一方、『古事記』や『日本書紀』には、県内のさまざまな地名の由来として、ヤマトタケルの伝承が記載されています。

景行40年（西暦110年とされる）のこと、ヤマトタケルは父である第12代景行天皇の命令で東国の蝦夷（えぞ）討伐に向かいました。その途中、逆賊に騙されて草むらの中で四方に火を放たれ焼き殺されそうになりますが、身に着けていた剣で草を薙ぎ払い、敵を破ることができたといいます。

ヤマトタケルが無事に難を逃れた地を「草薙（くさなぎ）」といい、この時使用した剣は敵を打ち払う神剣として草薙剣と呼ばれるようになったと伝えられています。

草薙は、現在も静岡市清水区西部の地名となっており、草薙剣はヤマトタケルを御祭神とする同区の草薙神社に奉納され、686（朱雀元）年に第40代天武天皇の勅命により熱田神宮に奉祀されています。

また、火が野に放たれて焼け野原になった地を「やいつ」と言うようになり、これが「焼津（やいづ）」（現在の焼津市）の名前の由来という説も。さらに、静岡市南部の丘陵地「日本平（にほんだいら）」についても、ヤマトタケルが敵を破った後に有度山の頂上に登り四方を眺めたことに由来するといわれています。

ちなみに、この有度地区にはヤマトタケルに関する伝説が20余りも存在します。発祥時期は不明ですが、草薙神社の信仰が広まるとともに創作されたものと推察されています。

ヤマトタケルの伝承は、実在した個人の説話ではなく、ヤマト政権が武力制圧により政治的な支配を拡大していくという歴史的な過程を、一人の伝説的な英雄の物語として伝えたものである、という説もあります。

静岡県におけるヤマトタケルの伝承については、駿河で国造（くにづくり）に相当するような在地勢力の激しい抵抗があり、この抵抗がヤマトタケルの伝承に反映されて伝わったと考えられています。

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