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辛い過去があるから結束しているアルメニア

アルメニアの民草もユダヤ人と同様に、外圧のため故郷を追われ離散する「ディアスポラ」を経験しています。

古代アルメニアは、紀元前2世紀頃に成立しました。カスピ海と黒海に接し、西は現在のトルコの一部を含むほど巨大でした。301年に世界で初めてキリスト教を国教化します。イエスのみに神性を求める単性説のため、451年に三位一体をとなえる主流派から分かれました。独自宗派を「アルメニア使徒教会」といいます。強い信仰心は人々の誇りで、民族意識をつなぎとめることに一役も二役も買っています。

14世紀に一度途絶えたアルメニア人王朝

アルメニアの民族離散は、長い時を経て進みました。古代から中世にかけては強力なローマやペルシャが侵入し、7世紀にはアラブ、以降はトルコ系民族が流れ込みます。この間アルメニア人王朝は領土を減らしましたが、断続的に継続していました。しかし14世紀以降はモンゴル系とイラン系の王朝、オスマン帝国に蹂躙され途絶えてしまいます。

受難と時代と国境を越え、結束するアルメニア

19世紀にはロシア帝国が南下し、歴史的にアルメニアとされる地域の西部はオスマン領、東部はロシア領となります。第一次大戦の際にはオスマン帝国が国内のアルメニア人に、敵国ロシアへの内通の疑いをかけて虐殺しました。犠牲者は150万人ともいわれます。この受難で特に多くの人々が欧米へ離散していったのです。

現代アルメニアは、ロシア領だった東部地域が1991年にソ連から独立してできた国家です。アルメニアの東西の隣国であるアゼルバイジャンとトルコと不安定な関係を抱えています。しかし世界に散った同族である小説家サローヤン、テニスのアンドレ・アガシ、ワクチン製造で知られるモデルナ社創設者の一人ヌーバール・アフェヤーンらが各界を牽引しています。民族の結束は、時代と国境を越えなお固いのです。

アルメニアを知るキーワード

アルメニアのキーワード:セヴァン湖

海抜1900mの高地にあり、「アルメニアの真珠」とうたわれる淡水湖。悪名高いソ連時代の灌漑事業で水位が下がりましたが、どうにか回復しました。

アルメニアのキーワード:ハチュカル

アルメニアで中世に盛んに造られた石板。聖なる力を持っています。十字架と植物などがモチーフで、ひとつとして同じ意匠はないといいます。

アルメニアのキーワード:エチミアジン大聖堂

古都エチミアジンは、アルメニア使徒教会の中心地。4世紀以来の歴史を持つ大聖堂には、キリストの処刑に使われたとされる槍も伝わっています。

アルメニアのキーワード:アララト山

聖書の「ノアの方舟」がたどり着いた場所ともいわれる山。アルメニア人の心のより所で、首都エレバンからもよく見えますが、現在はトルコ領です。

アルメニアのキーワード:虐殺記念館の火

オスマン時代に起きたアルメニア人虐殺の記憶を忘れない。首都エレバンの虐殺記念館には「永遠の火」が灯され、花を手向ける人が絶えません。

アルメニアのキーワード:古く危ない原発

アルメニアには石油・ガス資源がなく、電力はソ連時代に建設されたメツァモール原発に頼りきり。老朽化が進み安全性が疑われています。アルメニア政府は延命に必死。

アルメニアのキーワード:チェス教育

アルメニアは、タイトル保持者を多数輩出するチェスの強豪国。2011年には世界で初めて、小学校の時間割に「チェス」が登場するほどの入れ込みよう。

アルメニアのキーワード:ドゥドゥク

哀愁のただよう音色が印象的な、古くから伝わる木管楽器。アルメニアを代表する果樹でもあるアプリコットの木から作られます。

アルメニアのキーワード:みんな大好きホロヴァッツ

アルメニア式BBQ。ハーブやスパイスで味付けした肉と野菜を炭火で焼く、豪快な男の料理。キリスト教徒なので豚肉もオーケー。

アルメニアのキーワード:ダンスマニア

アルメリア人は踊り好きな国民性で、多彩なスタイルのフォークダンスがあります。結婚式の披露宴では、出席者がダンスと歌で新郎新婦を盛大に祝います。

アルメニアのキーワード:英首相の愛したブランデー

第二次世界大戦の戦後処理を決めるヤルタ会談で供され、チャーチルが愛飲するように。コニャックの名での販売は、本場フランスが許可せず。

アルメリアの著名人

アルメリアの著名人:サッカー選手 ヘンリク・ムヒタリアン

エレバン出身。マンチェスター・ユナイテッドなどのトップチームで活躍。アルメニア史上最高選手との呼び声高い選手です。8か国語に堪能。(1989〜)

『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!

ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
本書は、これら中東・中央アジアの国々について、他の関連図書よりもわかりやすく解説する入門書となることを目指します。

その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載

好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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