吉胡貝塚から出土した人骨は、その埋葬方法が大いに注目されました。それまでに発見されていた縄文人の埋葬方法は、手足を折り曲げる「屈葬（くっそう）」がほとんどだったので、縄文時代は屈葬が一般的であると考えられていました。ところが、吉胡遺跡から出土した人骨は、体を伸ばした「伸展葬（しんてんそう）」が多かったのです。

そのため、縄文後期末にかけて、人々の埋葬や死に対する考え方が変容し、風俗や習慣にも変化を及ぼしたと解釈されるようになりました。つまり、吉胡遺跡の存在が、縄文時代についての学術的な“常識”を覆したのです。

また、大半の遺骨が抜歯されていたことも吉胡人の特徴です。性別を問わず、おもに前歯と犬歯が数本抜かれており、この集落に生活した人々の生前の習俗と考えられています。抜歯の苦痛に耐えることが共同体の構成員となるための通過儀礼であり、共同体の規模が拡大して複雑化する過程において、さまざまな社会的規範が生まれたものと推測されています。

なかには「叉状研歯（さじょうけんし）」という、上の前歯に溝をつける特殊な事例も見受けられます。

なお、吉胡遺跡にはイヌが埋葬されていた点も興味深いことです。貝塚には動物の遺骨が遺棄されていましたが、イヌはヒトと同じように丁重に埋葬されていました。つまり、イヌは食用ではなく狩猟用に飼育され、すでにヒトと共生していたことがうかがえます。

“ヒトとイヌの関係”の近さを如実に物語るのが、1951（昭和26）年に出土した女性（19号熟年女性人骨）の埋葬例です。この女性には赤色顔料が施され、貝輪で装飾し、きわめて呪術的な意味合いの高い埋葬のされ方をしており、その四隅にはイヌが埋葬されていました。

ヒトとイヌの精神的な結びつきは、飼育者と家畜の関係を超越し、現在のヒトとイヌの関係性に近いものが構築されていたと推測されています。

このように吉胡貝塚は、当時の生活の痕跡が見てとれる以上に、その時代の人々が何を考え、どのような精神活動を営んでいたかがうかがえる遺跡なのです。

その学術的な価値は非常に高く、1951（昭和26）年には国の史跡に指定されています。

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愛知県全域