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シリアで続く、アサド政権の春

2011年から続く内戦以前は、シリアは中東で最も安全な国の1つでした。イスラム教とキリスト教のいくつもの宗派が同じ街に住み、観光客は世界遺産を見物しました。シリアは古代王国が興亡を繰り返した地で、7世紀にイスラムが来るとダマスカスを中心にウマイヤ朝が建ちイスラム黄金期に入ります。その後数百年は東西から支配者が来襲し、最後に西洋が来たのです。

西洋とシリアの関係

西洋列強とオスマン帝国は、第一次大戦で衝突しました。この時にイギリスはアラブ人に対し、オスマン領での国家建設を約束し、一方でフランスとはオスマン領を山分けする約束も結んだのです。結果、シリアを手に入れたのはフランスでした。

彼らは宗教と民族の対立を煽り、自らに不満が向かわないよう狡猾に統治しました。これが現代も続く、少数のイスラム教アラウィー派が、多数のスンナ派を支配する体制の基となっています。

アサド政権の誕生

フランスの支配が弱まると、シリアは1946年に正式に独立します。しかし異なる宗教と民族を多数抱える新国家はまとまらず、度重なる革命、エジプトとの連合国家形成を経て、1963年の革命でバアス党が政権を手にすると、後にアサドが主導権を握り独裁政治を行いました。

その後はアサドの息子が後継者になり、2011年に民主化運動「アラブの春」が飛び火します。政府軍と反政府軍だけでなく、イスラム国や周辺国が介入し泥沼の内戦となりました。今はアサド支配地域、トルコが支援する反アサド派地域、クルド地域に三分されています。

シリアを知るキーワード

シリアのキーワード:事実上のクルド人自治区

シリア北部は、クルド人が多い。女性が活躍するシリア未来党が結成されるも、トルコが弾圧しました。トルコにもクルド人は多く、シリア政府は彼らの伸長を警戒しています。

シリアのキーワード:北東部の穀倉地帯

シリア北東部では、小麦や大麦がたくさん作られシリア人の胃袋を満たしていました。しかし内戦で灌漑設備が破壊され、地雷まで埋められ、生産量が減ってしまいました。

シリアのキーワード:タブカダム

ユーフラテス川を堰き止めているダム。水力発電と灌漑に利用されています。重要地点のため、当然内戦で戦場となりました。ダム湖の名前は、アサド湖です。

シリアのキーワード:パルミラ遺跡

シリア中部ホムス県の世界遺産です。古代の交易拠点で、一時期ローマからパルミラ帝国が分離独立した時期もありました。平和な頃は、近くの空港から観光客が押し寄せました。

シリアのキーワード:ウマイヤド・モスク

8世紀初頭建造のイスラム世界でも最古級のモスクが、シリアの首都ダマスカスにあります。カインとアベルが刃傷沙汰を起こしたカシオン山にも近い場所です。

シリアのキーワード:家族がとても大切

アラブ圏らしく家族を大切にします。かつて結婚は親が決めるお見合いが主流で、今もその文化が残っています。週末ピクニックが定番レジャーです。

シリアのキーワード:叫びの谷

シリア南西部ゴラン高原は、第三次中東戦争でイスラエルに占領されました。谷を挟んでシリアとイスラエルに分断された家族は、拡声器で会話します。

シリアのキーワード:家庭の味マクドゥース

ニンニク、トウガラシ、ナッツを挟んだナスのオリーブ漬け。保存食として重宝されています。内戦後は、入手しやすい菜種油で作るなど工夫されています。

シリアのキーワード:ゴールデン・ ハムスター

元はシリア北西部の大都市アレッポ周辺で捕獲された珍獣。1930年代から世界に拡散していきました。飼育が容易で、愛好家や研究者に愛されています。

シリアのキーワード:イドリブ県のカフェ

北西部イドリブ県は、トルコが支援する反政府軍最後の砦。近年は潜伏中のイスラム国指導者を米軍が殺害しました。他方、市民は破壊されたビルをカフェに改装したくましく暮らしています。

シリアのキーワード:漫画『未来のアラブ人』

シリア人の父を持つ、フランス人漫画家サトゥフ氏の自伝的作品。シリアでの幼少期は、金髪が珍しがられモテたらしい。日本語版も発売中です。

シリアの著名人

シリアの著名人:独裁者 バッシャール・アル・アサド

医学部卒業後に軍に入り、独裁者の父の後を継ぎました。アサド一族はアラウィー派です。スンナ派が多い国民がデモを起こすと、アサド政権は容赦なく弾圧します。(1965〜)

シリアの著名人:作家 ラフィク・シャミ

シリアの首都ダマスカス生まれ。壁新聞とその執筆を行いますが、徴兵が嫌で1971年に亡命しました。以降はドイツで小説を書いています。代表作は、『蝿の乳しぼり』。(1946〜)

『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!

ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
本書は、これら中東・中央アジアの国々について、他の関連図書よりもわかりやすく解説する入門書となることを目指します。

その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載

好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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