始まったのが、尾瀬のシンボルともいえる「燧ヶ岳(ひうちがたけ)」です。また、火山灰や溶岩、泥など火山からの噴出物が川の流れをせき止めて約1万年前にできたのが「尾瀬沼」。「尾瀬ヶ原」は、周辺の山々を流れる川が運んだ土砂がためられて平らになり、そこを流れる川が流れを変えたり、水があふれたりして湿った土地となって湿原ができ始めたと考えられています。

尾瀬の湿原に生息する貴重な動植物や独特な自然現象

日本の山地湿原の多くは、多雪山地に位置しており尾瀬ヶ原」も半年以上、大量の雪に覆われています。厳しい自然環境下、堆積物が分解されぬまま泥炭化が進むため、稀少な植生と生物が育つ貴重な場となっています。

ミズバショウニッコウキスゲなど、稀少種を含む高山植物はとくに豊富です。オゼソウオゼコウホネなどといった尾瀬で発見され、尾瀬の名前が付く動植物も多く、現在、確認されているだけでも900種類以上の植物が生息しているといわれます。豊かな自然が残っているため、ツキノワグマカモシカオコジョなど、さまざまな動物も顔を見せます。

また、5~6月の雪解けの頃、白い雪面が赤く染まる謎の現象“アカシボ(赤渋)”も、独特の自然現象といわれます。泥炭化した植物に含まれる鉄分が酸化し、雪を赤く染めるためといわれますが、成分には多くのバクテリアを含んでいることがわかっており、さらなる研究が進んでいます。

尾瀬は日本の自然保護運動の原点

昭和9(1934)年から国立公園に指定されている尾瀬は、当時から多くの登山者が集まっていました。尾瀬のシンボルともいえる木道は、自然を踏み荒らす登山者から湿原を守るため、昭和27(1952)年から建設がスタート

しかし昭和30年代になると今度は登山者による大量のゴミが問題となりました。すると今度は国立公園としては初の「ごみ持ち帰り運動」が始まり、やがて運動は全国へと拡大。一時はダムや観光道路の建設計画が持ち上がりましたが、自然保護に取り組む人々が反対運動を起こして建設は中止に。

こうして尾瀬を守る人々の努力により現在も貴重な自然が守られ、「日本の自然保護運動の原点」ともいわれているのです。

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