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八ッ場ダムの歴史:建設の経緯

通常、ダム建設の目的は治水・利水・発電です。しかし、八ッ場ダムの場合は昭和22(1947)年に大洪水をもたらしたカスリーン台風級の水害から利根川流域や首都を守ることを主目的として、利根川上流域の約1/4の面積を占める主要な支流である吾妻川(あがつまがわ)に建設が計画されました。計画当初は、ダムのコンクリート量が減らせるため建設に適した狭い谷である、吾妻峡(あがつまきょう)のほぼ中央部に建設が予定されていました。

八ッ場ダムの歴史:建設構想が抱えた問題点

しかし、この地にダムを建設するためには、いくつもの問題を抱えていました。まず根本的な問題は、吾妻川の水質は魚が生息できないほどの強酸性だということ。草津白根山を源とする川からの流入が原因で、酸が金属やコンクリートを腐食させてしまうため、ダム建設には適さなかったのです。

代替案として吾妻川の支流へのダム建設が検討されましたが、貯水容量や水没物件などで問題があり、難航しました。また、約340世帯が水没してしまうため建設地住民の反対意見も多く、賛成派と町を二分する深刻な問題も起きました。

八ッ場ダムの歴史:建設が開始されるまでの背景

水質問題は、昭和38(1963)年に建設された草津中和工場から1日約55tの中和剤(石灰石粉)を川に投入し、約3km下流の品木ダムで中和反応促進と中和生成物の収容を行うことで解決。そして住民との長年にわたる協議の結果、ダム建設事業が開始しました。民主党政権時代の2009年には国からダム建設中止が発表されるなど紆余曲折もありつつ、ようやく運用開始となったのです。

八ッ場ダムの歴史:建設が開始されるまでの背景

貯水池からの水圧をダムの重さで支える、重力式コンクリートダム。総貯水量は1億750万㎥と東京ドーム87個分の規模。

八ッ場ダムの歴史:完成とダム周辺の変化

ダムの完成とともに、周辺はどう変わったのでしょうか。ダム建設地を通っていたJR吾妻線と国道145号は高台に移動し、ダム湖を迂回する新ルートに。ダムのほぼ中央にあった川原湯温泉」は、温泉、旅館、住宅ともに湖周辺の新天地へ移転。温泉名物「湯かけ祭り」も新たな会場で行われています。

一方で、残されたものもあります。上毛かるたにも詠まれる国の名勝・吾妻峡は、ほぼ中央部がダム建設予定地でしたが、文化財保護の観点からダムを約600m上流の現在地に移すことで、約3/4の区域が守られました。また、廃線を利用した自転車型トロッコなど、周辺には新たな観光名所が続々と登場しています。

八ッ場ダム完成前後に周辺で新たにできた施設・廃止された施設

八ッ場ダム完成前後に周辺で新たにできた施設・廃止された施設

ダム底の位置にあった川原湯温泉街や、JR吾妻線、国道145号はダムの周りの高台へ。周辺には新たな施設も続々と登場しました。

【新たにできた施設】
「吾妻峡レールバイク アガッタン」
JR吾妻線旧線路を走る、自転車型トロッコ。吾妻線にあった日本一短い、全長7.2mの「樽沢トンネル」もコースに入っています。

「八ッ場バンジー」
ダムにかかる八ッ場大橋から、バンジージャンプができます。ダムに水が入る前は高低差が106mもあり、全国一の高さを誇っていました。

【残ったもの】
「吾妻峡」
吾妻川中流にある約3.5kmにわたる渓谷。かつては歌人の若山牧水も訪れて歌を詠みました。ダムの建設予定地が移動したため、美しい渓谷は水没を免れました。川の両岸に茂る木々や花が、季節ごとに渓谷を彩ります。とくにミツバツツジの咲く4月中旬、新緑の5月、紅葉の10月下旬から11月上旬がおすすめです。

八ッ場ダムの治水効果とダム周辺観光地の発展への期待

2019年の台風19号の際には、試験湛水(たんすい)中の八ッ場ダムを含めた利根川上流の7つのダムが、伊勢崎市付近の利根川水位を約1m下げたという速報値が出ました。治水の面はもちろん、開発が進む周辺の観光地にも今後期待が広がります。

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