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火の恩恵がアゼルバイジャンを潤す

アゼルバイジャンの首都バクーは、ペルシャ語で「風の街」を意味しています。アゼルバイジャンには天然ガスが自噴し燃えている場所があり、古代には火を神聖視するゾロアスター教の大神殿がありました。別名は「火の国」です。7世紀にイスラム教が伝来。11世紀には東方からトルコ系遊牧民が移住しました。彼らは長い時間をかけ先住諸民族と混交し、アゼルバイジャン人(アゼリー人)の祖先となったのです。

アゼルバイジャンの中世

13〜14世紀にはモンゴル帝国、その後ティムール朝の支配を受けます。16世紀には、イランとアゼルバイジャンにまたがるシーア派のサファヴィー朝ペルシャ帝国が成立オスマン帝国の挑戦を退け、アゼルバイジャンのあたり一帯は、以降もイランの王朝が支配しました。また現在のアルメニア一帯は、概ねオスマン帝国に入りました。

ソ連崩壊後に独立したアゼルバイジャン

19世紀にロシアが当時のカージャール朝ペルシャを破って、その北部を奪いました。現在のアゼルバイジャンです。なおアゼリー人地域の南部はペルシャに残り、現在はアゼルバイジャン州などになっています。北部では、その後はロシア統治下で西欧資本によりバクー油田が開発され、20世紀初頭には世界の石油の半分を産出するまでになって潤いました。

そして、ソ連崩壊で独立します。命綱である石油はカスピ海沖合の新油田発見で、21世紀初頭に持ち直しました。しかしその後の石油価格暴落でアゼルバイジャンの経済は失速し、世襲大統領の誕生で政治に対する国民の不満まで膨らみました

そんななかアゼルバイジャン政府は2020年にナゴルノ・カラバフ(アルメニア人が多く事実上隣国アルメニアの保護下にあった)に侵攻、奪われていた領土を取り戻します。この戦争では言語が近く兄弟国ともいえるトルコの、ドローンを使った軍事援助が大きな役割を果たしました。アルメニアとの関係は、依然として悪化したままです。

アゼルバイジャンを知るキーワード

アゼルバイジャンのキーワード:バクーのフレイムタワー

炎の形の複合ビルで首都バクーの象徴。19世紀末から後のノーベル賞の創設者、アルフレッド・ノーベルの会社がバクーで石油開発を行いました。ソ連崩壊後に再びオイルマネーで潤い、イラク出身の有名な建築家ザハ・ハディド設計の建築物ができました。

アゼルバイジャンのキーワード:カスピ海油田

首都バクーの南東方向にあります。2000年代に急成長して、アゼルバイジャンはバブル景気に沸きました。2010年頃から減産していますが、頑張って現役続行中。

アゼルバイジャンのキーワード:原油スパ

アゼルバイジャンの西部ナフタランは、原油のスパを楽しめるリゾート地。炎症を和らげる、発ガン性があるなどいろいろ言われていますが、本当はどうなのでしょう。

アゼルバイジャンのキーワード:ゴブスタンの岩絵

カスピ海に近いゴブスタンには、先史時代に描かれた岩の彫刻が残っています。狩猟や踊り、闘牛などをモチーフにした彫刻の数は6000以上。

アゼルバイジャンのキーワード:世襲大統領

名前はイルハム・アリエフ。2003年に父から大統領の地位を受け継ぎ、以来4選しています。親族で国営企業ポストを独占した上、夫人を副大統領にしました。

アゼルバイジャンのキーワード:アゼリー式ステンドグラス

古代シルクロードの中継地だったシェキは今も栄え、木枠にステンドグラスをはめた工芸品シェベケが作られています。釘や接着剤は不使用。

アゼルバイジャンのキーワード:ナゴルノ・カラバフ

そもそもアルメニア人が多い地域。ソ連のスターリンがここをアゼルバイジャンに組み込みことをややこしくしました。帰属を争った1991〜1994年の戦いは、隣国アルメニアが勝利し事実上独立。その後2020年にアゼルバイジャンが侵攻して、一部地域を奪い返しました。今も両国の火種です。

アゼルバイジャンのキーワード:ナヒチェヴァンのモミネハトゥン

アゼルバイジャンのナヒチェヴァンは岡山県ほどの大きさの飛び地で、トルコと接する戦略的要地。12世紀頃の領主の妻を弔うモミネハトゥン廟が残っています。

アゼルバイジャンのキーワード:ムスリムもお酒

古くからワイン製造が盛んな土地柄。ウォッカ大国ロシアの影響もあり、イスラム教徒でも飲酒OK。禁酒国の南隣りイランと別世界です。

アゼルバイジャンのキーワード:キャビア高騰中

カスピ海のオオチョウザメは、ソ連崩壊後の乱獲で激減。キャビアの値段がさらにアップしています。現在は中国産の養殖物が国際市場の主役です。

アゼルバイジャンのキーワード:カラバフ馬

アゼルバイジャンのカラバフ地方特産で、駿足が自慢の競走馬。かつて欧州貴族をとりこにしました。20世紀初頭のアルメニアとの紛争のせいで、絶滅が危ぶまれています。

アゼルバイジャンの著名人

アゼルバイジャンの著名人:チェスの天才 ガルリ・カスパロフ

世界チャンピオンの座を15年間守り続けた伝説のプレイヤー。ソ連時代のアゼルバイジャンのバクー生まれ。引退後は、反プーチンの政治活動家となりました。(1963〜)

『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!

ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
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その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載

好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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