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カスピ海をめぐるイランとその他の沿岸国の主張

そんなカスピ海をめぐり、ロシア・カザフスタン・トルクメニスタン・アゼルバイジャン・イランの沿岸5ヵ国が20年以上も揉めていました。「湖だ」と主張するイランに対し、ほかの4ヵ国は「海だ」と主張したことにより、論争になっていたのです。

この問題は、地政学的に考えると理解が進みます。国際法で「海」と定義されれば、沿岸から最大12海里が「領海」とみなされます。つまり自国の範囲に含まれるため、水産資源・海底資源を優先的に確保できます。200海里(約370㎞)とされる排他的経済水域(EEZ)では、優先的に資源利用ができます。一方、「湖」と定義されれば、カスピ海からの恩恵は沿岸の国々で均等割りになるのです。

イランが譲歩し、カスピ海は「海」で決着

イランだけがカスピ海を「湖」と主張したのは、カスピ海と接する国境が他国より短く、「海」と解釈すると権益が少なくなるからです。ほかの4ヵ国は「湖」と定義された場合、自国の取り分が減ってしまうため、「海」とする立場を譲ろうとしなかったわけです。

しかし、2018年に沿岸5ヵ国による首脳会談が開かれると、イランが譲歩し、「海」ということで事実上の決着がつきました。当時はアメリカのトランプ政権によるイラン制裁の再発動があったため、イランはそれを回避しようとして現実的判断にまわったと考えられています。

この会議で締結された「カスピ海の法的地位に関する協定」の詳細は未発表ですが、次のような内容が骨子とされています。

①各国沿岸から15海里(約28km)を領海とする。
②沿岸国以外の軍をカスピ海に入れない。
③領海外の地下資源の分配については継続協議とする。

この協議結果に、各国首脳とも満足したようです。しかし、カスピ海が「湖か、海か」という定義には、直接言及はありませんでした。玉虫色の決着が再び対立に発展する可能性もあるかもしれません。

カスピ海沿岸5ヵ国のかけ引き

2018年、イランが譲歩したことにより、カスピ海は「海」となった。その結果、次の合意事項が決められた。
・資源探査:各国沿岸から15海里以内
・漁業:各国沿岸から15+10海里以内
・その他の水域:沿岸5ヵ国が共同利用

カスピ海沿岸5ヵ国のかけ引き

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なぜロシアはウクライナに侵攻したのか?中国が台湾統一を望む理由、ミサイルを発射し続ける北朝鮮、次の成長国はどこ?「グローバル・サウス」の共通点とは?アメリカの中東離れのきっかけとなったシェール革命、米中半導体戦争の最前線に立つ台湾、中国の「新地図」に怒り心頭な周辺国…などなど、世界を揺るがす国際情勢や経済事情、紛争と諸問題のエポックのなかから地理的要因のあるテーマを選び、地図や図解をつかって地政学的にひも解いた一冊です。

序章 地政学の基本を押さえよう

【地政学の概念】政治、経済、軍事、社会などより「地理」に着目することによって国際情勢を読み解こうとする学問
【バランス・オブ・パワー】対抗勢力が台頭してきたら、別の勢力と協力して叩きつぶす―。それが覇権国が立場を守る方法
【陸の力・海の力】中国やロシアはランドパワー、アメリカや日本はシーパワー。どちらが強くて優位性があるのか?
【ランドパワー対シーパワー】ランドパワーとシーパワーが何度も衝突を繰り返してきたリムランドと呼ばれる緩衝地帯
【シーパワーと世界覇権】海を制するものは世界を制する―。シーパワーを高めるために重要な海の通り道を押さえる方法とは?

