灘五郷の歴史
灘が酒どころとして知られるようになったのは、江戸時代前期の寛永年間(1624~44年)に、伊丹出身の雑喉屋文右衛門(ざこやぶんえもん)が西宮で酒造をはじめて以降です。
灘には、多紀郡(たきぐん:現在の丹波篠山市)から出稼ぎの酒造家が集まって技術を磨き上げ、彼らは「丹波杜氏(とうじ)」と呼ばれました。天保年間(1830~44年)には西宮で宮水が発見されます。宮水は、日本酒の醸造に適したリン、カルシウム、カリウムなどのミネラルを多く含み、酒の風味を損なう鉄分が少ないのです。
灘五郷のルーツは古代にさかのぼる
神戸市中央区の生田神社には「灘五郷酒造の発祥地」の石碑があります。
碑文によると、平安時代の法令集である『延喜式(えんぎしき)』の記述を引き、朝鮮半島の新羅(しらぎ)から使節が来日したおりには、現在の兵庫県内にある生田神社、廣田神社、長田神社、大和(現在の奈良県)の片岡神社から稲50束を持ち寄り、生田神社で神酒を醸造し、敏馬の浦(みぬめのうら:現在の神戸市灘区)で振る舞ったことが記されています。『延喜式』に記された酒造法によれば、当時の神事用の酒は水分が少なくて粘りが強く、味はかなり甘口だったようです。
灘五郷の気候と地域特性
灘は気候も酒造りに適していました。冬の灘は六甲おろしと明石海峡を通る西風が吹き抜けます。冷蔵庫がなかった江戸時代には、この寒風を酒蔵に取り入れて日本酒を仕込む「寒造(かんづくり)」が行なわれていました。
灘は港町に位置したので、酒樽を積んだ樽廻船(たるかいせん)によって灘の酒は各地に売り込まれました。幕末には江戸に入る酒樽の約6割が灘から来ていたといいます。
灘五郷の酒は江戸では「下り酒」?
灘の酒は江戸では「下り酒」と呼ばれ、一説によれば、低級なものをさす「下らない」という語句は、品質が低いので江戸へ下らない酒をさしていたともいわれています。
灘五郷は時代とともに変化
灘五郷の顔ぶれは時代とともに変化しています。江戸時代の天明年間(1780年代)には、五郷ではなく三郷で、今津、上灘(かみなだ:現在の神戸市灘区と東灘区)、下灘(しもなだ:現在の神戸市中央区の南部、神戸、走水(はしうど)、二ツ茶屋、小野新田、脇浜の各村)で構成されていました。その後、酒造がもっともさかんだった上灘が上灘東組、上灘中組、上灘西組に分かれて、東郷、中郷、西郷となり、今津郷、下灘郷と合わせて灘五郷と呼ばれました。
明治期以降は下灘の酒造がすたれ、1886年に摂津灘酒造組合が発足すると西宮を加えて五郷とし、現在に至っています。
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