笠原水道はこうしてつくられた
水源の背後には、水を通しやすい透水層と通しにくい不透水層に分かれた千波台地があり、地中に染み込んだ雨水が透水層と不透水層との境目から湧き出ていたのです。一帯は頼房の時代から保護されていたため、湧水は良質で、量も豊富でした。水質維持のため、敷地内での肉食や釣りなどを禁止する「漱石所(そうせきしょ)規約」が定められていました。
工事は久慈郡町屋村(現・常陸太田市)の永田勘衛門(ながたかんえもん)が担いました。水源4カ所の湧水を溜め、青銅製の竜頭を設けて溜桝(ためます)に集め、逆川を越えて千波湖南岸を東に迂回し、吉田神社下の藤柄町(ふじがらちょう)まで通す岩樋(いわひ)を用いた暗渠(あんきょ)をつくりました。そこから備前堀を銅樋で渡して市街地に入り、細谷まで全長約10.7kmの笠原水道が完成しました。
工事開始からわずか1年半足らずの1663(寛文3)年7月のことでした。工事には延べ2万5000人以上、経費は554両あまりを費やしました。
笠原水道の特徴
笠原水道の特徴は、暗渠(蓋をしたり、地下に埋められたりした水路)であることです。岩樋に隙間が多いのは、水源だけでなく湿地帯である下町の湧水を隙間から取り込みながら導水することで、水量を確保するためであったと考えられます。
また、溜桝や岩樋には水戸駅そばの偕楽園南崖で切り出された、泥が固まってできた凝灰質泥岩(神崎岩(かみさきいわ))をおもに使用しています。軽量で運搬がしやすく、湿地帯でも沈下しない素材を近場で見つけ出し、岩樋の安定性を高めたのです。
笠原水道の維持と現在
水道の維持管理には費用と労力を要しましたが、積み立てた水道基金により、1802(享和2)年には享和の大修理が行われ、1932(昭和7)年まで269年間使用されました。湧水は現在も市民に親しまれており、水源地の竜頭共用栓から出ている水は、湧水に塩素を注入した水道水で、飲用も可能なのです。
笠原水道以外の用水対策:灌漑と治水を担う備前堀
灌漑用水の確保と千波湖の洪水防止のため、徳川頼房が伊奈備前守忠次に命じ、1610(慶長15)年に用水堀が築かれました。伊奈「備前」守忠次の名から「備前堀」と呼ばれます。
当時は千波湖から直接水を流していましたが、大正から昭和にかけての千波湖改修で、桜川から取水するようになりました。現在でも農業用水などに利用されており、千波湖東端から下市南部を通り、島田で涸沼川に入り、下大野で那珂川に注いでいます。
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