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江東デルタ一帯は大規模な水害対策と開発が行われてきた
東京の東部低地帯は、その昔、利根川や荒川などの河口部の湿地および浮洲(うきす)でした。しかし、徳川家康の関東移封以後、大規模な治水対策と低湿地の開発が行われ、次第に海側に拡張されてきました。
治水対策として利根川や荒川のつけ替えも行われ、東京湾に流れ込んでいた利根川は、文禄3(1594)年から瀬替工事が行われ、承応3(1654)年には千葉県銚子市から太平洋に注ぐようになりました。
江東デルタと荒川の治水事業
一方、利根川の支流だった荒川は、寛永6(1629)年に利根川から切り離され、隅田川に接続されました。
また、大正2(1913)年からは、17年かけて約22kmの人工河川「荒川放水路」の開削が行われました。現在は、この荒川放水路が荒川の本流とされ、岩淵水門から分岐する旧荒川が「隅田川」と定められています。
荒川周辺地域の地盤沈下
治水対策が進められる一方、この地域では産業用水の汲み上げや水溶性天然ガスの採取が盛んに行われるようになったのです。その結果、地盤沈下が発生し始め、昭和40年代まで年々進行し、その区域も拡大していきます。
また、戦後復興で地盤沈下を考慮しない市街化と過密化も進行し、海抜ゼロメートル以下のエリアに広域な市街地が形成されたのです。
危機感を持った東京都は、地下水の揚水規制や天然ガス採取の停止などを実施。すると 昭和48(1973)年頃から地盤沈下は急速に減少し、現在ではほぼ停止しています。しかし、もっとも沈下した江東区南砂2丁目では、累計沈下量は約4.5mにも達しています。
低地帯の地盤高平面図
東京の東部低地帯の地盤高を海水面との比較で示した図。西側の山の手台地にくらべ、荒川・隅田川流域の東側には地盤高の低い地域が広がっているのがわかります。
「A.P.」とは、「Arakawa Pe(il 荒川工事基準面)」の略で、荒川水系に使用されている水位の表示方法。A.P.±0mは、東京湾の干潮時の海水面の高さとほぼ同じで、満潮時には約2m高くなります。つまり、A.P.+2m以下の地域の居住者は、河岸堤防・海岸堤防がなければ、毎日海水に浸かる場所で生活をしていることになります。そのため、河川の氾濫だけでなく、津波や高潮などによっても甚大な被害が発生する可能性は高いのです。
低地の地盤高
上記の平面図に示された赤線部で切ったときの断面図。A.P.±0mは東京湾の干潮時の海水面の高さとほぼ同じです。江東デルタは河川の平常時の水位より低い地帯が多く、平時から河岸堤防に守られています。
江東デルタをはじめ、東京の水害対策は大きな課題
近年は地球温暖化の影響もあって大規模水害が各地で発生しており、東京においても水害対策が喫緊の課題となっています。
海抜ゼロメートル地帯である江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)で大規模 水害が発生すれば、床上浸水となる想定区域内の居住人口は250万人におよび、浸水が2週間以上続く地域があることも予測されています。
2018年、江東5区はその対策として、区外への避難を促す「広域避難計画」を策定しました。しかし、対象人口が多いこともあり、その実効性は疑問視されています。
昭和22年カスリーン台風
東部低地帯の河川決壊による被害の深刻さを世間に知らしめたのが、昭和22(1947)年9月のカスリーン台風です。この台風によって利根川が埼玉県東村(現・加須市)など数か所で破堤し、その濁流は葛飾区、江戸川区にまで達し、荒川や中小河川を次々と破堤させながら南下。浸水面積は約440km2に及び、死者1077名、行方不明者853名という甚大な被害となりました。
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