江戸時代初期、徳川家康は年貢米の運搬手段として日本各地で河川舟運を開発していました。

富士川舟運は、1606（慶長11）年に大堰川（おおいがわ）の開削工事に成功しその実績を買われた京都の豪商・角倉了以（すみのくらりょうい）が、家康の命を受けて翌年に着手。

富士川には難所が多く、当時は土木技術が不十分で工事は困難を極めましたが、角倉了以は5年の歳月をかけて航路を完成させました。山梨県の富士川町には、角倉了以の功績をたたえて建てられた「富士水碑」が残されています。

富士川舟運の主要な河岸は、下流側の「岩渕河岸（いわぶちがし）」と上流側の「甲州三河岸（こうしゅうさんがし）」。岩渕河岸は現在の静岡県富士市北部（旧富士川町）にあり、甲州三河岸は鰍沢（かじかざわ）・黒沢・青柳河岸の3つの総称で、現在の山梨県富士川町にあたります。

甲斐から駿河への下り舟は米が、逆に駿河から甲斐への上り舟は塩が主な輸送品でした。甲斐と駿河を結ぶ街道の一つ「駿州往還（すんしゅうおうかん）（甲州往還）」の交わる地点に位置していた鰍沢は、この開削によって富士川舟運の要衝地となり、流通の拠点として大きく発展していきました。

明治時代になると、取り扱う物資が多様化するとともに増大し、また、利用する人々も増加したことから航路の改修が進みました。舟の大型化や、帆舟・プロペラ舟も登場し、明治中頃には最盛期を迎えます。

また、旅客物資の安全輸送を図るため、時の県令・藤村紫朗（ふじむらしろう）の主動により、富士川運輸会社が設立され、以後、船頭は会社所属とし、所属以外の者の通船を禁止するなど富士川舟運を一手に握り発展していきました。

しかし、1889（明治22）年に東海道本線、1903（明治36）年には中央線が開通し、物流の軸足は一挙に鉄道に移ります。舟運は衰退の一途を辿り、1928（昭和3）年の身延線の全通に伴い、316年間にわたる使命に終わりを告げたのです。

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