湾岸諸国の異端児カタール
カタールは首長が世襲、天然ガスで財政は豊かと湾岸諸国らしいものの、大国に囲まれた小国として生き残るため独自路線をとっています。それゆえ周辺国に嫌われたりするカタール。
カタールには古代から人が住んでいましたが、世界史上で脚光を浴びるのは16世紀、西洋が進出してからです。特にイギリスが力をもっていました。18世紀にはクウェートから移住したハリーファ家(後にバーレーン王家となる)のもと、ズバラの街が発展します。
諸部族の抗争の末、最終的に在地勢力のサーニー家がカタール首長の座を射止めました。19世紀のオスマン帝国の統治を経て、第一次大戦を機にイギリスの保護領となりますが、1971年に独立を果たします。石油を採掘し、その枯渇を見据えて天然ガス田を開発しました。
周辺国に惑わされず、わが道を突き進むカタール
1995年に外遊中の父(彼も先代を追放して地位を得ている)を追放してカタールの首長となったハマドは、イギリスの士官学校に留学した経験を持つ改革派でした。ハマドは女性参政権を認め、忖度しない衛星テレビ局アルジャジーラを設立しました。また全方位外交を展開し、親米に加え、イランやムスリム同胞団(イスラム主義を掲げる国際組織)とも良好な関係を築きました。
この先進性と外交姿勢にサウジアラビアをはじめ湾岸諸国が不満を募らせ、2017年に断交に至っています。しかしカタールは怯まず、アメリカの圧力もあって、2021年に周辺国が事実上折れて一応の和解が成立しました。そしてカタールは中東初のW杯開催ももぎ取り、強かに我が道を邁進しています。
カタールを知るキーワード
カタールのキーワード:ドーハの悲劇
1993年に日本代表がW杯出場を逃した事件は、サッカー好きの語り草。その因縁の地が、2022年に中東初のW杯開催国となりました。
カタールのキーワード:アルジャジーラ
先代ハマド首長が自費で設立したカタールの衛星テレビ局。鋭い報道で国際的な評価も高いテレビ局です。お隣サウジアラビアから目の敵にされています。
カタールのキーワード:ノースフィールドガス田
巨大なカタールの天然ガス田。世界全体の埋蔵量の1割以上を占めています。1971年に島の北東の沖合で発見され、カタール経済を支える屋台骨となりました。
カタールのキーワード:ザ・パール・カタール
天然ガス輸出で潤うカタールのドーハでは、中東でありがちな人工島建設が進行中。デザインと名前は、真珠の採取場だった過去にちなんでいます。
カタールのキーワード:やっぱり金が好き
アラブ人は金や宝石に目がありません。首都ドーハの中心部にある市場、スーク・ワキーフの宝石店街は今日もプレゼントを探す殿方で大賑わいです。
カタールのキーワード:ハヤブサさん搭乗中
アラビア半島には、ハヤブサを使う狩りの伝統があり愛好家が多くいます。カタール航空はエコノミークラスに限り、一羽だけ機内に持ち込み可能です。
カタールのキーワード:アラビアオリックス
カタールの国獣。ユニコーンのモデルとされています。狩猟のため野生種は絶滅しており、アラビア半島各国で繁殖が試みられています。
カタールのキーワード:ダマに夢中
ダマはチェッカーに似たボードゲームで、古代エジプトがルーツとも言われています。昔は、漁師たちが海辺でダマに興じる姿がよく見られました。
カタールのキーワード:外国人労働者
総人口の約9割が外国人で、多くは南アジア出身者です。建設現場などでカタールの発展を支える彼らに与えられるのは、ブラックな労働環境。
カタールのキーワード:ズバラ遺跡
カタールの北西部ズバラは、18世紀に真珠産業の拠点として栄えた街。近隣の諸勢力から何度も侵攻され、ついには打ち捨てられて廃墟と化しています。
カタールのキーワード:ガランガオ
ラマダン(断食月)14日目の夜の風習。子どもたちが近所の家を回ってお菓子をもらいます。物がぶつかる音「ガラ」が名前の由来です。
カタールの著名な人、モノ
カタールの著名人:君主 タミーム首長
2013年に父ハマドの後を継いでいます。カタールの首長にして名門サッカークラブ、パリ・サンジェルマンの実質的なオーナー。妻の数は3人です。(1980〜)
カタールの著名なモノ:アラビアン・スイーツ「ルカイアット」
カルダモンとサフランを使った一口ドーナッツ。お茶菓子で、ラマダン時もよく食べます。本体は甘くなく、ハチミツやシロップを纏わせます。
『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!
ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
本書は、これら中東・中央アジアの国々について、他の関連図書よりもわかりやすく解説する入門書となることを目指します。
その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載
好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。
掲載している国・地域
イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア
【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)
福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。
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