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アラブ帝国からイスラム帝国へ ペルシャ人とトルコ系が伸長

反ウマイヤ勢力を利用してムハンマドの叔父アル・アッバースの子孫であるアブー・アルアッバースが挙兵ウマイヤ朝を倒しアッバース朝(750〜1258)を建てます。人々の不満が前帝国を滅ぼしたことを教訓に、非アラブ差別を廃して民族より宗教に力点をおいて統治しました。ウマイヤ朝までがアラブ帝国と呼ばれるのに対して、アッバース朝以降はイスラム帝国と呼ばれます。

アッバース朝の栄華と衰退

建国に貢献したペルシャ人は政治・軍事の中枢を占め、ウマイヤ家の生き残りはイベリア半島に逃げ756年に後(こう)ウマイヤ朝を創始、8代目からカリフを名乗りました。

アッバース朝は第5代ハールーン・アッラシード(位786〜809)代に黄金期を迎え、バグダードの人口は100万人に達したとされます。しかし死後ほどなく帝国内には独立王朝が並び立って指導者らはアミール(将軍、総督)を名乗り、カリフ位は残されたものの実権と所領は縮小していきました。

10世紀には、エジプトにシーア派のファーティマ朝が興って新都カイロを建設します。イランではペルシャ系シーア派のブワイフ朝が興って946年にバグダードに入城しました。実権を失いゆくアッバース朝の北方からトルコ系の人々が南下し、セルジューク朝が打ち建ちます。同王朝に圧迫されたアッバース朝は、モンゴルが1258年にとどめを刺したのです。

アッバース朝で発展した文化とイスラム法

アッバース朝の時代で特筆すべきは、イスラム教義と文化の発展です。イスラム法とそれより広く生活全般の規定を含む法律(シャリーア)が体系化され、これらを修めた学者たちはウラマーと呼ばれてイスラム社会の重要な階層を占めるようになりました。他にも哲学や実学、芸術分野も盛んになって大家を輩出、なかでも神学・哲学者ガザーリーペルシャ人詩人フェルドウシーらが星のごとくイスラム文明を照らしました。まるで当時のヨーロッパが薄暗く見えるほどに。

後ウマイヤ朝・アッバース朝の領土を地図で把握する

アッバース朝の領土(8世紀後半)

※拡大できます

※ウマイヤ朝の領土は、この頃のアッバース朝領土に後ウマイヤ朝・イドリース朝を加えたのとほぼ同じ範囲です。

ウマイヤ朝からアッバース朝にかけてのキーワード

シーア派とスンナ派

シーア派は、アリーとその子孫のみが預言者の真の後継者と考える少数派です。指導者をイマームと呼びます。ウマイヤ朝第2代カリフのヤズィードは、アリーの息子フサインをカルバラーで殺しました。後にシーア派信徒は、フサイン殉教をヒジュラ暦ムハッラム月(1月)の10日に大々的に追悼するようになり、現在も行われています。スンナ派は主流派でクルアーン解釈の基準として、ムハンマドの言行=スンナに従っています。アッバース朝代にスンナ派と呼ばれるようになりました。

ガザーリー(1058〜1111)

イスラム神学を確立した人物。20代前半という若さで当代一のウラマーという名声を得、アリストテレス批判を行う著書『哲学者の意図』は西洋にも渡り、アリストテレス再発見を促して西洋を驚愕させました。西洋の論理学を受け入れつつ、イスラム神秘主義によって神学を再構築しました。

フェルドウシー(934頃〜1025頃)

ペルシャの神話・伝説・歴史を扱うペルシャ語で書かれた叙事詩『シャー・ナーメ(王書)』で有名なイランの大詩人。当地で西洋におけるダンテに匹敵する名声を得ます。当代の他ペルシャ人知識人らと同じく、アラブ人・トルコ人に比べたペルシャ文化の優位と威信の高まりを誇らかに表現しています。

『地図でスッと頭に入る中東&イスラム30の国と地域』好評発売中!

ヒット商品『地図でスッと頭に入る』海外シリーズの第4弾。宗教・民族対立、石油資源競争・・でつねに紛争の絶えない中東は、昔から日本人にとって遠い存在の地域であり続けた。しかしながら、日本がもっとも石油資源を依存している地域でもあり、われわれ日本人はこの地域に無関心ではいられないはずである。また、中東および中央アジア、北アフリカはイスラム教が最も普及しており、イスラム教なくしてこの地域を語ることはできないほどである。
本書は、これら中東・中央アジアの国々について、他の関連図書よりもわかりやすく解説する入門書となることを目指します。

その国や地域の概略がスッとわかる、1カ国ごとに見て楽しいイラストマップを掲載

好評を得た「地図でスッと頭に入るアメリカ50州」「同 ヨーロッパ47カ国」「同 アジア25の国と地域」に次ぐ第4弾。日本人にはなかなか馴染みのないその国について知っておきたい知識がスッと頭に入ります。この本を読んでおけば、日本にいる中東出身の人たちともコミュニケーションが盛り上がること間違いなし。
また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。

掲載している国・地域

イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア

【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)

福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。

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