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「幸福のアラビア」も今は昔のイエメン

かつてローマ人は、アラビア半島の北部を「不毛なアラビア」、南部を「幸福のアラビア」と呼びました。イエメンの高地は降雨量が多く、穀物や果物の栽培が盛ん。灼熱の砂漠地帯とは別世界です。ローマ人にはイエメンが楽園のように見えました。

古代にはサバ王国、ヒムヤル王国などが栄え、その後はサーサーン朝ペルシャの支配下に入りました。7世紀にイスラム教が到来し、9世紀にはジヤード朝、11世紀にはスライフ朝が興ります。

イエメンで育まれたコーヒー文化

中世のイエメンで育まれたのが、コーヒー文化です。もともとはスーフィー(イスラム神秘主義)が儀式の最中、集中力を高めるために飲んだといいます。やがて嗜好品としてイスラム圏に広まり、オスマン帝国を経由してヨーロッパに伝わりました。イエメンはコーヒーの故郷なのです。

イエメンの近代から現代

豊かな歴史を誇るイエメンですが、近代以降は苦難の道を歩みました。19世紀にはイエメンの南部をイギリス、北部をオスマン帝国が占領。国土が2つに分断されました。1918年に北部が独立を果たしますが、南部はイギリス領のまま残り、1967年に南イエメンとして独立します。イエメンの分断が解消され、統一国家になったのは1990年のことです。

しかし統一したからといってイエメンの政情は、安定しませんでした。2015年にはシーア派の武装組織フーシが首都サヌアを占領。再びイエメンの国が分断状態になっています。フーシ側はイラン、政府側はサウジアラビアなどの支援を受けており、外国勢力の介入が問題をより複雑にしています。長引く戦乱による感染症の蔓延、水不足、食糧不足など、イエメンには難題が山積しているのです。かつて「幸福のアラビア」と呼ばれたイエメンが、再び過日の輝きを取り戻すことを市民たちは願ってやみません。

イエメンを知るキーワード

イエメンのキーワード:首都サヌア

方舟で有名なノアの息子、セムが建てたとされる古い町サヌア。サヌアはイエメンの首都でありながら武装勢力フーシに占拠され、暫定政府は南部アデンに退避中。

イエメンのキーワード:終わらない内戦

2015年以来、シーア派の武装組織フーシと暫定政府との間で内戦が続いています。これまでに戦闘や飢え、感染症などで約37万人が死亡しました。

イエメンのキーワード:シバの女王

旧約聖書に登場する、ソロモン王に贈り物をしたシバの女王。古代イエメンで栄えたサバ王国こそが彼女の国なのでは、との説があります。

イエメンのキーワード:モカコーヒー

コーヒーは原産地のエチオピアからイエメンに持ち込まれ、ここから世界に広まりました。ブランド名「モカ」は積み出し港の名から。

イエメンのキーワード:砂漠のマンハッタン

高層ビルと見紛うような泥レンガの建物が並ぶ、城塞都市シバーム。16世紀の建造で、密集しているのは遊牧民の襲撃から命を守るため。

イエメンのキーワード:ソコトラ島

インド洋のガラパゴスと呼ばれる固有種の宝庫。島のシンボル「竜血樹」は、幹を傷つけると赤い樹脂が採れることから名がつきました。

イエメンのキーワード:ニカブ

児童婚が残るイエメンは、最も女性差別のひどい国と国際機関に名指しされました。女性らは顔を隠す布「ニカブ」の奥からこちらを見つめます。

イエメンのキーワード:ジャンビーヤ

男性が腰に差す短剣。デザインや装飾は家柄や地位を表しています。アラブ一帯の伝統でイエメンの他は、オマーンで似た短剣を帯びています。

イエメンのキーワード:乳香と没薬

樹脂を用いた香料である乳香と没薬(もつやく)は、イエメンの伝統的な輸出品。没薬はミイラを作る時の防腐剤にも使われたといいます。

イエメンのキーワード:カートのとりこ

覚醒作用のある葉「カート」を噛み、イエメンの男たちはおしゃべりに精を出します。カート栽培のしすぎで水不足が深刻化、でも誰も止められません。

イエメンのキーワード:みんな大好きサルタ

イエメンの国民食。肉の出汁、野菜、香辛料などを石鍋で煮立てた料理で、フェヌグリークという甘い香りのハーブが味の決め手。

イエメンの著名人

イエメンの著名人:人権活動家 タワックル・カルマン

「アラブの春」の民主化運動を主導し、32歳の若さでノーベル平和賞を受賞しました。カラフルなヒジャブ(スカーフ)は、女性解放のシンボルです。(1979〜)

『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!

ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
本書は、これら中東・中央アジアの国々について、他の関連図書よりもわかりやすく解説する入門書となることを目指します。

その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載

好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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