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息子が父を追い落とした国オマーン

首都マスカットのある北東の沿岸部が、古代から海上交易で栄えていました。ペルシャ人やアラブ人が住んでいたこの地にイスラムが伝来したのは7世紀。8世紀半ばからは選挙で指導者を選ぶイバード派が、内陸部を拠点に広く信仰される時代が続きました。

オマーンの中世から近代

16世紀にはポルトガル、18世紀半ばにはペルシャに攻められましたが、その都度奮起した部族が撃退しました。ペルシャを撃退したソハール総督は、ブーサイード朝を建てます。

ブーサイード朝は都を内陸部から沿岸部のマスカットに移し、内陸部で力を持っていた宗教指導者と距離を置きました。そして海に乗り出し、19世紀前半にはアフリカのザンジバルを支配する海洋帝国を築きました。しかし19世紀後半には、イギリス進出と奴隷貿易禁止と蒸気船登場により経済が低迷。途方に暮れた王は、イギリスを頼るしかなく事実上の保護下に入ったのです。

オマーンのスルタンの圧制

オマーンのスルタンと呼ばれる支配者は、圧政を敷きました。特に1930年代からのスルタン・タイムールは酷いものでした。知識が付くと国民が従わなくなると考え、なんと教育を与えなかったのです。

圧政に対して、南部のドファール地方では共産主義者の反乱が起こりました。これに危機感を抱いたイギリスは、宮殿に閉じ込められていたカブース王子のクーデターを支援します。1970年にカブースは権力を握り近代化を開始、また反乱を平定しました。2020年のカブースの死後は、いとこのハイサムがスルタンとなり、オマーンの国を率いています。

オマーンを知るキーワード

オマーンのキーワード:港町ソハール

貿易港ソハールの歴史は長い。ロック鳥にしがみつく冒険で有名な『千夜一夜物語』の船乗り、シンドバッドが旅立った港とされます。

オマーンのキーワード:ファラジ灌漑

地下水などを地形に沿った緩やかな傾斜の水路で流す仕組み。オマーン北東部を中心に三千以上造られました。紀元前からあり、今もナツメヤシやバナナや麦を栽培しています。

オマーンのキーワード:石油パイプライン

オマーンは、多少は石油が出ます。1980年代には天然ガス探査が成功し、パイプラインを造りました。両方とも小規模で、資源に頼り切りの経済になりませんでした。

オマーンのキーワード:伝説の街ウバール

神に破壊された伝説の街を、アメリカの人工衛星が数千年の時を経た20世紀末に大発見。場所は、空っぽの地ことルブ・アルハリ砂漠。

オマーンのキーワード:ニズワ砦

建造は17世紀。内陸の街ニズワは首都だったことや、イスラム勢力の拠点として沿岸部の街マスカットと覇権を争った過去があります。

オマーンのキーワード:サラーラ港

外洋に近い世界的な貿易港。昔から乳香の産地として有名でした。ここを含むオマーン南部のドファール地方は、文化的にお隣のイエメンと近い。

オマーンのキーワード:この飛び地は何?

ホルムズ海峡に面したムサンダム半島先端と、UAE(アラブ首長国連邦)に囲まれ内部にさらにUAE領があるマダ地域はオマーン領。地元の部族が、どの首長に忠誠を誓ったかで土地の所属が決まったので、飛び地が入り組む結果となりました。

オマーンのキーワード:乳香と香炉

オマーンは、樹脂を固めた天然香料で聖書の三賢も所持した乳香の産地。食事時などに香炉で炊きます。首都マスカットの市場マトラスークで入手可能。

オマーンのキーワード:ベドウィン

アラビア半島の砂漠で暮らす民。かつて多くの成人女性が、バトゥーラというマスクを付けていました。砂埃や男どもの視線から身を守るためです。

オマーンのキーワード:アラビアオリックス

絶滅しましたが、他国からもらった個体を保護区に放っています。同区は世界遺産に登録されましたが、後に環境悪化で登録抹消第1号という不名誉を獲得してしまいました。

オマーンのキーワード:誇り高き半月刀

厳格にデザインが規定される白服ディシダーシャを着て、小型の半月刀ハンジャルを帯刀しています。それこそがオマーン男性の正装なのです。

オマーンのキーワード:みんな大好きハルワ

デンプン、卵、砂糖、カルダモン、ローズウォーターなどを2時間かけて煮込むスイーツ。煮込み中は大鍋をひたすらかき回し続けます。

オマーンの著名人

オマーンの著名人:国王(スルタン) カブース・ビン・サイード

オマーンのサラーラ生まれ。英国士官学校に留学し、帰国後に父によって6年間軟禁されました。1970 年にクーデターを起こし、父から権力を奪いました。(1940〜2020)

オマーンの著名人:女優 サラ・ジェーン・ディアス

オマーンのマスカット生まれ。幼少期をオマーンで過ごした後、インドに渡りました。2007年にミス・インドを獲得しモデルや映画女優として活躍中。(1982〜)

『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!

ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
本書は、これら中東・中央アジアの国々について、他の関連図書よりもわかりやすく解説する入門書となることを目指します。

その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載

好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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