房州石とは
房総半島中南部の地層は、数百万年前に海底に堆積した火山噴出物に由来し、それらを主体とした凝灰岩(ぎょうかいがん)(角礫岩(かくれきがん))が採れます。産出地に応じてさまざまな呼び名がありますが、その総称を房州石といいます。
房州石には軽石(白っぽい色)やスコリア(黒色)などの火山噴出物が含まれ、これらが刷毛でさっと掃いたような細かい筋模様をなしているのが特徴です。岩石の色合いはさまざまですが、淡いピンクがかったものは「桜目(さくらめ)」と称され、房州石のなかでは最上級品とされてきました。
房州石の代表産地となった鋸山
鋸山で採石が始まったのは江戸時代後期の安政年間。堅くて加工しやすく、耐火性に優れていることから建築用石材として利用されました。とくに山頂付近の上総層群竹岡層(たけおかそう)と呼ばれる地層から得られるものは質が高く、やがて房州石といえば鋸山が真っ先に思い浮かぶほどの代表的産地となりました。
ここで切り出された石材は車力道と樋道の2ルートで搬出されました。車力道は、木製の台車で切り出した石材を運ぶための道。現在、その一部はハイキングコースとして活用されています。もうひとつの樋道では、斜面を滑らせるように石材を運びました。
房州石ブームとなった鋸山
明治時代になると鋸山の石材産業はひときわ盛んになりました。東京や横浜、横須賀方面 での房州石の需要が高まり、とりわけ横浜港開発の際には、護岸用石材として次から次へと切り出されました。
ほかにも靖国神社塀下、早稲田大学の石塀、横須賀軍港、港の見える丘公園の石垣など、東京湾岸地域を中心に建築資材として広く用いられ、それは今も見ることができます。
房州石と鋸山のその後と現在
しかし房州石ブームは、そう長くは続きませんでした。やがて大谷石(栃木県)が台頭し、大正期に入るとコンクリートが急速に普及したため、房州石の人気は下降線をたどり、1985 (昭和60)年を最後に採石は行われなくなりました。当時の石切り場跡はそのまま残り、採石によってつくり出されたダイナミックな景観は、今や貴重な観光資源として、鋸山に欠かせない存在となっています。「地獄のぞき」や「百尺観音」はその代表です。
また、鋸山は全体が日本寺の境内となっています。日本寺は725(神亀2)年6月8日に行基が開山した関東最古の山寺で、日本一大きな大仏もあります。
なお、房州石は、日本地質学会によって「千葉石」「木下貝層の貝化石群」とともに千葉県の「県の石」に選定されています。
鋸山周辺
鋸山(標高329.5m)は、安房郡鋸南町と富津市との境に位置します。垂直に切り立つ房州石の石切場跡はもちろん、南斜面には日本寺があり、岩肌(房州石)を直接削った百尺観音や大仏の姿も壮観です。
また、北西の山麓駅と山頂駅を鋸山ロープウェーが結んでいます。鋸山の正式名称は乾坤山(けんこんざん)といいます。
百尺観音
1960(昭和35)年から6年かけて石切場跡に彫られた高さ約30mの百尺観音。航海、航空、陸上交通の安全を守る本尊として崇められています。
鋸山・日本寺
- 住所
- 千葉県安房郡鋸南町元名184
- 交通
- JR内房線浜金谷駅から徒歩8分の鋸山ロープウェーで4分、山頂駅下車、徒歩5分
- 料金
- 拝観料=大人700円、小人400円/(30名以上で団体割引あり、障がい者と同伴者1名半額)
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