第1章 地政学でよくわかる世界の最新ニュース

【ガザ侵攻】イスラエルによる強権的支配にイスラム組織ハマスがついに暴発! パレスチナ紛争に終わりはあるのか?
【ウクライナ戦争】欧米諸国の軍事同盟NATOとロシアの対立が、ウクライナへの侵略を招いた!
【米中対立】覇権勢力と新興勢力の戦いはもはや運命なのか!? 激化するアメリカと中国の対立
【北朝鮮の核兵器・ミサイル開発】核開発やミサイル発射を続け、国際社会に脅威を与える北朝鮮。その背景にみえる地政学的理由とは?
【中国による台湾統一の野望】にらみ合う中国と台湾。中国が台湾統一を望むのは海洋覇権への足がかり?
【中国とインドの人口増加】インドが中国を抜いて世界一に! アジアの二大巨頭が人口大国になったのはなぜ?
【ブレグジット】さらば大陸! イギリスが選んだEU離脱の道。その大胆な選択は正しかったのか?
【クルド人問題】日本でも問題になっているクルド人。「国をもたない世界最大の民族」が中東に生まれた原因とは?
【グローバル・サウス】国際社会で存在感を高めているグローバル・サウスと呼ばれる国々。その多くは南半球にある
【原発回帰】脱原発から原発回帰へ…。地政学リスクの高まりにともない、二転三転する世界の原発事情

第2章 大国の戦略・思惑を地政学で読み解く

【中国の一帯一路構想】ユーラシア大陸に巨大経済圏誕生? 中国が推進している一帯一路には深い闇が隠されていた!
【ロシアのエネルギー戦略】原油や天然ガスで欧州を支配。大国ロシアが展開してきたエネルギー資源の武器化戦略
【アメリカの中東離れ】シェール革命により、アメリカが世界一のエネルギー大国に。進む中東からアジアへの方向転換
【サウジアラビアの脱石油政策】石油に頼らない国家運営は可能? 世界屈指の産油国が進める脱石油政策に注目が集まる
【トルコの全方位外交】欧米ともロシアとも接点を保ち、中立の立場から外交を展開するトルコの特異な立ち位置
【BRICS+6】欧米主導の国際秩序へ物申す。新規加盟の6ヵ国を加え、勢いを増しているBRICS
【中国の食糧戦略】大量に集めた食糧を途上国に支援。食糧を武器化することにより、世界への影響力拡大を狙う中国
【グローバル・ブリテン構想】大英帝国時代の栄光再び―。日英同盟の復活も噂されるブレグジット後のイギリスの動き
【ルースキー・ミール】ロシアのウクライナ侵攻の背景にはウクライナを同じ文化圏とみなす独自の思想概念が存在していた
【イスラエルの技術開発】技術力で水資源を確保! 中東・アラブにあるユダヤ人の国、イスラエルが乾いた大地を潤す
【アメリカの極東軍事戦略】沖縄に全体の約4割が存在。アメリカが南国の沖縄に多数の基地を置いている理由は?
【QuadとIPEF】中国への対抗措置を講じる日本が積極的に動いている戦略対話と経済枠組みの実態は?

第3章 世界の経済事情を地理的視点で解釈する

【インドのIT産業】インド経済を牽引するIT産業。その成長を促進したのはアメリカとの12時間の時差!
【アメリカのシリコンバレー】アップルやグーグルが生まれたIT産業の聖地シリコンバレー。この地域のもつ地の利とは?
【半導体戦争】アメリカが死力を尽くして中国から台湾を守ろうとするのは半導体の供給不足を恐れるがため!?
【シンガポールの経済成長】東南アジアを代表する経済大国は台風の影響を受けない地理的特徴が大きなアドバンテージになった
【韓国の軍需産業】「K兵器」の売り込みに成功し、世界屈指の武器輸出大国に。韓国が兵器製造に強い理由とは?
【北極圏の経済利権争い】北極圏の氷が解け出したことで新たな航路と資源が出現し、争奪戦が激化している!
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第4章 各地で起こる紛争や諸問題を地政学で学ぶ

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【移民・難民問題】貧困や紛争から逃れて、豊かな地を目指す移民・難民が欧州各国やアメリカを悩ませる
【カスピ海をめぐる海・湖論争】湖か、海かで利権が変わる。5ヵ国が20年以上も揉めていた「カスピ海」の取り扱い
【イランによる革命の輸出】多数の紛争や内乱にかかわり、「悪の枢軸」と非難されてきた中東の地域大国イランの悪行
【カフカス地方の民族紛争】チェチェン、ジョージア、そしてナゴルノ=カラバフ…。ロシアの「裏庭」は紛争多発地
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【監修者】鈴木達人(すずきたつじん)

地理の予備校講師。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)アラビア・アフリカ語学科卒。スタディサプリをはじめ、全国の大手予備校で地理を教える。講習では100人規模の大教室が満席になる人気講師。おもな著書に『世の中のしくみが氷解する 世界一おもしろい地理の授業』(KADOKAWA)などがある。

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