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中国対アメリカは「ランドパワー」対「シーパワー」

アメリカと中国の対立に関して、地政学ではシーパワーとランドパワーの衝突とみることができます。

中国は一帯一路構想で沿線諸国を取り込もうとする一方、積極的に海洋進出を図っています。具体的には第一列島線、第二列島線、第三列島線というラインを設定し、その内側を勢力下に置こうとしています。

第一列島線付近には米軍基地がある沖縄や日本の領土である尖閣諸島、そして台湾が位置しているほか、南シナ海の全域が含まれています。第二列島線にはグアム、第三列島線にはハワイと、やはり米軍基地の置かれている島がすぐ近くにあるにもかかわらず、中国は最終的には太平洋からのアメリカ排除を狙っていると考えられています。これはまさに、大国に上り詰めた中国がアメリカの覇権に挑戦しようとする意思の表れとみなすことができるでしょう。

中国がもくろむ台湾統一

中国は地政学上、ランドパワーに分類されますが、大国化とともにシーパワーの拡大にも力を入れてきました。具体的には、陸軍主体の軍編成を海軍重視に変更して海洋進出、さらに海洋覇権を目指すようになったのです。

その覇権の野望を象徴するのが第一列島線・第二列島線、第三列島線という3本のラインであり、中国はまず第一列島線の内側の制海権の確保を目標としています。その目標達成のために重要なのが台湾です。

台湾をはじめ南西諸島を含む日本列島、フィリピンは、ちょうど中国の太平洋進出を阻むかのように横たわっています。中国としては、仮に台湾を自国に編入することができれば、第一列島線に〝穴〞を開け、次の目標である第二列島線へ進出しやすくなるわけです。

中国の「一帯一路構想」とは

現代版「シルクロード」の名のもと、中国の習近平国家主席が2013年に発表した一帯一路(いったいいちろ)構想。これはアジアとヨーロッパを結ぶ物流ルートを整備し、自国を中心に貿易を活発化させようとする地政学的戦略です。

一帯一路はユーラシア大陸を横断してヨーロッパに向かう一帯(陸のシルクロード)と、南シナ海からインド洋、紅海を通って地中海に入る一路(海のシルクロード)からなります。

一帯には6本のルート(回廊)があり、中国沿岸部からヨーロッパに延びるメインルートには、年間1万数千本もの貨物列車が走行しています。

一方、一路ではルート上の要衝に港湾を整備し、石油タンカーなどが航行するシーレーンを築こうとしています。経済が低迷している国の港の使用権を貸し付けと引き換えに取得し、中国企業を参画させて開発を行うのです。

中国は世界一の農業大国

ランドパワーの国は食糧生産能力が高く、とくに広大な国土を有する中国の食糧生産能力は世界屈指です。2018年における中国の農業生産額は112兆円で世界一。日本の9兆円に比べると雲泥の差です。カロリーベースの食料自給率をみても日本の38%に対し、中国は100%です。

生産量は高いが、食糧を海外から輸入する中国

これほど生産量が高いにもかかわらず、中国は穀物を中心とした大量の食糧を海外から輸入しています。米、小麦、トウモロコシの三大穀物をほとんど自給できていながら、世界備蓄量の半分が中国に集まっていると推計されているのです。

それらの食糧は一帯一路構想の一帯(陸のシルクロード)を形成するルート、すなわち中国・モンゴル・ロシア経済回廊や中国・パキスタン経済回廊などを通じて輸入されてきます。2020年には武漢とウクライナのキーウを結ぶ貨物列車が運行され、ウクライナ産の穀物が入ってくることになりました。

大量に集めた食糧を途上国に支援することで、世界への影響力拡大を狙っています。

中国の領土・ 領海拡張と周辺諸国の反発

2023年8月、中国政府が新しい標準地図を発表し、周辺諸国から猛反発を受けました。「新地図」には南シナ海やインド北東部などの係争地が、「領海」「領土」と記載されていたからです。

南シナ海は中国本土南部、台湾、インドシナ半島、カリマンタン島、フィリピン諸島に囲まれる海域で、海域内にはスプラトリー(南沙)諸島やパラセル(西沙)諸島が位置しています。ここは北東アジアとインド洋を結ぶシーレーンであるほか、海底に原油や天然ガスが埋蔵されているといわれており、中国とフィリピンなどが領有権をめぐって長年、対立を続けてきました。

その南シナ海の90%を、中国の新地図は領海と明記。フィリピンが領有権を主張するスプラトリー諸島も中国領としました。さらに南シナ海を囲んで一方的に主張してきた九段線を台湾東側に1本増やし、「十段線」としています。

また、新地図はインドが実効支配しているインド北東部のアルナチャルプラデシュ州の一部と、中国が実効支配するカシミール地方のアクサイチンも「領土」として記載しました。現在、カシミール地方はインド、パキスタン、中国の3ヵ国に分割支配されています。それぞれ軍事侵攻で占拠した地域で、国際法にもとづく根拠がないにもかかわらず、今回、中国は一方的に自国の領土としたのです。

従来のランドパワーに加え、シーパワーのさらなる強化を目指す中国。その勢いは止まるところを知りません。

中国が新疆ウイグル自治区に行うランドパワー的統治法

中国の少数民族のひとつであるウイグル族。強権的な中国政府により、繰り返しウイグル族への人権弾圧が行われているといわれています。

中国がウイグル族の独立を阻止しようとする理由は、地政学的に考えるとよくわかります。 新疆ウイグル自治区は一帯一路構想における一帯(陸のシルクロード)上に位置しているため、独立されてしまうと通行の妨げになります

また、この一帯は資源に恵まれており、石炭に至っては中国全体の埋蔵量の4割を占めています。失ったときの経済的損失は計り知れません。

さらに、ほかの少数民族への影響も気がかりです。チベット族などが刺激され、独立運動が飛び火すると、政府にとっては厄介です。少数民族の居住地域は他国との緩衝地帯になっていることが多く、その土地が失われると対立国と直接国境を接することになりかねません。

中国は海洋進出に熱心でシーパワー化しつつありますが、こうした国内統治のやり方はランドパワー的といえるのです。

地政学から見る中国とロシアの関係

ランドパワーの大国であるロシアと中国。両国は、約4300kmの長い国境で接しています。地政学ではランドパワー同士は対立しやすい関係にあり、実際、歴史的に対立・衝突を繰り返してきました。

そうした状況が変わったのは、ソ連崩壊によりロシアが成立した1990年代以降です。中ロ両国は根気よく国境策定交渉を重ね、2004年に強権のプーチン大統領と胡錦濤(こきんとう)国家主席が国境問題を完全に収束させました。そしてそれ以降、関係性を強めていきました

中ロ関係を結びつけた「資源」

ロシアは世界有数の原油・天然ガスの生産・輸出国、一方の中国は14億の人口を抱えるエネルギーの大量消費国で、とくに2022年のウクライナ侵攻後、EU(欧州連合)から経済制裁を受けると、ロシアは中国のエネルギー需要に助けられることになったのです。

中ロ関係を結びつけた「反欧米の権威主義」

もうひとつの要因は、反欧米の権威主義体制という政治的スタンスです。

中ロ両国は「アメリカやNATOから包囲されている」という認識を共有しています。中国は具体的に戦争状態にあるわけではありませんが、インド太平洋地域でアメリカが周辺諸国を巻き込み、軍事協力機構を形成しつつあることを脅威としています。

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