大国に翻弄される定めにあるクウェート
クウェートは遮る物がない平坦な砂の国です。1990年、乾いた砂漠を越えイラク軍が襲来、併合されます。その翌年アメリカ主導の湾岸戦争で独立を回復。しかし海への原油流出や油田破壊の後遺症に悩まされました。
クウェートの歴史
クウェートが最初に歴史に登場したのは、紀元前二千年頃。クウェートのファイラカ島が、海洋貿易で知られたディルムン文明の中心地の一つとして栄えました。後にギリシャ人も植民しています。
次に世界史で登場するのは16世紀で、ポルトガルが砦を建設しました。18世紀にはアラビア半島内陸部にいた部族が進出。彼らの街が発展すると、いくつかの部族のうちサバーハ家が首長に選ばれ、オスマン帝国とのパイプ役を担いました。同家は現在もクウェート首長です。
クウェートは、イラク南部の大都市バスラを中心とするオスマン帝国の州の一部とされました。19世紀後半に同地域でイギリスの影響力が拡大すると、後に建国の父となるムバラク1世の下、オスマン支配から離脱し、1899年にイギリス保護下に入る道を選びます。イギリスは外交権と引き換えにサバーハ家の統治を守ったのです。
クウェートの独立と湾岸戦争
クウェートは1938年にブルガン油田発見、中東屈指の豊かな地域となります。その約20年後の1961年にクウェートは独立。なおイラクはこの頃すでに、元は自国のバスラ州の一部だからとしてクウェートの領有を主張しています。
1980年から8年続いたイラン・イラク戦争では、イランの台頭を恐れ、クウェートを含む湾岸諸国と欧米がイラクを支援しました。そしてクウェートのイラクへの融資を巡り両国間に対立が生じ、これが湾岸危機の背景となりました。湾岸戦争後は、クウェートはアメリカに基地を提供し、また同時に中国との関係を深めるなど、小国として、大国の間で絶妙なバランスを取ろうとしています。
クウェートを知るキーワード
クウェートのキーワード:湾岸戦争(1991)
クウェートは、イラク軍侵攻(1990)と湾岸戦争で戦場となりました。イラク軍は劣勢に陥ると油田という油田に付け火をして撤退し、環境を汚染しました。
クウェートのキーワード:ブルガン油田
クウェート南部に湧き出た世界屈指の大規模油田。井戸を掘ると水の代わりに油が出るというクウェートは、「油に浮いた国」と世界がうらやむ国なのです。
クウェートのキーワード:クウェート・タワー
河川や湖がないクウェートでは、海水を淡水化して貯水塔から供給しています。国のシンボルでもあるクウェート・タワーもその1つ。
クウェートのキーワード:サバーハ・アル・アフマド・ シーシティ
クウェート南部の砂漠に現れた、最大25万人が住める街。独特な形の運河は、水への強い思いを物語っています。アラブ人はこの手の人工都市が大好き。
クウェートのキーワード:自国民が少数派
豊かなクウェート市民は、肉体労働が嫌いです。外国人労働者を大勢受け入れていたら、なんと自国なのにクウェート人が少数派になっていました。
クウェートのキーワード:世界遺産ゼロ
各国で認定が続くためむしろ0件は希少。とはいえ暫定リスト登録地(ファイラカ島等)があるので、いずれ1号が誕生するのでしょう。
クウェートのキーワード:ファイラカ島
紀元前から栄えた歴史あるクウェートの島。ヘレニズム時代のギリシャ遺跡が残ります。イラク侵攻時には、住民が島を追放される憂き目にあいました。
クウェートのキーワード:魂の歌サウト(sawt)
弦楽器のウド、鼓のミルワス、2人のおじさま踊り手とともに披露します。歌詞は、人生の喜びや苦難を表現したアラブの詩。YouTubeで聞いてみて。
クウェートのキーワード:ロボット騎手
クウェートでは、ラクダレースが人気。昔は、体重が軽い子どもが騎手を務めました。それが人権侵害と批判された結果、遠隔操作のロボ騎手が爆誕しました。
クウェートのキーワード:カニチドリ
和名の由来は蟹が大好物だから。クウェートのブービヤーン島の湿地は、世界最大のカニチドリの繁殖地なのですが、中国の投資で港が建設中とのこと。
クウェートのキーワード:みんな大好き ムラビヤン
アラブ風エビチャーハン。クウェート人は、ペルシャ湾直送の海の幸が好き。炊き込みご飯「マクブース」に、肉でなく魚を乗せたりします。
クウェートのキーワード:伝統織物サドゥ
ベドウィンの女性に受け継がれるラクダの毛織物。カラフルでシンメトリックな文様が特徴です。最近はバッグにして売るようになりました。
クウェートの著名人
クウェートの著名人:戦時下の首長 ジャービル3世
1977年にクウェートの首長となりました。イラン・イラク戦争、湾岸戦争、イラク戦争と、次々に襲う国家の危機を辛くも乗り切りました。(1926〜2006)
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ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
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その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載
好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。
掲載している国・地域
イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア
【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)
福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。
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