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「チバニアン」という名前がつく可能性がある地質の千葉セクションを国際標準模式地として申請
地質時代はどこで区切られるのでしょう。その基準となるのが、生物の絶滅や気候の変動、地球の磁気の特徴などです。そして、国際地質科学連合(IUGS)は、それぞれの時代の境界を観察・研究するために、もっともすぐれた地層を地球上で1カ所だけ選び、「国際標準模式地(GSSP)」として認定しています。
ところが、なかにはまだ国際標準模式地が決まっていない時代もあり、更新世の前期と中期の境界もそのひとつ。国立極地研究所や茨城大学などの研究チームが、IUGSへ国際標準模式地として申請したのが、この境界(約77万年前)の地層が見られる千葉県市原市の養老川沿いの露頭、通称・千葉セクションです。
「チバニアン」という名前がつく可能性:地質時代を区切る国際標準模式地認定の条件
国際標準模式地として認定されるには、いくつかの推奨条件があり、とくに重要なものとして次の3つが挙げられます。
(1)海底下で連続的に堆積した地層であること。
(2)地層中に、これまでで最後の地磁気逆転が記録されていること。
(3)地層が堆積した当時の環境変動がくわしくわかること。
ここで、2番目に出てくる地磁気の逆転を説明しておきましょう。地球はいわば大きな磁石であり、現在、方位磁石を見るとN極が北を指し、S極が南を指します。いっぽう、地球では歴史上、N極とS極が入れ替わる「逆転」が、過去360万年間に少なくとも11回起きています。約259万年前から約77万年までの地磁気の逆転期を「松山期」と呼び、チバニアンが始まる約77万年前に最後の地磁気逆転は終了しています。
地磁気の逆転を知るには
地磁気の逆転はどうやってわかるのでしょうか。じつは、地磁気逆転の過渡期には地球の磁力線が弱まり、宇宙からの放射線などの影響を受けやすくなると見られています。その痕跡は、海底の堆積物に含まれる磁鉄鉱粒子などに刻まれ、その分析から堆積した時代の地磁気の向きがわかります。
チバニアン申請のきっかけ
チバニアン申請のきっかけとなったのは、国立極地研究所や茨城大学などの研究チームが養老川沿いの露頭の堆積物を分析し、それまで約78万年前と考えられていた最後の地磁気逆転がじつは1万年新しく、約77万年前とする研究成果を得たことによります。露頭があるのは、千葉県市原市田淵。最寄り駅は小湊鐵道小湊線の月崎駅で、駅から徒歩30分ほどの場所です。
露頭上方には1本の灰色のラインがあり、それは約77万年前に噴火した古御嶽山(長野県)の火山灰(白尾火山灰)が堆積した層。この火山灰層から見つかった鉱物(ジルコン)を高精度に分析した結果、地磁気逆転は、誤差を含めても定説より1万年新しいことが判明したのです。
つまり、この火山灰層こそが更新世の前・中期を分ける目印。このラインより下の古い時代の地層は、地磁気の向きが現在とは逆で、ライン上は地磁気が不安定な時代、ライン上方は現在と地磁気は同じ向きの地層というわけです。これらはかつて海底に堆積した地層で、房総半島が隆起したことで地上に現れ、養老川の侵食作用によって崖になり、見られるようになったのです。
地磁気逆転地層(チバニアン)付近
「養老川流域田淵の地磁気逆転地層」(チバニアン)へは、月崎駅から徒歩で約30分(約2㎞)。車の場合、田淵会館の約150m先に仮設駐車場があります(普通車47台分・仮設トイレ2 基設置=2019年7月8日、市原市発表)。
見学の際は、降雨時の増水などに要注意。また、アクセス路は民有地のため、見学者は配慮が必要です。
チバニアンの時代
チバニアンは、地球環境が激変した時代だったことがわかっています。地層に含まれる花粉や石灰質ナンノプランクトン、有孔虫といった海洋微生物の化石の分析から、約80万年前から約75万年前の数万年のあいだに、寒冷期→温暖な時期→寒冷期、と激しく気候が変わっていたことが判明。また、もっとも暖かかった時期の長さが約1万年で、現在と似ている状況であることも明らかになっています。
チバニアンに正式決定の行方は?
以上より、田淵の露頭には国際標準模式地として認定されるための条件がそろっていることがわかります。もし申請が認められれば、第四期中期更新世の地質時代がチバニアン(千葉時代)と呼ばれることになります。
国際標準模式地に認定されている地層はヨーロッパ、とくにイタリアに多く、アジアでは 中国にありますが極めてめずらしいです。チバニアンが正式決定すれば、地質時代に初めて日本由来の名称がつくことになります。
もちろん、ライバル候補地もあり、イタリアは「イオニアン」の採用を目指して南部のモンタルバーノ・イオニコ、同じく南部のヴァレ・デ・マンケの地層を申請しています。しかし、田淵の地層が明確に地磁気逆転を確認できるのに対し、イタリアの地層はデータが不十分で、その点でもチバニアンが有利と考えられます。
2019(令和元)年10月までに、研究チームはチバニアンの3次審査申請書を提出。
2020年1月に開催された国際地質科学連合において、市原市田淵の養老川沿いに露出する約77万年前の地磁気逆転地層を、前期更新世と中期更新世の境界の「国際境界模式層断面とポイント(GSSP)」とすることが正式に認められました。これにより、第四期中期更新世の地質時代がチバニアンと呼ばれることになりました!
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