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軍の力が強いエジプトの政治

紀元前三千年頃から古代王朝が三千年栄えていたエジプト。以降ギリシャをはじめ外からの勢力が、変化をもたらします。7世紀のイスラム伝来、16世紀からのオスマン支配、18世紀のナポレオンと西洋の襲来です。

19世紀に入るとオスマン帝国の軍人だったムハンマド・アリーが、半ば独立した王朝を樹立します。近代化を進め、メッカやメディナのあるアラビア半島の中央部やスーダン北部へと支配を広げました。同王朝はフランスと協力してスエズ運河を建設しますが、財政的な困難から結局は運河の管理権をイギリスに売却しました。そしてイギリスの保護下に入るようになったのです。

エジプトのイギリスからの脱却

イギリスの強い影響下から脱したのは、2つの世界大戦と第一次中東戦争で負けた後の1952年反英愛国を掲げる軍人結社「自由将校団」が、革命を成功させたのです。

メンバーの1人ナセルは大統領に就任するとスエズ運河の国有化を宣言、権利を持つ英仏が反発し第二次中東戦争が勃発します。戦いは英仏が勝ちましたが、米ソの圧力を受け運河を放棄します。ナセルは一躍欧州に一矢報いた英雄となり、エジプトは西洋と戦うアラブの盟主に担ぎ上げられました。しかしナセルは十年後の第三次中東戦争で大敗し、汚名返上の間もなく死去します。

軍主導が変わらないエジプト政治

後任のサダト、その次のムバラクも軍人です。ムバラクは対外的にはサダトの穏健路線を引き継ぎ、アラブと関係改善しながら、湾岸戦争で欧米と歩調を合わせました。一方で国内的にはイスラム主義組織「ムスリム同胞団」を排除、やがて権力が集中し反体制弾圧が激しくなると人権抑圧が問題視されます。

ムバラク政権は、2011年の民主化運動「アラブの春」で倒れました。しかし以降誕生した指導者は、結局圧政に戻ってしまっています。エジプトはどうにも、軍が主導する政治から抜け出せていません。

エジプトを知るキーワード

エジプトのキーワード:カイロ大渋滞

カイロの人口の増加と人口集中のため大渋滞が慢性化。公共交通整備やカイロからの首都移転によって、政府は改善を目指していますが、人気観光地は混みそうです。

エジプトのキーワード:アブ・シンベル神殿

紀元前13世紀のファラオ、ラムセス2世が建造を命じました。アスワン・ハイ・ダム建設で水没するはずが、国際社会の後押しで移転しました。

エジプトのキーワード:アスワン・ハイ・ダム

ナイルの規則的氾濫は豊かな土をもたらしますが、大洪水は災害です。紀元前からの見果てぬ夢「ナイル制御」が、1970年完成のこのダムで実現しました。

エジプトのキーワード:ナイル川沿い2毛作

夏は綿花、秋は野菜。毛足が長い綿花は、19世紀のアメリカ南北戦争でエジプト南部からの綿花輸出が止まると需要が急増して潤いました。米や麦も作るエジプトは、中東の大農業国です。

エジプトのキーワード:エジプト・イスラエル 平和条約(1979)

第四次中東戦争の末、互いに疲弊し締結に至りました。エジプトはシナイ半島を取り戻し、イスラエルを承認する最初のアラブ国家となりました。しかしアラブ・イスラム世界では裏切り者とされ、サダト大統領は暗殺されました。

エジプトのキーワード:ヌビア人

南部の非アラブ系民族。開発で住む場所を追われています。エジプトはコプトと呼ばれるキリスト教徒もおり、単一宗派の国ではありません。

エジプトのキーワード:帰属未確定地域

大三角ハラーイブ・トライアングルはエジプトとスーダンが領有を主張し、前者のエジプトが支配しています。小三角ビル・タウィールは、誰も領有を主張していません。

エジプトのキーワード:新アレキサンドリア図書館

2002年にアレキサンドリア市に開業。二千年前の古代図書館と違って、ネットもセキュリティも万全です。今度は焼け落ちないはず。

エジプトのキーワード:シワ・オアシス

エジプト西砂漠のカッターラ低地の街。開発が及んでおらず、昔のエジプトの雰囲気を残しています。ネクロポリス(地下墳墓)や墓地の山で知られる街です。

エジプトのキーワード:エジプトの神々

イスラムが伝来する前にエジプトの地では、多数の神を信仰していました。死後の世界を治めるオシリス、豊穣の女神イシス、混沌と嵐の神セトなどの神々です。

エジプトのキーワード:国民食フール・ミダミス

エジプトの家庭の味で、朝食によく登場するソラマメ煮込み。クミンの他にオリーブ油とレモンを使い味付けします。ビーガンの人が食べられる一品です。

エジプトのキーワード:ベリーダンス

古代エジプト発祥説があるベリーダンス。今は結婚式や男女別の宴席で、外国人ダンサーが舞っています。エジプト人女性が肌を露出してSNSやステージに上がると、炎上しがち。

エジプトの著名人

エジプトの著名人:軍人・政治家 ナセル大統領

秘密結社「自由将校団」を結成、1952年のクーデターでエジプトの実権を掌握。アラブの期待を背負い、一時はシリアと連合しアラブ連合共和国を作りました。(1918〜1970)

『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!

ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
本書は、これら中東・中央アジアの国々について、他の関連図書よりもわかりやすく解説する入門書となることを目指します。

その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載

好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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