目次
横須賀に造船所(旧製鉄所)が建設されたのはペリー来航を受けて
1853(嘉永6)年、ペリーの浦賀来航を受けて幕府は大船建造の禁を解き、軍艦の建造にとりかかります。造船所の建設を推進していた小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ)は、1860(万延元)年に、日米修好通商条約批准のための使節団の観察として渡米。このとき、欧米との技術力の差にがく然とします。
小栗上野介は当初、造船所建設をアメリカに協力要請しましたが、当時のアメリカは南北戦争のただ中でこれを断念。
そこで、カイコの伝染病に悩まされ製糸産業が壊滅の危機にあり、伝染病に強い日本の「カイコ」や生糸をほしがっていたフランスに打診することに。かくして1864(元治元)年11月、2代目のフランス公使レオン・ロッシュに技術者推薦を申し入れ、翌65年1月にフランスの援助を得た製鉄所建設が決定。技術者としてフランソワ・レオンス・ヴェルニーが招かれ、彼の指揮により横須賀製鉄所の建設が開始されます。起工式は1865(慶応元)年11月15日に行われました。
「工場の町」へと変化する横須賀
なお、ここでいう「製鉄所」は「造船所」にほかなりません。フランスでは船舶(軍艦含む)だけでなくエンジンや大砲もつくる工場を「アルスナル」といい、これを幕府が「鉄を加工する場所」の意味で「製鉄所」と訳したのです。
事実、製鉄所には、船舶を築造するドック、鍛造・圧延を行う加工機械のスチームハンマーや大型旋盤などの加工設備、兵器廠などが建設され、小さな漁村だった横須賀は「工場の町」へ姿を変えました。
ところで、横須賀製鉄所は、1871(明治4)年に完成するとともに横須賀造船所へ改称されています。
横須賀が造船所の建造地に選ばれた理由
ではなぜ、横須賀湾が造船所の建造地に選ばれたのでしょうか。まず、山が海に迫る場所の多い三浦半島にあって横須賀には平地が多かったこと、湾の水深が十分にあったことが理由に挙がります。また、フランス第一の軍港だったトゥーロンと地形が似ていることも選ばれた要因だと考えられています。
横須賀と造船所の明治から昭和
1884(明治17)年には東海鎮守府が横浜から移転し、横須賀鎮守府となりました。当時の資料によると、横須賀造船所にはドック3基、造船台2基、修船台1基があり、鋳造・製鋼・錬鉄工場が並び、横須賀町の人口約9000人のうち3000人が造船所で働いていたといいます。1903(明治36)年には横須賀海軍工廠へ改称され、第二次世界大戦に至るまで多くの軍艦を建造しました。
終戦後、横須賀の港湾施設は米軍に接収され、修理工場として使用されました。しかし港湾の一部は早期返還され、貿易港として発展。1953(昭和28)年からは横須賀市が港湾管理者となりました。
現在、ドックなどの施設は、海上自衛隊横須賀基地および米軍横須賀基地として機能しており、米海軍第七艦隊の司令部が置かれ、米空母「ロナルド・レーガン」の母港にもなっています。
周辺には、ヴェルニーの指示で建てられたレンガづくりの倉庫や、ベトナム戦争時に横田基地へジェット燃料を輸送していた鉄道遺構なども多く残されています。
現存する横須賀造船所ドライドック
沿岸部の入り組んだ地形により、波の影響の少ない横須賀港付近。周辺の水深が深いことも港湾化の要因となりました。
横須賀造船所時代に築かれた1~6号ドックが現存します。付近には現在、海上自衛隊の艦船や潜水艦が停泊する基地施設があるほか、米海軍第七艦隊の司令部など米軍施設が所在します。
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